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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.394 藍の空に浮かぶ島

 やあ、今日も早いね。

 そんなに息を切らせて……走ってきたのかい? ……ん? 僕もそのお話のクサビみたいに空を飛べたらいいのにって?


 ははっ! そうだね。

 でもそれだと、もし今まだ魔術が残っていたなら、私はもっと早くここで待っていなくちゃいけなくなるね。なんせ君が文字通り飛んできてしまうのだから。

 昔の人は凄いよね。


 さあさ! 続きを読んでいこうじゃないか。

 なんと少年だったクサビが大人になって登場だよ!


 しかもかなり強くなって帰ってきたんだ。

 着々と魔王に対する力を備えてきているね。……え? あらすじはいいから早く続き聞かせてって?


 オーケー! ではご清聴願おう。勇者が向かうは遙か彼方に浮かぶ天空島。その物語から!











 ――陽光に照らされた平原を過ぎ去り山々を越えて、僕達は蒼空の只中にいた。


 雲よりも高く上昇を続けるは、空の色と遜色ない程に美しい龍の蒼き鱗をまとったセイランだ。


 リデルフォン王国領から、次なる目的地の天空島へと満を持して旅立った僕達は、水の祖精霊たるリーヴァを連れ、風の祖精霊ゼファイアの力によって更なる飛翔能力を得ることで、到達すること叶わなかった遥か高みへと到達していたのだ。


 地上からは視認することすら叶わなかった天空島。

 それはどうやら光の祖精霊が光に細工をして、屈折作用によって地上からの観測を阻害していたようだ。



 澄み切った水色の空をさらに高く登ると、次第に濃い藍色の空へと変わり始め、眼下に見える大陸はまるで模型のように小さく見えた。


 超高度の世界はこんな景色なのだと心が動くも、空気が薄い所為か少し息苦しい。


 だけど、ここまで来た甲斐はあった。光の屈折も見る角度を変えれば視認できる。ということだ。


 

「――島のような物が浮かんでいる! きっとあれに違いない!」


 アズマが前方を指差して叫ぶように告げる。

 それは藍の空の中ぽつんと佇むように浮かんでおり、皆も既にそれを目に捉えていた。


「本当にあんなものが浮かんでいるとは、感慨無量だな……」


 シェーデが感心したような声を上げた。


 僕らの視線の先にあるのは円形の浮遊島。

 大きさはそれ程ではないが、言うなればそう、庭園のような島だった。


 そんな島の中央に神殿のような建造物があるのが遠目にも見て取れる。

 光の祖精霊はきっとあの神殿にいるに違いない。


《いいかい? 光ちゃんはホントに繊細だから……。ホントに、気をつけるんだよ!》


 南西大陸へ向かう前にはいつの間にかどこかへ行ってしまっていたゼファイアからの念話での念押しが僕の頭に響く。

 なんだか切実な声色だ……。


《う、うん。わかったよ》


《大丈夫よクサビ。私がいるのだから、安心なさい? あの子と会えたらすぐに私を召喚するのよ》


 水の祖精霊リーヴァも念話でフォローを入れてくれる。


 ここまでの道中で光の祖精霊のことは聞いている。かなりの人見知りで、引っ込み思案な性格の持ち主らしく、アズマ達が以前にも接触を試みたそうだけど、結局それは果たされなかったそうだ。


 唯一、リーヴァにだけは心を開いているらしいが、果たして大丈夫なのだろうか……。


「主よ、そろそろ着くぞ」


 念話でやり取りしていた僕の意識に割り込むようにセイランが知らせてくれた。


「あまり刺激させないように、島の端に降りてくれる?」

「承知した」


 僕が伝えるとセイランは翼を大きく振って、島の中央から少し離れた場所に降下していったのだった。



 そして天空島の地に降り立つと、デインが周囲を伺うように見回しながら口を開いた。


「多くの……光の精霊たちが……」


 デインの言葉に僕も辺りを見渡してみるが、木々や草木が生い茂る景色以外に変わった存在は見当たらない。


 でも何か気配だけは感じる。きっとたくさんの光の下位精霊が様子を伺いに集まっているのだと思う。


 デインは手のひらを器のように広げて口角を上げて微笑んでいた。下位精霊を見ることが出来て、その彼らと戯れることが出来るのはちょっと羨ましい。


 デインの様子からして、精霊達からは警戒されているという感じじゃなさそうだ。


「素敵なところね……」


 サリアが感慨深げに呟いた。

 ここは地上のどの景色にも無い不思議な空間だ。


 澄み切った空気と、緑豊かな風景。

 そして幻想的に輝く小さな光の粒が宙を舞う姿はまさに神秘的な空間そのものだ。


「そういえばここに着いてから息苦しくないね」

「そうだね。精霊以外にも生き物もいるし、まるで楽園のようだね」


 僕はアズマと顔を見合わせて笑った。


「……おい、観光気分かよ。さっさと行くぞ」


 ウルグラムが呆れた声で促すと、つい浮かれていた僕は気持ちを切り替えて神殿の方を見やる。


「よし……行こう!」


 果たして首尾よく事が運ぶだろうか。

 僕は皆に声を掛けて歩き始めるのだった――。

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