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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.367 Side.W 抜け出して食むお味

「おっちゃん、肉入りまんじゅう、みっつちょーだい」


 わたしは屋台にぴょこんと顔を出し、おっちゃんに向かって注文した。


「あいよ! ……って嬢ちゃん、今日3度目じゃないか? ま、毎度……」


 わたしはまんじゅうの屋台のおっちゃんから、アツアツの肉まんじゅうを受け取る。おっちゃんの言う通り、今日3回目のおやつ。


 ここに帰って来てから、さぁややまるんは訓練を頑張ってる。その情熱はすごくって、毎日わたしも連れて行こうとするくらいだ。


 今日は声を掛けられる前にお出かけした。……これで誘われずに済む。わたし、あたまいい。



 最近わたしはごはんをがまんしたり、戦いを頑張ったりしたから、今日はそんな自分にご褒美をあげる日に決めて、朝から街をぶらぶら回って食べ歩きという至福の時間を過ごしていた。


 わたしはとことこ歩きながら、本日7つ目の肉まんじゅうを頬張る。噛めばお肉の汁がじゅわって溢れ出てきて、熱い。でもハフハフしながら食べれば、おいしい。


 ふふ。今日は『また食べ歩きして! もっと計画的に使いなさいよ!』って、すぐ怒るさぁやは居ない。


 それにまるんも『座って食べないと、お行儀が悪いですよっ』って言っても来ない。つまりわたしのどくだんじょう。


 8つ目のまんじゅうを取り出し、口に放り込む。

 そこでわたしはふと、さすがに一人で食べ過ぎかも。なんて考えがよぎった。


 みんなで食べる方がおいしく感じるからだ。

 こうして隠れながら食べるおやつも、はいとくのあじだけど、みんなの顔を思い浮かべたら、ひとりきりで食べているのが、なんだか味気なくなってしまう。


 さぁや、まるんの顔が浮かび、ついでにラシードの顔。

 そしてくさびんの顔。どうせおいしいごはんを食べるなら、みんなと一緒の方がいい。


「……くさびん、元気かなぁ」


 わたしは空を見上げながら、遠くへいってしまったくさびんを思う。

 もし今くさびんが一緒だったらきっと『食べすぎだよ、ウィニ』って、笑いながら言って、きっと一緒に食べてくれるんだ。


 それを想像したら、急に寂しくなってしっぽも耳もへにゃる。……くさびんにとても会いたくなったんだ。


 そんな感傷に浸っていて、9つ目、最後のまんじゅうが残っているのに気が付いて、一気に平らげた。


 ……おいしいはずなのに、おいしくない。

 なんか、胸の奥がぎゅって締め付けられて、ザワザワして……。


「くさびん……早く帰ってこーい……」


 気を抜くと猫耳がへにゃってなりそうで、わたしは空をまた見上げて気持ちを切り替えようと頑張る。


 空には青空が広がっていたけれど、ずっと遠くの方には、まるで青空も雲も食べてしまっているように漂う、黒いもやもやが、不自然に空に張り付いているのが見える。


 師匠が言ってた。あの黒いのは瘴気だって。魔族領に支配された、人が住めなくなった場所なんだって。

 大地が真っ黒くなって時間が経つとその上空も真っ黒くなっちゃうんだって。それを食い止めるのが我らの使命なのだ、と。


 それを思い出した途端、わたしの胸の奥のざわざわが大きくなった。

 

 ……さぁやもまるんも、ついでにラシードも、あの真っ黒が近付いて来ないように、頑張って強くなろうとしてるんだと、わたしははっとする。


 ――わたしも、やらなくちゃ。


 そうだ。この前の戦いで帰って来れなかった人達の分も、わたしやみんなが頑張らないといけないんだ。

 

 そう思うと、わたしの中を走り回っていたもやもやも、ざわざわも綺麗さっぱりなくなっていた。


 わたしはくるりと振り返って、来た道を戻る。そして――。



「おっちゃん、肉まんじゅう、みっつちょーだい」


 わたしは屋台にぴょこんと顔を出し、おっちゃんに向かって注文した。


「あいよ! ――ってまた嬢ちゃんかよ! そんなに食べたら腹がはち切れちまうぞぉ?」


 そう言われ、わたしは自分のお腹を擦る。

 ……む。たしかにぽっこり。だけど。


 わたしはおっちゃんに向けて、両手を腰に当てて胸を張って自信満々な顔を見せつける。


「ふふん。今回は食べるのはわたしじゃない」


 おっちゃんがぽかーんとしてる。わたしのカッコイイポーズに見惚れてる。ふふん。


「……お、おう、お土産用だな? 毎度……」


 おっちゃんからまんじゅうをもらい、わたしは再び出発する。


 向かう先はさぁややまるんが訓練をする場所。

 これはみんなへの差し入れだ。そして一緒に訓練を頑張るのだ。きっとお腹を空かせてるはずだ。


 わたしは肉まんじゅうの袋を大事に抱えて、足取り軽く街の中を歩き始めるのだった――。

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