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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.395 阻むは双子

 間近まで来ると、その神殿のような建物からは、優しく照らすように微かな光が漏れていた。

 光の属性を長い時を掛けて溜め込んだ石材なのだろうか、神殿全体が淡い光を放っているようで清らかな空気が漂っている。


 そして入口に差し掛かると、光の粒子がどこからともなく現れ、それは僕達を阻むように集まっては形を象っていく。


 やがてそれは二つに分かれ、それぞれ人の形になったかと思うと、そこには白で統一された軽装の装束を身に着けた、瓜二つの顔付きの、まるで双子のような少年と少女の姿が現れた。


 目に見えるということは、光属性の中位かそれ以上の精霊だ。門番的な存在だろうか……?


「「待つのだ。人の子よ」」


 その精霊たちは寸分違わず同時に同じ言葉を口にした。


 白髪に瞳孔の色も真っ白な二人の精霊は、無表情のまま僕達を見据えている。


「ここは我らが祖がおわす神聖なる領域」

「許し無きものは何人も立ち入ることまかりならぬ」


 少年が語り出し、続いて少女が言葉を紡ぐ。

 感情もないような、抑揚も感じられない言葉口に、僕と仲間達は顔を見合わせた。


「やあ。僕はアズマ。一応勇者なんて呼ばれていてね。光の祖精霊にお願いがあってやって来たんだ」


 すると、一歩彼らに歩み出たアズマが二人に話しかける。


 しかし二人は何も応えないまま、僕達の様子をじっと見ているだけだ。


「そも、人の子が何故ここにいる」

「たとえ空の支配者たる龍であろうとも到達すること能わぬこの地に」


「…………」


 二人の精霊はセイランにも目を向けてそう告げる。

 セイランはそれに反応はせず、事の成り行きを見守ることにしたようだ。



 なるほど。やはり彼らは僕達を歓迎していないらしい。


 すると今度はデインが前に出た。

 彼は二人の精霊に対して深々と頭を下げる。


 精霊と親和性の高いデインならば、もしかしたら話をしてくれるかもしれない。


「………………」


 デインと精霊達の間に無言の空気だけが流れる。


 ……ああそうか! 下位精霊とも会話ができるんだ、きっと念話のようなもので説明してくれているに違いない!

 頼むぞ……デイン!


「………………」



 しばらく沈黙が続いたあと、デインがこちらに振り返った。


「……デイン? こちらの方々はなんと?」


 サリアが少し不安そうな声で問いかけると……。


「…………」


 デインが肩を落として、しゅんとする。

 ……どうやらダメだったみたいだ。


「如何なる理由があろうとも」

「許し無きものは何人も立ち入ることまかりならぬ」


 冷たく言い放つ少年精霊の後を、少女精霊が先程と同じ言葉で継ぐ。そして――。


「「立ち去れ」」


 二人は声を揃えてそう告げたのだった。


「まどろっこしいことしてんじゃねぇ――」

「――馬鹿者! 事を荒立てるなウルッ! ――クサビ、こうなれば彼女に希望を見出すしかないのではないか?」


 業を煮やしたウルグラムが苛立ちながら前に出ようとすると、それを制止したシェーデが僕を見る。


 光の祖精霊本人に会ってから頼りたかったけれど、もう仕方がないだろう。


「……わかりました」


 僕は頷くと精霊たちに向き直り、召喚の為の魔力を練り始める。


 二人は僕が何かするのを察知したのか、警戒するように身構えた。


「何をするつもりか人の子よ。――……っ、誠に人なのか?」

「今一度問う……っ。其方は何者か」


 僕の中に宿る祖精霊達の魔力を察知したのだろう、二人の精霊は明らかに動揺の色を浮かべ、警戒心を露わにした。

 

 僕はその問いに答えず、集中しながら自分の魔力の中から水の魔力を集めて彼女を思い浮かべる……。


「僕はクサビ・ヒモロギ……人間だよ。貴方がたの主にどうしても用があるんだ」

「「…………」」


 判断に迷っている精霊達を知り目に、僕は魔力を練り上げ続ける。

 そしてそれが一定を超えた時、自分の中で『呼び出す確信』を得たのだ。


「――来てくれ! リーヴァ!」


 そう唱えると同時に僕は手をかざした!


 その瞬間、かざした手から青色の眩い閃光と共に水が湧き出て、そこから水塊が出現する……!


 そして瞬く間にそれは人の姿をした女性の姿へと形を変えていき、やがてそれは静かに地へと降り立った。

 僕達の切り札、水の祖精霊リーヴァの顕現だ。


「貴女さまは――っ!」

「清廉たる水の祖精霊さま……!」


 二人の精霊はリーヴァを見て驚きの声を上げるも、すぐに跪いた姿勢で頭を垂れる。


「久しぶりねあなた達。ここは相変わらず素敵だわ」


 リーヴァは二人に微笑むと、僕達の元へ歩み寄って来た。

 そして僕を挟んで、二人の精霊の前へと立つ。


「お久しゅうございますっ!」

「その者の中に祖精霊さまの気配を感じました時、よもやと思っておりましたが!」


 少年と少女が顔を上げ、キラキラとした目で嬉しそうにリーヴァを見つめていた。


 ……君たちちゃんと喋れるんだな……。さっきまでの態度は一体なんだったのか……。


「彼らは勇者達よ。……そしてこの子が我が主……♪ だから警戒は無用よ」


 そう言ってリーヴァは僕の背中に手を回してくる。

 ……平常心。平常心。


「……はは。僕らの紹介も雑だなあ」


 苦笑気味のアズマがぼやいたのが聞こえた。隣でサリアやシェーデも苦笑いだ。


「祖たる方が人の子と契約を……!?」

「か、畏まりました。そちらの人の子らを信ずると致します」


 リーヴァの言葉を聞いて、二人の精霊は素直に受け入れてくれたみたいだ。


 すると、リーヴァはようやく僕から離れるや、今度は打って変わって凛々しい顔つきになり二人の精霊へと顔を向けた。


「それじゃ、ここを通してくれるかしら? 光の祖精霊に会わせて頂戴」

「我はここでしばし休ませてもらうぞ。何かあれば呼ぶがいい」


 セイランがそう言うとその場に座り込んでしまった。

 こんな高いところまで飛ぶのは流石に疲れたのだろう。無理もない。


 そしてリーヴァの言葉に少年と少女もまた表情を改めて初対面の時のような表情で応えた。


「「承知致しました」」


 そして二人は入口の左右へと道を空け、僕達に向けて歓待するかのように手を広げ……。


「では、水の祖精霊さまとお客人」

「どうぞこちらへ。僭越ながらご案内致します」


 そう言って僕達を招き入れてくれたのだった――。

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