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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.387 勝つ為の矜恃

 ――そしてそれは黒い霧と化し、霧散した。

「ッ!」


 彼は目を見開いている。

 目の前の死体が偽りだということに気がついたのだろう。


 そしてその時僕は――!


「ウオオオオオッ! ウルグラァァァムッ!」

「――ッ!?」


 上空から一気に加速して接近した僕は、渾身の力を込めて解放の神剣を振り下ろしたッ!


「手応えが軽いと思ったぜッ! とんだ小細工だったが甘ェ!」


 彼は即座に反応し、僕よりも早く斬り上げを繰り出す!

 その刃は僕の剣をすり抜け僕の右肩を斬り裂く!

 その瞬間、僕の体は影を纏い闇色の霧となり、消え去った。


「これも偽物かッ」


 そして次の瞬間――!


 ――ギィィン!


 ウルグラムの左側から低空飛行で勢いをつけて、僕は熱剣状態で斬り上げを放つと、金属の衝突音と共に彼の左の剣を弾き飛ばすことに成功した!


「……チィッ!」


 彼は舌打ちをすると残った剣を振り上げて僕を狙うが――


「――はぁぁぁっ!」


 僕は更に上空へと飛翔して、ウルグラムの頭上からの斬撃を叩き込んだッ!


 その斬撃は一度では収まらない。

 何故なら、僕は体ごと縦回転していたのだから。


 これは以前、隙が大きすぎて実戦には不向きだと、あまり使わないできた僕の技だった。


 だが、風の力を得た今ならば……!


 僕はまるで一つの刃のように、剣を突き出しながら回転する!


 アグニの魔力で攻撃力を上げ、ゼファイアの力で回転を制御してようやく完成に至ったのだ!

 さらにリーヴァによる修行で備わった精密さで、相手への負担が最も多い箇所に狙いを定めた!


「グッ……ォォォオオオオーーッ!」

 ウルグラムの咆哮と、金属同士がぶつかり合う音が響き渡り激しい火花が迸る!


「うわああああッッ!」


 僕は叫びと共に回転を止め、すぐさま逆に体を捻り逆回転で斬撃を浴びせたッ!

 彼はそれを防ごうと剣の向きを構え直した――が間に合わないッ!


 ギィイン! という甲高い音が鳴り響いて、ウルグラムの剣は弾かれ宙を舞った!

 そしてウルグラムの後方で弾き飛ばされた剣が地面に刺さった。



 ……僕はゆっくりと着地する。

 そこには地に膝を着いた無手のウルグラムだけとなった。


「……ハァ……ハァ……」


 僕は肩で息をしながら剣を下げて、彼の様子を見る。


 勝負、あった……。

 そう判断し構えを解いた僕はウルグラムに手を差し出そうとした。


 ――ドゴッ


「ぐはっ」


 だがその時ウルグラムの右ストレートが僕の顔面を捉えた……!


 数メートル飛ばされる程の拳に、僕は思わず地面に倒れた!


「オイ……何終わった気でいやがる……ッ! 武器はまだあんだろうがッ」


 ウルグラムの怒りに満ちた声が響いた。

 痛みを堪えながら顔を上げると、彼は拳と拳を打ち付け闘志を昂らせている……!


 僕はその尽きない戦意に、ハッとした。



 ……ウルグラムは僕に戦いを通じて教えたかったのかもしれない。


 命ある限り、諦めない限り戦いは終わらないのだと。武器とは形あるものでは無い。その心こそが己の武器なのだと……。



 僕はその時初めて、心の底からウルグラム・カリスタという人間を尊敬したのだ。


 得物を失えば両の手がある。足がある。

 それすらもないのなら牙がある……と。


 無様に見えようと、最後に立っていた者こそが勝者なんだ。彼はずっとそうあり続けてきたのだろう。


 ……僕は立ち上がる。

 そして解放の神剣をその場に突き刺し、僕は拳を強く握って構えた!


「ハッ……。やっとわかったかよ」


 そう言うとウルグラムはニッと不敵な笑みを浮かべ、拳を鳴らして僕の前で構えるのだった――。







 私は街の外を空を飛んで二人を探していた。

 遠くの丘の上で赤色の光や何かが爆発しているような音も聞こえる。


「あ……っ!」


 あの丘に居るのだと確信した私は急いでその場へ向かった。



 そして辿り着いた時、私が見た光景は……。


 大の字になって倒れている人影と、近くで胡座をかいて座っているさらに大柄の人影だった。


「あ、あなたたちっ! 一体何をしているのっ!」


 私は彼らの側に降り立ち声をあげた!


「ん、おォ。サリアか。……見りゃわかんだろ」


 胡座をかいている人物、ウルがぶっきらぼうに言う。……特に苛立っている様子は無い。


 そして私は倒れたままのもう一人の人影に目をやった。


「く、クサビ!? た、大変っ」


 私は慌てて倒れているクサビの元へ駆け寄り、彼に声をかけた。


「あぁ……サリア……。どうしてこんなところに?」


 倒れている人物、クサビは……って、本当にクサビよね?


 顔が腫れ上がっていてあちこちが傷だらけだったのだ。だけどこの青い髪と三つ編みは正しくクサビの特徴そのものだ。


「こ、こんなボロボロで……! 今癒すから少し待っていてねっ」


 私はクサビの体を抱き起こして膝枕をしてあげ、そして治癒魔術を発動させたのだった――。







 突然やってきたサリアによって怪我を治療してもらった僕とウルグラムは、サリアのお説教を甘んじて受けていた。


 ウルグラムとの拳での戦いになってからはもうボロ負け。

 まるでボロ雑巾のようにされて僕は地に倒れ伏していたんだ。


「まったくっ……! 二人でこんなところで危ないことしてっ! ウル! こんなにすることないでしょう!?」

「あー……。わーったよ……」


 ウルグラムは気まずそうにしながら吐き捨てる。


「クサビもよっ!? ウルからの用事なんて荒事以外ないでしょう? どうしてついていったりしたのっ!」

「……おい」


 そして僕にまでお説教が飛んできた。

 ウルグラムが不服そうな声を上げたが、サリアに鋭い眼差しを向けられ目を逸らしていた。


「……す、すみません……」


 ウルグラムはそっぽを向いていたが、僕は正座で頭を下げるしかなかった。

 怒ったサリアの剣幕は、どこかサヤにドヤされている時みたいで、肩身を狭くして縮こまっていた。



 それから一頻りお説教を賜った僕達は、街に帰る事にした。


 その帰りざま。


「――クサビ。忘れんなよ」


 そう言って、僕の肩に拳を押し付け、そのまま押しのいて歩いていった。

 ウルグラムという男の熱い気持ちが、体に刻み込まれていくようだった――。


「――。……はいッ!」


 僕はその大きな背に返事をすると、アルスソットへと歩き出す。


 その様子をサリアは首を傾げていたが、僕は頭をかいて誤魔化すのだった。

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