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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.408 Side.C 月下の激戦

 我とジークが城壁へと戻ると同時に、魔族側から絶叫にも似た咆哮が木霊した。


「来るぞーッ! 皆構えろぉーッ!!」

「「「うおおおおおーーっ!!!」」」


 ジークの檄にグラドの防衛隊は気勢を上げて迎え撃つ体勢に入った。


 そして咆哮が轟き響いた直後、魔族の軍勢が一斉に突進を開始し漆黒の波が我らに襲い掛かって来た。

 地響きが鳴り響き、大地を揺らしながら津波のように押し寄せてくる。


「魔術師隊! 一斉攻撃を始めるのじゃ!」


 アル爺の号令と共に、城壁の上に並ぶ魔術師達が詠唱を始めると、各々が魔術を放ち始めた。


 月下の砂漠に夥しい魔術の光が降り注ぐ中、魔族の軍勢は勢いを緩めることなく我らに迫る。

 やはり先の戦よりも上位の魔物のようだ。魔術をくらいながらも前進の歩を止めない。


 その後方には、魔族幹部ハーゲンティの姿が見える。

 ……奴は今全力を発揮出来んらしいが、それで楽観など愚の骨頂だ。


 この黒の海を屠り、ヤツをここで排除する……!


「両翼に展開の騎槍隊! 暴れまくって両端から削り取れ! ――大盾歩兵! 敵をここから後ろに通すなよ!」


「「「応ッッ!!」」」


 ジークは的確な指示を飛ばすと、戦場に展開するサルカを駆る槍の勇士達が一斉に砂漠を駆け出し、前例に並ぶ大盾の兵士達の、大盾を地面に突き立てる重々しい音が戦場に轟いた。


 我は城壁の上に戻り、アル爺ら魔術師隊と共に魔術攻撃を続ける。



 そして最前線がついに接敵すると、凄まじい金属音と怒声が響き渡った。


 人類側最前列は、支援魔術を受けた大盾歩兵隊とその後方に槍歩兵隊が控える。対して魔族軍の最前列は武装したハイゴブリン。


 ゴブリンやオークなどの最上位に君臨するハイゴブリンだ。

 本来のハイゴブリンならば我らの敵ではないが、ここに参じるのはすべて魔王の力で生み出されて強化された眷族である。その特徴に、眷族の証である赤黒き角がいずれの魔物にも生えていた。


 つまりハイゴブリンのさらに凶悪な存在が、何百という数で突撃しているのだ。


 そしてハーゲンティの采配か、最前列のハイゴブリンの得物はいずれも鈍器で、明らかにこちらの大盾戦術に対抗する為の装備を備えていた。


 その戦列破壊の悪意が、重く鈍い衝突音と共に大盾歩兵隊を襲う!


「大盾隊踏ん張れッ! 槍隊攻撃開始!」

「「「おおおおおーーーーっ!!!」」」


 敵の衝撃に耐える大盾歩兵隊の陰から、ジークと共に槍歩兵による鋭い刺突が続々と放たれていく。


 しかし――。


「グギャアアアァァアアアアアッ!!」


 大盾歩兵隊の誰もが苦悶の表情で耐え凌ぐ中、最前列のハイゴブリン達は槍を受けながらも咆哮を上げ、渾身の力を込めて大盾の兵士達を押し返し始めた。


「ぐあぁッ!」


 その一撃で大盾隊列の一部が崩れかける。しかしすぐさま他の兵士が支えに行き、崩れた部分を補完し、なんとか崩壊を防ぐ。


「――アル! 魔術支援を厚くしてくれ! 一撃が重すぎるッ!」


 ジークの切実な要請に、アル爺は即座に頷き、己が部隊に指令を発する。


「うむ! 防御支援隊は最前列の支援に専念せい! 攻撃魔術隊は攻撃を継続じゃ!」


 アル爺の命令に応じてグラドの魔術師部隊が詠唱を始めると、大盾歩兵隊の周囲に防御障壁が発生し、さらに強力な防御力を有した。


 更に魔術師部隊は攻撃魔術を魔族軍の後列へと叩き込む。

 我は最前列を見渡し、陣形が崩されそうな箇所を見抜きつつ、その原因を屠ることに専念していた。



 隙を見て我はチラと敵軍後方を見据える。

 ハーゲンティは表情一つ変えることなく余裕に立ち戦場を眺めている。


 ヤツの動向にも注視しておかねば。



 ――ガキィィィン!!

 激しい金属音が響き渡る。


「耐えろ……ッ! 槍隊突けぇい!」

「「「うおおおぉぉぉおおおおおーーーーっ!!!」」」


 ジークは大盾歩兵を支えにしつつ槍隊に攻撃を命令する。

 大盾隊の隙間から針山の如く突き出す槍が、着実に敵軍の数を減らし即座に槍が引かれた刹那、大盾隊は息を合わせて押された分を前進し、再び盾を突き出して敵の侵攻を防ぐ。


 そこへ前列のダメージを癒し支援する回復支援隊が、すかさず後方から支えるのだ。


 堅実で隙の無い砂漠の民の戦術だ。




 開戦してしばらく。戦いは順調のように思える。

 ……だが、これで済むはずはなかろう。


 案の定、ハーゲンティが掲げた腕を振り下ろすと、魔族の後方から無数の魔術が発射され、グラドの兵士達に向かって次々と襲い掛かった!


 喧騒の中、月明かりの下で双方の魔術が交差し飛び交う戦場と化し、被害は大盾隊のみならず、槍隊や、城壁の上の魔術師隊にも及んでいる。


 両翼を駆けるサルカ騎槍隊によって戦線の拡大は防がれているものの、そちらの被害も出始めているようだ。


 ……やはりハーゲンティが搦め手に徹し、こちらを疲弊させようとしているようだ。

 このまま消耗戦を続けられては、いずれはこちらが敗北し、街が陥落する事になるやもしれん……!


「ミリィ隊支援に復帰します……!」


 その時、度重なる支援による魔術不足で、他の支援部隊と交代していたミリィ・エメラルダがアル爺の下に参上した。


「おぉミリィや、よくぞ戻った! 最前線の負傷者を頼むぞい!」

「承知しましたぁ!」


 アル爺に指示を受けたミリィは部隊を連れて城壁を飛び降りて最前線の治療に奔走し始めた。

 彼女の神聖魔術はかなりのものだ。疲弊を見せ始めた前線の体勢は持ち直せるだろう。


「チギリ殿よ。このまま長引けばすり潰されかねん! ここは儂らでデッカイのをお見舞いしようぞ!」


 白賢のアルマイトは我に向かい提案してくる。


「了解した。だが魔力枯渇を起こさぬようにな、ご老体?」

「かっかっか! 心配ご無用じゃ! 耳長の大先輩よ!」


 我の軽口に対してアル爺は豪快に笑い軽口の返答の後、杖を掲げると魔力を集中し始めたのだった。

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