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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
415/417

Ep.406 Side.C 黒き波、再び

 夕暮れが空を覆う頃。


 グラドの衛士達の奮戦により敵の襲撃を凌ぎ終え、グラドの街は軍人が喧喧囂囂と動き回り、住民たちは恐怖に怯える中、更なる攻撃から守りきるべく防衛態勢を整えようとしていた。



 我は軍の司令部に宛てがわれた一室にて、ジークの下に招集された指揮官達に混じり今後の方針について話し合っていた。


「――今回の襲撃はなんとか凌ぐ事が出来たが、俺はどうもこれだけで終わるとは思えん。皆の意見を聞きたい」


 ジークはグラドの現状を把握しつつ、会議室に集まった諸将に問う。


 すると一人の女性士官が、緑色の長い三つ編みを揺らしながら一歩前へ出る。


「恐れながら、発言よろしいでしょうか?」


「アル爺の直属部下の……ミリィ・エメラルダ魔准尉だったよな? 聞かせてくれ」


「はい。お見知り置きありがとうございます。これは私見ではありますが……」


 ジークが頷くと、ミリィ・エメラルダは続ける。

 彼女は白の軍服を着用しており、腕には治療技能持ちであることを示す腕章、そして背には長杖を差している。どうやら彼女は神聖魔術の使い手らしい。


「先の戦いで、東門と西門に押し寄せた魔物に偏りが見られました。東門の方が明らかに魔物の勢いが強く、統率が取れているかのような動きを見せていたように思えます。しかし西門では、魔物は比較的少なく闇雲に突撃してくるばかりでした。……推測ですがもしかしたら、先程の戦い自体が……」


 そこで言葉を切ったミリィが躊躇いがちに口を噤む。


「……こちらの力量を試していた、という可能性を、お主は考えておるのじゃな?」


 アル爺が彼女の代わりに言葉を繋いでいく。


「……はい」


「だとすれば第二、第三波と続く可能性がありますね……」


 ウォードも顎に手をやり思案げに唸る。


「確かに、指揮官らしき魔物は撤退したようだしな」

「先の戦闘の折り、物見からは大量の魔物が突然砂から這い出てきた、との報告も上がっています。……それがまた起こるとするなら、今この時にも敵が現れることも考えられる!」


 ジークとウォードの言葉から、我も事態の深刻さを察する。


「ミリィ、進言に感謝するぞ! 俺達はその線で想定し、防衛体制を急ぎ整えろと伝えよう! ――伝令、頼んだぞ!」

「「はっ!」」


 ジークの命令に二人の兵士がグラド式の敬礼してから退室する。


「ミリィよ、お主も負傷兵の治療に戻ってくれるかの? お主の治癒の力が今、必要のようじゃ」

「はい!」


 アル爺の言葉に、ミリィは力強く頷くと、会議室を後にした。



「さて、だ。遅れちまったが……黎明軍からの助力に感謝する、チギリ殿。だがこれで終わりとも思えんし、このまま引き続き共に戦ってくれないか?」


 ジークは我に向き直ると、首長然とした表情で感謝を告げ、改めて協力を要請してきた。

 彼の側近であるウォード、アルマイトも同様の表情を見せた。


「無論、協力させてもらうよ。我はその為に馳せ参じたのさ。……今世界中の主要都市で同様の事態が起きているのだ。ここで抵抗の意思ある同志を失う訳にはいかぬのでな」


 ――魔族領から立ち上った禍々しい光。その魔王の檄に呼応するかのように各地で突如とした魔物が大挙して押し寄せた。


 ついに魔王が本腰を入れて攻勢に転じてきたのだ。


 以前からその兆候はあった。今まで魔王軍の動きが緩慢であったのは、蓄えた戦力を世界各地に潜ませる為だったのならば合点が行く――。


「うむ。助かるぞい! お主程の魔術師と肩を並べて戦えること、老骨ながら震えるものがあるわい!」

「頼もしい限りですチギリ魔大将殿。改めて宜しくお願い致します」


 アル爺の賞賛に、ウォードが同意し、ジークも笑みを浮かべる。


「正式な手続きは事態が安定してからになるが、俺達グラドの民も黎明軍に協力する事を、俺ジーク・ディルヴァインの名においてここに表明するぜ!」


 ジークはそう宣言すると、堂々たる態度で手を差し出してきた。


「獅子奮迅の勇士達の協力、誠に有難い。共に難敵を屠ろう。宜しく頼むよ」


 我はジークの手を固く握り返したのであった。



 その後、我はジークに通信用の精霊具である言霊返しを渡し、協力体制を確立すると共に、アル爺やウォードといった参謀陣と共に街の防衛について話し合いを進めていった。


 しかし、やはりと言うべきか。魔族は我々に立て直しの暇を与えてはくれないようだ。


 会議を終えて一時解散と相成って間もなく、物見偵察からの報告が舞い込んだのだ。


 再び魔物の大軍が砂の中から這い出ては、軍勢と成して進軍を開始し、東門と西門のそれぞれに敵軍が迫っていると報告が入る。


 周囲が慌ただしく動き出す中で、ジークが諸将らに指示を出す。


「よし! 全軍に緊急招集をかけろ! 迎撃体制を整えるんだ!」


 その命令が下ると同時に、兵士達が我々に敬礼し、慌ただしく駆け出していった。


「どうやら今回は東西門共に、敵の戦力は強力なようです」

 

 ウォードは冷静に状況分析をするように、状況を語る。


「本気で潰しに掛かってきたってか。……ウォード。西門の指揮を頼む」

「……了解しました。ご武運を!」


 ジークの言葉と共に、覚悟を瞳に宿して強く頷いたウォードは会議室を後にし、各部隊へと伝達に向かっていった。


「俺達は東門だ。さっきよりもヤバい魔物がゴロゴロいやがるそうだ。それにどうやら今回は魔物の軍の中に指揮官らしき姿を発見したらしい」


「その指揮官は魔物か?」

「報告によると、人型だそうだ」

「――ッ!」


 その報告を受けて思わず息を呑む。


「……魔族幹部の可能性がある」


 ……亡者平原での戦いが脳裏を駆け巡り、魔族幹部の圧倒的な力が思い出される。


 我は知らずのうちに拳を強く握り締めていた。


「……その指揮官の容姿、白髪だったか?」

「いや、長い黒髪の男の姿だと」


 亡者平原で対峙した魔族幹部ベリアルでもなく、ファーザニア共和国の砦を蹂躙したという紫髪の魔族幹部リリスの容姿とも異なる。


 ……まだ知らぬ魔族幹部だろうか。ならば心して掛からなければ。


「ヤツら幹部の無茶苦茶な力は聞いている。だが俺達は負けられねぇ。俺達の背には守るべき民が居るんだからな」

「その通りです! 怯まず攻め立てようぞ!」

「我らの民を守るぞ!」


 ジークの言葉に諸将達が賛同を示し、怖気付く様子は微塵もなく、むしろ奮起する声が次々と上がり、彼らの士気は高く保たれていた。


「ほっほ! 血が騒ぐわい!」


 アル爺も豪快に笑ってみせた。


「よし! 各自持ち場に着け! 街も守ってついでにここで魔族幹部を討ち取るぞ!」

「「「おーっ!」」」


 ジークが号令を掛けると、全員が力強く応えて部屋を後にし、我もそれに続いたのだった。

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