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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.355 猛威、勃発

「――ん……うぅ……」


 僕の意識が浮上し、覚醒の兆しを覚える。

 ぼんやりとした視界が戻り始めると、僕は仰向けに横たわっている状態なのだと気づいた。


 天井がある……。……っ!?

 僕は慌てて起き上がった。


「っ! ここは!?」


 周囲を見回すと、辺りは石造りの神殿のような場所でやや薄暗く、中央には祭壇のような巨大な台座が鎮座していた。


 そして僕と同じく気を失っていたのであろう仲間達も意識を回復し始めていたようで、次々と起き上がっては周囲をキョロキョロと見回している。


「これまた不思議な所に来たね。……皆大丈夫かい?」


 アズマが体を起こしながら見渡し、皆の様子を確かめる。


「ええ……。それにしてもここは何処かしら……。もし闇の祖精霊に連れてこられたのだとしたら、ここは精霊様の住処なのかしら……?」


 サリアも立ち上がりながら自身の考察を述べ、皆はそれに頷く。


 ……だがその中でただ一人、祭壇の方を向いて立ち尽くしている者がいた。


 緑髪に黒衣の外装……。その風貌はまさしくデインだ。どうやら先に気が付いていたみたいだ。


「デイン、そちらに何かあるのか…………む。……デイン?」


 シェーデがデインの背に声を掛けるが、彼の纏う違和感に気付き、訝しげに尋ねる。


 僕達もただ背を向け立ち尽くすデインの放つ雰囲気が、普段の彼のものとは違うことに気付く。


 張り詰めた空気。……僕はいつの間にか剣に手を当てていて、いつでも抜ける体勢になっていた。


 彼の様子が何かおかしい。そう思った直後、デインはゆっくりと振り返り――。


 ――ヴィィンッ


「「「――っ!?」」」


 デインが腕を上げ、斜めに振り下ろした瞬間、その手に持っていた棒状の持ち手の先から、光を放つ魔力の刃が伸びる!


 ――あれはデインの異名『光刃の術師』たる由縁。光の剣だ。彼は魔術師でありながらあの光刃で近接戦闘もこなす、勇者パーティの誰もが認める手練……!


 その光の刃が今、僕達に向けられた……!


「デイン、テメェ……どういうつもりだッ」

「あれはデインではないよ、ウル。体は彼そのものだが、心は違う。――そうだろう? 闇の祖精霊!」


 ウルグラムはいきり立ち、二本の剣を抜きながらデインを睨み付け、アズマは一歩前に出て叫ぶ!


 するとデインから黒い波動が放たれ、周囲に霧散する!


 凄まじい圧力に、僕は一瞬身体が竦んでしまったが、直ぐに立て直し抜剣する。


 黒いオーラを纏う光刃の術師は、アズマの問いに答えずニヤリと口元を歪め殺気を放ってくる……!


「――来るわっ! 皆気をつけて!」

「とにかくやるしかないようだね……! 皆! 彼を無力化させるぞ!」


 サリアの声に従い、アズマは光刃の術師――闇の祖精霊と化したデインを迎え撃つ為に剣を構え直した!


 ――その瞬間、デインの左手が僕達にかざされた! その手に大きな魔力が一気に集まる!


「――皆避けるんだッ!」


 鬼気迫る表情のアズマに、僕達は反射的に地を蹴って散開する!


 その直後、デインから放射状に放たれた広範囲に及ぶ激しい電撃が、僕達がいた場所に着弾した!


 轟音と共に発生した強烈な雷撃は床を砕いて爆ぜ、その余波が僕達を襲い掛かる!


「主ッ!」


 電撃の余波を受ける覚悟を固めていた僕に、セイランが庇う様に覆い被さり、龍化させた翼を盾代わりにして電撃を遮ってくれる!


「クッ……。なんと凄まじき魔力か。これが精霊の祖の力とは!」


 セイランは歯を食いしばって電撃を受け止めつつも、僕を抱き抱えて後方へ下がらせてくれる!


 ……今のデインの力には彼本来の魔力に加え、闇の祖精霊の力も加わっていると見ていいのだろう。この空間で強烈な魔術を連発してくるのだとしたら、ここはあまりにも狭すぎる!


「ありがとう、セイラン!」


 僕は礼を言ってからセイランの腕から逃れ、剣を抜きつつデインの所へと疾駆する!


 アズマ達も先程の攻撃を凌ぎ、反撃の体制を取ろうとし、ウルグラムは既に動き出している!


 僕は駆けながら己の内を確認する。……よし、声はアグニ達に届かずとも、精霊の魔力は引き出せるみたいだ!


「――オラァッ!」


 ウルグラムの二本の剣が振り下ろされ、デインはそれを防ごうと、構えた光の剣一振りで受ける。


 ――キィィィン! ギィィン!


 甲高い金属音が響くと共に火花が散り、その様はまさしく剣戟の攻防だ。


 しかし打ち合う度にウルグラムの剣の刀身が赤くなっていく。

 デインの光の剣の熱によるものだ。これでは長く打ち続けては剣が保たない!

 ウルグラムもやりづらそうに舌を鳴らして獰猛にデインを睨みつける。


 相手はウルグラムの剣筋に着いてこられる程の身のこなし。それは普段後衛の彼では決して見られない俊敏な動きであった。


 早く加勢しなければ!


 僕は足に溜めた強化魔術で一気に加速させ、デインに肉薄する。

 そして光の剣を弾き飛ばす為、剣の持ち手を狙い斜めに斬り上げた!


 ――しかしデインはその気配を察知していた。

 彼は盲目であるが故に、視覚以外の感覚に優れている。おそらく背後に回り込んでの不意打ちも通用しないのだろう――。

 

 僕の位置を正確に把握していたデインは身を翻し、軽い身のこなしで身体ごと回転させて、そのまま僕に回し蹴りを放つカウンターを僕に見舞う!


「うっ……!」


 咄嗟に剣の腹で防御するも勢いを殺すことが出来ず、硬直してしまった。

 その時デインはすかさず左手を僕に向けており、右手では光の剣でウルグラムの剣と火花を咲かす。


 ――まずい……! 魔術が来るッ! 発動が早すぎる!


 僕は咄嗟に地の祖精霊ジオの魔力を使い、全身に強化魔術を発動させて防御体制を取る!


 直後デインの左手から放たれた火球が僕に直撃し、爆発を起こして吹き飛んだ僕は壁際まで吹っ飛ばされて背中から激突する! 吹き飛ばされた勢いで石壁が大きく抉れて破片が舞った。


「クッ……! 強い……!」


 僕は直ぐに起き上がり、腕で顔を拭って相手を見据えて剣を構える。だが身体中が痛い……。


 ジオの強化魔術で守っていなければ危なかった……! 相当に手強いぞ……。デインも元々強いのに加えて闇の祖精霊の力も加わっているとなると、一切の気は抜けない!


「クサビ! 今癒すわっ」


 すぐさまサリアが駆けつけて来て治癒魔術を掛けてくれた。痛みが消えていくのを確認すると、僕はサリアに強く頷いてまた駆け出した!

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