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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.346 北の大地、再び

「――! 陸が見えてきた! 皆、あと少しだ!」


 シュミートブルクを発って3日。

 僕達は南東大陸と北東大陸を隔てる海を、以前と同じように飛翔の魔術で進んでいた。


 一度飛び発てば休みなしの空の旅。

 大幅な時間の短縮の反面、魔力が尽きれば意識を手放したまま海へ落下するリスクの高い移動だ。


 しかし、南東大陸へ降り立った時は、魔力枯渇寸前だった僕も、今回は地の祖精霊ジオとの契約のお陰か以前よりも魔力総量は高まっていたので、以前より意識ははっきりしており、辺りを見渡す余裕くらいは持てていた。


 ……それにしても、何度見ても迫力のある光景だ。


 眼下に広がる青い海に太陽が煌めき、水平線からは白い靄がかかり、海面の波がキラキラと光って輝いていた。


 ……本来であればまるで絵画のような景色に感嘆するところだが、今は地上に辿り着くことに集中するべきだろう。

 と、自分を諌めて僕は視線を前方に戻すと、自身の魔力制御に注力するのだった。




「……ふう。皆ちゃんと居るね? ……よし」


 程なくして北東大陸の地に降り立った僕達だったが、そこに疲労を隠しきれない様子でアズマが僕達に見渡し、安堵の息を吐いていた。


「はぁ……はぁ…………」

「おや。今度は意識を保てているじゃないか? クサビ」


 魔力枯渇が近く地べたに転がって呼吸を繰り返していた僕に、シェーデが感心したように声をかけてきたので、僕は苦笑いで応じた。


 前回はギリギリ地上に辿り着けたものの、魔力枯渇で意識を失ってしまい、シェーデに膝枕をしてもらった事を思い出したのだ。


 ……あの時の恥ずかしさを思い出し、僕は思わず少し赤面してしまった。


「また、膝枕でもしてやろうか?」


 不甲斐なさを感じる僕の内心を知ってか知らずか、シェーデはそう言ってニヤリと口端を吊り上げて揶揄う。

 僕は顔がさらに熱くなるのを感じながら、慌てて飛び起きて首を振った。


「あ、いえっ……! そ、それは遠慮しますっ! もう大丈夫です!」

「ふふっ。残念だ」


 シェーデは僕の反応を見て面白そうに笑う。彼女はたまにこうして揶揄ってくるが、それも仲間として認めてくれている、ということなのかもしれない。そうだと嬉しい。


「もう、シェーデ? あんまりクサビをいじめないであげてちょうだいね? ……さあ、二人とも野営の準備をしましょうっ」


 近くで異空間から荷物を取り出していたサリアが僕とシェーデに笑い掛けると、シェーデはわざとらしく肩を竦めてみせた。


「おっと。聖女様に角が生える前に、大人しく従っておくとしようか」


 シェーデはそう言いながら、サリアに代わって荷物を持つと、野営の準備に取り掛かった。

 僕はそんな2人のやり取りに目を細めながら、彼女達に倣って野営の準備を進めたのだった。




 その後、野営の準備を終えた僕達は、食事を採りながら今後の方針についての話し合いを始めた。

 話し合いには、故郷があった大陸であり土地勘のあるシェーデが主導で進行していく。


「――我々の現在地は大陸南東地方のここ、デリスベル地方の端だな。この平原から北へ進むと山脈に差し掛かる。目的地までは、その山脈を抜ける必要があるだろう」


 闇の祖精霊が居ると思われる場所は、大陸北東部の辺境にある『深淵の大穴』と呼ばれる所に居るという。


 この大陸は闇の祖精霊の他に、シェーデの守護精霊でもある、白銀の氷狼たる精霊フェンリルの影響が色濃く、寒さに厳しい気候をしている。そして闇属性は冷気との親和性が高く、互いの相乗効果でさらに気候は過酷なものとなっているのだ。


 そして大陸北部の大部分は、山脈に阻まれて殆ど人の立ち入れない、未開の地なのだとか。


「深淵の大穴か……。どんな場所なんだい? シェーデ」


 アズマの言葉にシェーデは頷く。勇者として壮大な旅をしてきた彼らですら、闇の祖精霊との邂逅は未だに経験のない事だった。

 そのため、これから向かう先について詳しく知らなかったのだ。

 

「私も目にした事はないのでな、昔尋ねたことがあるのだが……。幾重にも連なる山を越えた先に、全てを吸い込まんとするかのようにポッカリと空いた大穴があるというのだ。その穴は深く、底知れぬ闇に包まれていると言われている」


 シェーデの説明に僕達は顔を見合わせる。

 深淵の大穴……。いかにも闇の粗精霊の住処のような場所だ。


 ……それにしては随分と物騒なイメージだ。不安を覚えるのは気のせいだろうか。


 ……全てを吸い込むような冷たい闇を、僕は知っている。……魔王の顔に広がる闇がまさにそのような漆黒の渦だった。


 僕はその事を思い出して背中に寒気を覚えた。あの闇そのものが、想像をするだけで恐怖を駆り立てるのだ。



「へえ……それは是非見てみたいな」


 しかしそんな僕とは対照的に、アズマは好奇心の色を宿した瞳で呟いた。

 彼のその姿に僕は、その前向きさを見習いたいなと気を取り直すに努める。


「……とにもかくにも、そこまでの道中も極寒の環境下となる。まずは近くの人里を目指すべきだろうな」

「ええ、そうね。準備はしっかりしていきましょうっ」


 シェーデの提案にサリアが賛同し、デインはコクリと頷く。ウルグラムは無反応で食事にがっついていたが、異を唱えないあたり賛成なのだろう。


「よし、じゃあ明日はシェーデの案内で人里を目指そうか。皆しっかり休んでくれ」

「はい!」


 その後僕達は明日の予定を確認して、それぞれのテントへと入り、明日の旅に備えるのだった……。

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