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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.378 見知らぬ既知の地

 ……と、今日は区切りがいいし、このあたりにしておこうか。


 ……え? ろくでもない精霊もいるもんだって?

 ははは。確かに彼は風のように気まぐれな精霊さ。だがそこが魅力なんじゃないか。他の精霊にはない奔放さがまた。

 君もまだまだ見る目がお子様だねぇ。


 早く続きを読めって? ふふ。すっかりこの物語の虜だね。語り甲斐があって私も嬉しいよ。

 だけど今日はもう遅い時間だからね。続きはまた明日だ。


 さあ、暗くなる前に早くお家へお帰り。


 なに、物語の結末を焦ることはないさ。この平和な世界は、この物語のように恐怖に包まれたりはしないから……。



 じゃあまた明日! 私はいつでもこの木陰で待っているからね。



 ……僕はもうしばらくここで、この風に包まれていよう。











 ゼファイアとの契約から翌日。

 僕達はセイランの背に乗って南東大陸の反対側に位置する南西大陸へと、横断飛行の途中だった。


 道中は魔物による襲撃もなく、快適とは言えないが順調に目的地へと進んでいた。

 どうやらさすがの魔物も、半精霊と化した蒼龍相手には敵意を抱くことすら起きないようで、セイランの存在はさながら魔除けのようだと、僕達は蒼き龍鱗を撫でて労った。


 ゼファイアはというと、あの落ち着かない性格故か、何処かへ飛び去っていった。

 風の精霊らしく、きっと世界中を見て回る旅を再開しに行ったに違いない。



 大空からの眼下の景色は青一色。まだ南西大陸の大地が見えてくるまでは時が掛かる。

 その間に僕は次の目的地である水の祖精霊の住処について尋ねてみる事にした。


「水の祖精霊の居場所は変わってないんですよね? どういう所なんですか?」

「大陸中央部に『デルグウェインの激昂』と呼ばれる渓谷があってね。そこから少し南へ行くと修験者達が行き交う霊峰がある。水の祖精霊はそこにいるよ」


 僕に尋ねられたアズマが爽やかな微笑みを向けて答えてくれた。

 僕は、僕の生まれた時代の仲間達との旅の途中で聞いたことがある地名を耳にしてはっとした。


 デルグウェインの激昂。

 その渓谷は、僕がサヤ達と一緒に聖都マリスハイムを目指す途中に訪れた場所だ。

 ツヴェルク族の商人のポルコさんを護衛しながらの道中だったっけ。


「デルグウェインの激昂! 知ってますっ! あの渓谷はその英雄が放った一撃で出来たものなんですよね!」

「ほう。かの英雄の逸話は500年先にも伝わっているのだな」


 シェーデが関心したように話に参加してくると、サリアやデイン達も僕の方を見る。ウルグラムはセイランの背の上で寝転がって我関せずだ。


「私達にとっても昔の逸話だから、実際のところはわからないけれどねっ」

「ロマンがあっていいじゃないか。過去の英雄の伝説に心躍る者がいるんだから!」

「ですね!」

「二人揃って……男の子ねぇ」


 アズマの軽口に僕が同意を示すと、彼は楽しそうに笑みを深め、サリアとシェーデは苦笑気味な笑顔を浮かべていた。


「……と、英雄の話も続けたいところだけど、肝心の目的地の方だ。僕達はその『霊峰アルス』と呼ばれる所の山頂に降り立つんだ」


 アズマの話によれば、霊峰アルスの山頂には、水の精霊によって作られた聖なる泉が湧き出ていて、そこから溢れて流れ出た水は流れを生み、小さな滝が出来ているのだという。


 その水には水の精霊の魔力が宿り、滝行を行う修験者に加護を与えるのだとか。その聖水を目当てにやってくる者も多くいるらしい。


 地理的な予測だけど、きっとその霊峰アルスは、僕の時代でいうところの、試しの霊峰と呼ばれる場所ではないかと思う。

 あの時は迂回したので立ち寄ることはなかったが、試しの霊峰も王国騎士の訓練の場に使われていたというし、この過去の時代においても修験道となっていることからの予測だ。


「参道は山頂で途切れているのだが、実はここからさらに先があるんだ」

「とすると、その先に水の祖精霊が?」


 アズマはもちろんとばかりに頷いた。


「そう。参道の横は何の変哲もない岩壁になっているところがあるんだけど、そこは精霊の封印が施された入口になっているんだ。精霊の許しを得た者だけが立ち入ることを許される鍾乳洞なのさ」


 なるほど……。

 誰と会うかは水の祖精霊が決めるっていうことなんだ。僕は精霊に許しを得ることが出来るだろうか。


「クサビは……問題ない…………祖精霊の、気配を……連れてるから…………」

「ふっ、確かに。精霊からすれば、君は興味の対象そのものだろうな。あの風の祖精霊がわざわざ出向いたくらいだからな」


 デインやシェーデの言は、僕な心配を払拭してくれていたが、逆に気になることも出てくる。


「……ということは水の祖精霊は、僕が気に入らなければ、試練なんて設けずに拒否するかもしれないってことですか……?」


「どうかしらね……。水の祖精霊さまは話がわかる方だし、門前払いはされないと思うわっ」

「僕らも一緒にいることだしね」


 不安そうに俯く僕をアズマとサリアが慰めてくれた。


 そうだよな、大丈夫だよね……。


「……よし! 気合い入れて頑張ります!」

 

 僕は顔を上げて皆を見渡すと力強く宣言した。

 やがて大海原の先に南西大陸の陸地が見え始めてくると、僕は来たる水の祖精霊との邂逅に思いを馳せるのだった。

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