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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.363 ちょっとした悪戯

 メルトアの街に滞在して2日が経過した。


 デインから齎された情報により、光の祖精霊の居場所が判明した。

 やっぱりデインは凄いや。下位精霊とも話せる彼のお陰で、本来もっと時間が掛かっていたであろう情報収集が、あっという間に集まったのだ。心から尊敬してる。


 風の祖精霊に関しては、精霊達の情報を以てしても掴むことはできず、まったくと言っていいほどに、こちらの情報は集まっていなかった。

 聞けば、風の祖精霊の性格は、奔放が服を着て歩いているような気質らしく、常に世界中をさすらっているという……。

 一番出会うのに苦労しそうだ……。


 デインも引き続き風の祖精霊の行方を調べてくれていたが、吹く風の行き先など精霊達にも与り知らぬこと。さすがに有力な情報を掴むことはできなかったようだ。


 僕も役に立ちたいと、アグニ達に念話で情報を求めてはみた。

 祖精霊同士、もしかしたら互いの居場所がわかるかもと思ったのだ。しかしそんな便利なものはないようで、近くにいるならまだしも、世界中に散った気配を把握することはできないらしい……。



 仲間達もメルトアに留まっての情報収集に限界を感じてきた様子だった。

 

 そこで話し合いの場を設けた末に方針を定めた僕達は、2日後に次の目的地である南西大陸への出立を決めたのだった。



「――よし。じゃあ出発は明後日。明日は各自旅支度を済ませる時間にあてようか」


 カイゼル邸であてがわれたアズマの部屋で、部屋主はそう締めくくる。


「ええ。今度はかなり長い距離の旅になりそうだもの。準備はしっかりしておかないとねっ」


 アズマの言葉に頷きながらサリアが続き、僕含め一同は同意を示した。


「承知した。では私はバルグントに話があるので先に失礼するよ」


 出立を伝えに行くのだろうか、シェーデが部屋を退出すると、デイン、ウルグラムもその場を後にした。


「主よ、我もしばし出歩いてきても良いか? この地を離れるならば、我が居ぬ間棲家を荒らされては敵わん。我が眷属にこの地を守るよう命じねばならぬ故、許可を。すぐに戻る」


 セイランが真剣な表情で頼んでくる。自分がいない間、仲間に留守番を頼むのかもしれない。


「もちろん! 気を付けて行って来てね」

「クサビのことは任せてねっ」

「恩に着るぞ。では、しばし」


 セイランはフッと笑って部屋を出て行った。

 これでこの部屋に残っているのは僕とアズマとサリアだけだ。


「さて、と。僕も出掛けてくるかな」


 次にそう言ってドアに向かったのは、この部屋の主であるアズマだった。

 部屋主がいないのにここに留まるのもおかしな話と、僕とサリアも部屋を出る。


「アズマはどこへ?」

「ん。……ああ、ちょっとした野暮用さ。日暮れまでには戻るから、その時は夕食を一緒に食べよう」

「はい! じゃあまた!」


 アズマは涼やかな微笑みを僕とサリアに向けると、剣を持って歩いて行った。


 サリアはそんなアズマの後ろ姿をじっと見つめている。その眼差しに違和感を感じた僕は、彼女に声を掛けた。


「サリア? どうかしましたか?」

「うーん……。気のせいかもしれないけれど、なんだかいつもと違う感じがしたの。クサビは気にならなかった?」


 去っていく後ろ姿に向けた物憂げな眼差しが僕に向けられて、僕は首を傾げた。


 僕から見たら、アズマは普段通りだと思ったけど、二人は苦楽を共にしてきた仲だ。きっと彼らにしか気づけない何かがあるんだと思う。


 そこで僕は閃いた。


「気になるなら、後をつけてみます?」


 僕の提案にサリアは目を丸くした後で、少し考える素振りを見せるも、直ぐに頷く。


「そうね! ……ふふっ。たまにはこういうのもいいわよね」


 と、満更でもなく悪戯っぽい笑みを向けてくるサリア。

 子供の頃以来の感覚に、思わず僕も顔がニヤけてしまう。

 

 でも、これからも続く旅の合間にちょっとした息抜きも必要だよね。実は僕もアズマが何処に行くのか気になるし。


 と、僕も内心で騒ぎ出す童心を抑えながら言い訳を並べて、二人で彼の後をつけることにしたのだった――。




 アズマに気取られないように距離を取って尾行を開始した僕とサリアは、旅で使うフード付きのマントを纏い、フードを深くかぶって顔を隠す。


 こうしないと、超有名人であるサリアが街の人に見つかって、ちょっとした騒ぎになってしまう恐れがあるからだ。


 あとは隠密行動といったら顔を隠すものと相場が決まっているのだ。……なんていう遊び心が多分に含まれてのこの恰好だった。


「ふふ。アズマったら、私達の尾行に全然気づいてないわねっ」

「そうですね……!」


 物陰から物陰へ移動しながら路地を覗き込んだサリアが、くすくすと楽し気に笑う。

 ひょんなことから始まった僕とサリアのささやかな悪戯に、アズマは気付く気配もなく街を歩いていく。


 街ゆく人達は勇者の姿を見つけると声援を送り、その声に気さくな様子と爽やかな笑顔で返していく。


 その驕らない姿に、ある者は感服し、またある者は顔を紅潮させてのぼせたような目で彼を見つめていた。


「…………」


 僕の横では複雑そうな表情でサリアがその光景を見ていたが……僕は敢えて触れないようにした。




 しばらく尾行を続けていると、やがて追跡対象は街の大通りを通って街の門を抜け、街の外へと出て行った。


 街の外に何の用があるのだろうか。僕達は不思議に思いながら後を追ったのだった。

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