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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.377 空力を制し、その身へ

 ゼファイアとの契約を済ませてしばらく。

 僕の体の疲労もようやく回復してきて、僕は体の変化を実感していた。


「……クサビ、どうしたんだい? 何か違和感が?」


 アズマが気に掛けてくれる中、僕は自分の体を注意深く違和感を探っていて、ある予感を感じていた。


 今までも祖精霊との契約により、力が強くなったり丈夫になったりと、僕の体に何かしらの影響を及ぼしてきた。おそらく、今回ゼファイアと契約して得たのは……。



「……はい。少し確かめてみますね」


 僕はそう言うと、立ち上がってセイランの体の端へ立つ。

 そして――。


「――クサビっ!!」

「馬鹿者ッ! なにを――」


 僕は一歩前に足を踏み出し、そのまま落下した。

 その自殺行為とも見て取れる行動に、サリアが飛び立って追おうとし、シェーデの悲痛な叱責が響き渡った。

 アズマ達も慌ててセイランの体から身を乗り出して下を覗き込んだ。


 そして落下した僕は、そのまま遥か上空から海へと叩きつけられ――


 ――ることはなかった。


「……うん。やっぱり思った通りだ!」


 僕はその場で宙に浮いた状態で止まると、仲間達がいる上方を仰ぎ見て手を振った。


「クサビっ!」


 そこへ血相変えた表情のサリアが飛翔の魔術で飛び込んで僕を抱き留めた。


「なんて危ない真似をするのっ! 間に合わなかつたらどうするつもり…………って、クサビ……自分で飛んでる……?」


「……はい。もしかしてと思って、不思議と飛べるって確信があったんです。驚かせちゃってごめんなさい」


 そう言うと、サリアは恐る恐る手を離してゆっくり距離を離し、僕が落下しないことを確かめて、ようやくほっとした表情を見せてくれた。


「……本当に良かったわ。それなら早く皆のところへ戻りましょう! ちゃんと皆にも謝らなきゃダメよっ?」

「は、はいっ」


 頷くとサリアは手を差し伸べて微笑み、僕は彼女の手を取ってセイランの元へ戻ったのだった……。



「へぇ〜。僕との契約で風を自在に操れるようになったってことか。人と契約したのは初めてだから、これは面白いね」


 皆からたっぷりお叱りを受けた後、自身の身に起こった変化を噛み締めていた。


 チギリ師匠やウィニ、この世界の魔術師のように自在に飛べるようになったというのは、剣技を繰り出す際にも大いに役立ってくれるはずだ!

 それになんだか今までよりも早く動ける気がする。


「よかったわねっ! ……でももうクサビに飛翔の魔術を付与することがなくなっちゃうのは、少し寂しいわねぇ。なんてねっ」


 サリアは冗談めかして言ってくれたが、確かに僕もちょっと寂しい気持ちはある。

 ……まあ、これで空を駆けることができるようになったので良しとするかな?



「さて、落ち着いたところで……ゼファイア、君に相談があるんだ」

「ん? なんだいアズマ?」


 アズマはそう言うと風の祖精霊の方へ歩み寄り、真面目な顔で口を開いた。


「光の祖精霊がいるという『天空島』。僕らだけではどうしても辿り着けないんだ。君の力でなんとか出来ないだろうか?」


 アズマの言葉に僕達は真剣な眼差しでゼファイアに向き直り、彼の回答を待った。


「ふーむ。結論から言うと天空島へは、行ける。……行けるんだけども〜。ふーーーむ…………っ」


 ゼファイアは苦々しい顔であからさまに言い淀んでいる。

 何か理由がありそうだ。


「な、何か問題があるのですか……?」


 サリアが不安気味に言葉を投げかけ、彼は顎に手を当てると考え込み、やがて顔を上げたかと思うと、僕達へ向けて口を開いた。


「……いやね? 僕が光ちゃんと対面して……上手くいくかが不安なんだよねぇ……。僕は彼女に警戒されているからさぁ」


「警戒、ですか……?」

「……ははぁ。さては光の祖精霊は、彼女と呼ぶからには女性型で、どうせ貴方が言い寄っての結果なのだろう?」


 シェーデの推察に、風の祖精霊は肩をすくめて肯定する。

 図星らしい。


「そうさそうさその通りさっ! ……彼女、極度の恥ずかしがり屋でさぁ、なんとしても笑顔を見たくなっちゃったんだよ〜。……まあそれで結局とほほな結果なんだけどね、ははは……」


 そう言って自嘲気味に笑う風の祖精霊だが、彼の言い方からすると、どうやらかなりアプローチを仕掛けたようだ。

 ……そういえばこのゼファイア、仲間の女性陣にもかなり軟派な感じで話し掛けてきていたな……。


「……ケッ。くだらねぇ」


 ウルグラムは呆れたように吐き捨ててそっぽを向き、風の祖精霊は耳が痛いとばかりに困った表情を浮かべて肩を竦めた。


「……つまり、力にはなれない、と」


 そして僕の問いに、ゼファイアは手を振りながら慌てて否定する。


「いやいやっ! セイランちゃんごと皆を連れて行くことは出来るんだ! ――だから僕から一つ提案があるっ!」


「……提案?」

「ああ! 人見知りの……いやこの場合は精霊見知りか? まあいいや。……光ちゃんはね、水の祖精霊ちゃんに凄く懐いているんだ。だから水の祖精霊ちゃんの協力を得られれば……」


「つまり水の祖精霊に、光の祖精霊の説得を頼もうってことだね?」

「……まあそういう事かな! うん! そうそう! さっすが! アズマは冴えてるねぃ!」


 ゼファイアはウインクをアズマに送りながらそう言うと満足そうにうんうんと頷いていた。


「……どうやらそれしかなさそうだ。ならば行先に変更はなく、このまま南西大陸の水の祖精霊の元へ向かおう」


 シェーデが指針をまとめると、一同は頷いて共有を済ませるのだった。

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