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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.401 光の祖精霊との邂逅

 神殿の中は外側と同様、淡く光を湛えており、その清廉さを強調するような清潔感溢れる空間となっていた。


 そして神殿の内部は外装とは違い、石の床に天井が石壁という一般的な造りをしており、床には青色の絨毯が敷き詰められていた。


 しかしよく見ると石材からは淡い光が漏れ出しており、それはまるで蛍の光のような印象を僕達に与えていたのだった。


 双子の精霊に案内された僕達は、大広間からいくつかの廊下を進み、更に階段を上り、その先にあった一つの部屋の前へと辿り着いた。


「祖精霊さま……下界よりのお客人をお連れしました……。入ります」

「…………」


 中からは何も返事は無かったが、双子の精霊は構わず扉を開け、僕達を招き入れた。

 そこは天井の高い部屋で中央には巨大なベッドが置かれており、一見プライベートな場所のような様相だった。


 だが中には誰もいない……。


 すると、双子の精霊たちが部屋の奥の柱へと歩いていき、その奥の何かを掴み……。


「あっ……ちょっ……あなたたちっ……やめっ……引っ張らないで……いや……あのっ……」


 柱の向こうから聞こえてくる声は女性のもので、双子たちに無理やり引っ張り出されたのか、その姿を表した。


「ひ、ひぃぃぃぃ! ひ、ひと! 人がいっぱいいるっ!」


 僕達を見るや否や悲鳴をあげて柱の奥に隠れようとする女性が、双子たちに掴まれてジタバタしている。


 白に近い金髪をボブにしていて、前髪で完全を目を隠している華奢な体つきの女性だ。

 双子精霊たちと同じように、白を基調とした服を着ており、その下からは素足で白い足が覗いていた。


「な、ななななんで人間がこここんなところに……な、なんで! ……飛んで来れないはずなのにっっ」


 結局双子たちの後ろに隠れてこちらを覗くように顔を出して、口をパクパクさせている。


 彼女が光の祖精霊で間違い無さそうだ。


「「祖精霊さま」」


 双子の精霊が無表情で光の祖精霊の肩をむんずと掴むと、彼女を前に引きずり出した。


「ヒィィィィィ〜」


 彼女は恐怖の表情で悲鳴に近い声を上げてまた逃げようとしたが、二人はしっかり掴んで離さない。


「あ、あのー……」

「ビィィィィ!」


 僕が話しかけても怯えるばかりで、僕達は顔を見合わせる。

 アズマは肩を竦めて苦笑し、サリアは困った顔だ……。


「まったく……。少しは落ち着きなさい?」


 リーヴァがそう言いながら彼女の前に進み出る。


「ッ!!! 水の……お姉さま!」


 彼女はリーヴァの声に顔を上げ、目に留めると顔を輝かせて一目散に駆け出すと、光の祖精霊の周りに謎の光が煌めいた。まるで後光だ。


 そのままリーヴァに抱きついて、人目憚らずその胸に頬擦りをしだした。


「お会いしたかったですーーん! 水のお姉さまあああ」


 ……なんだこの光景は……。

 リーヴァは光の祖精霊の頭をなでながら僕を見て、なんとも言えない表情をしている。


「光ちゃん? 皆が見てるわよ?」


 リーヴァがそう声をかけると、光ちゃんはハッと顔を上げて僕達の方を振り返り……。

 また悲鳴をあげた……。


「……ひぃぃぃっ! なんで……どうしてこんなに人間が……ッ!?」

「光ちゃん、落ち着きなさい。今日は貴女に用があって来たの」


 リーヴァが落ち着かせようと声を掛けるも、彼女はリーヴァの陰からこちらをチラチラと伺いながら震えているだけで、まったく会話の糸口が見いだせない。


「聞いてはいたけど……こ、これは想像以上の……」

「人見知り……だな」


 アズマが目の前の様子にそう呟くと、シェーデが同意する。


「お姉さまがわたしに!! なんですかなんですかぁ!?」


 光の祖精霊はリーヴァに抱きついたまま喚いている。


「厳密には私ではなく、私の主が、ね」

「わっ……」


 そう言うとリーヴァは僕の腕を掴んで光の祖精霊の目の前に引っ張り出した。


「……ひぃっ!?」


 光の祖精霊は僕に近づかれたせいか、また柱の後ろまで下がってしまうが、すかさず双子の精霊に肩を掴まれるとまた僕の前に引き出されてしまうのだった……。


「ううぅ……。……あ、主って……、お姉さま! こ、こんな人間の主なんて、一体どーいう事ですかぁ!」


 双子に肩を掴まれたまま、光の祖精霊は涙目になってリーヴァに訴える。


「……あ、あの、とりあえず話を……」

「う、ううううるさいッ、こんな人間にお姉さまが絆されるなんて何かの間違いだ嘘だ認めない呪う呪う呪う……」


 光の祖精霊は呪詛とも思えるような言葉を、恨めしそうな気配で僕に向けてぶつぶつ言っている……。


「……おい、コイツ本当に光の祖精霊なのかよ。闇の間違いだろ……」


 光の祖精霊の病みっぷりはウルグラムすらも呆れているようだ。



「――いい加減にしなさい。私の主へのその態度は見過ごせないわよ」


 だが、その空気を一変させたのは、殺気すらも込められたようなリーヴァの怒気だった。


 普段閉じられた瞳は開眼し、彼女の全身からは魔力の奔流が迸り、部屋全体を冷ややかな空気の波が覆い、その気配に僕達は反射的に身構えてしまっていた。


「――ひぃッ! ……お、おおおお姉さまごめんなさいぃ……もうしません嫌わないでぇぇぇ!」


 光の祖精霊はその威圧感を浴びて怯えたように震え上がり、リーヴァに飛び付いて必死に許しを請うていた。前髪に隠れた双眸から滝のような涙を流している。


 するとリーヴァは威圧を霧散させると、瞳が閉じられると穏やかな表情になって、光の祖精霊をなだめるようにその頭を撫でた。


「ぅううぅ〜〜、お姉さまぁぁ〜〜っ」

「はいはい。――さあ、クサビ?」


 リーヴァにそう促され、僕は改めて光の祖精霊の顔を真正面から見る。


 ……まだちょっと震えているけど、とりあえず話すチャンスではあるだろうか……?


「はじめまして……クサビ・ヒモロギっていいます。……その……どうかお見知りおきを」


 僕はそう言って頭を下げる。すると後ろで様子を見守っていたアズマ達が一歩僕達に近寄る。


「あ、アンタ達はダメッ! こっちくんなぁぁ〜〜っ」


 光ちゃんは怯えながら僕達を見回して悲鳴を上げた。


「アンタは少しマシだけどダメっ! アンタは綺麗でなんかムカつくからダメ! アンタはよく分からないからダメ! アンタは自信満々な感じがなんか負けた気になるからダメ! ……アンタは怖すぎるからヤダーッ!」


 光の祖精霊は左側から、アズマ、サリア、デイン、シェーデ、ウルグラムにそれぞれ指差ししながらそう捲し立てたのだった。


 さすがのアズマ達も反応に困っている。デインなんて精霊に拒絶されて悲壮感が漂ってるじゃないか!


「あ、あなたはお姉さまの主だから……。…………は、話をしてみなさいよ……ホントはヤダケド」

「光ちゃん?」

「ひぃぃぃ、なんでもないですお姉さまぁぁぁ〜」


 そんなやりとりがしばらく続いた後、僕は根気よく説得して、なんとか落ち着いて話をするところまで漕ぎ着けたのだった……。

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