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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第2章『再封印を成す為に』
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Ep.343 叱咤激励

 翌日のこと。


 義手が完成し、祖精霊に会うための旅を再開させるにあたり、皆で話し合いが行われることになった。

 宿の一室、アズマの部屋に全員が集合し、僕達は今後についての話し合いを始める。


「クサビの義手が完成するまでの1ヶ月間、僕らは旅の資金を貯めつつ、祖精霊の情報を集めていたんだ。ここからだと次は――」


 アズマはそこまで言葉を紡ぐと、テーブルに広げた地図に指をなぞりながら、次に向かう先の説明を始めた。


「海を渡って、ここから北の大陸の、闇の祖精霊に会いにいくのがいいと思う」


 アズマは地図の北東に位置する大陸を指さす。そこは僕の時代ではファーザニア共和国が統治する大陸であり、シェーデの故郷がある大陸で、この南東の大陸へ渡るために立ち寄ったのは記憶に新しい。


「クサビの腕を優先する為に後回しにしたが、魔王を封印し、魔族の力が弱まっている今だからこそ行っておきたい。魔族の活動がまた活発化するかもしれないし、そうなると厄介だからね。……皆、どうだろう?」

 

 アズマは僕や皆の顔を順に見渡すと、意見を求めた。


「ええ。賛成よ」


 サリアの返答に続いて皆が頷き、僕もそれに続いた。


「ならば故郷の大陸の案内は私に任せるといい」


 シェーデが僕達に微笑むと、アズマは爽やかな笑みで頷いた。


「頼りにしてるよシェーデ。……よし。行先は決まったわけだけど、クサビの方は問題ないかな? もっと義手に馴染んでからにしたいなら僕らは尊重するが」


 アズマは僕を気遣う素振りを見せるが、僕は首を横に振った。


「大丈夫です! 旅の合間に鍛錬を続けていきます!」


 義手が完成したとはいえ、動作はまだまだぎこちない。僕がもっと修練を重ねれば自然に動けるようになるとゼクストさんが言っていたのだ。


 だけど僕の為にこれ以上のんびりするのは申し訳ない。目的の為にもすぐに旅を再開させるべきだろう。

 義手の扱いに関しては、次の闇の祖精霊との邂逅の前に、自然なものにしておかなければ!


 僕の決意をアズマは汲み取ってくれたようで、満足そうに微笑んで頷いた。


「わかった。――それなら出立は明後日にしよう。明日は旅の支度に費やそうか」


 アズマの言葉に仲間の皆が同意すると、各々に席を立ち部屋を出ていく。

 僕もアズマ達に挨拶して彼の部屋を出た。



「――おい」


 アズマの部屋を出ると、すぐ近くからウルグラムの静かで重々しい声に呼び止められた。どうやら僕が出てくるのを待っていたようだ。


「ウルグラム? 僕に何か用ですか?」

「すっかり鈍っちまったお前を、俺が直々にシゴいてやる。いいから来い」


 ウルグラムはそれだけ言うとズンズンと宿の階段を降りていく。


「えっ……は、はいっ!」


 突然の申し出に戸惑いはしたものの、僕はウルグラムを追いかけて階段を下りたのだった。



「――ウラァッ!」

「うわっ……! くっ……」


 宿の敷地内にある広場で僕とウルグラムによる修練が始まっていた。


 僕は解放の神剣で、ウルグラムの長剣を受け止める。

 しかしウルグラムによる強烈な一撃は、受け止めた衝撃凄まじく、僕は後方によろめいてしまった。


 袈裟斬り終わりの体制のままだったウルグラムが直立して剣を肩に乗せて鋭い視線を向けてくる。


「――てんでダメだッ! テメェ、義手に気を取られやがって。もっと戦いに集中しろッ!」


 僕はウルグラムの叱責を受け、再び構え直す。


 義手には魔力を通し、自在に操れるように努めていたのだが、どうしても無意識の内に義手ばかりに意識が向いてしまうのだ。


 義手の存在を認識してしまうと、僕の体は義手を中心として動くようになり、そのせいで戦闘に集中できていないのだ。

 戦闘の最中に無意識で義手を操ることの難しさを、身をもって痛感し、僕は悔しさで歯噛みした。


「何が旅の合間に鍛錬をだァ? 敵はテメェがソレ使えるようになるまで待ってくれるとでも思ってんのかァ、オイ。頭沸いてんじゃねェぞッ!」


 ウルグラムの怒りが籠った声が辺りに響く。


「はい……っ!」


 僕はウルグラムに怒鳴られながら返事をして姿勢を正して剣を構えた。

 そしてウルグラムが再び攻撃を仕掛けてきた!


「祖精霊を相手にこの程度じゃ、次は死ぬかもなァ! そうなりてェんなら構わねぇがよ!」

「くぅぅ……ッ!」


 ウルグラムが次々と攻め立てながら僕を煽り、僕はそれに必死に食らいつこうと必死に剣を操ったのだった。



 ……ウルグラムとの手合いは激しいものだった。


 剣の打ち合いだけでなく、蹴りや拳など、あらゆる体術を用いて僕を翻弄する。


 相当手加減をされているのは、普段二刀使いである彼が、一本の剣で相対しているだけでも明らかだった。


 それでも僕は為す術なく、ウルグラムに一太刀も浴びせる事が出来ないまま返り討ちに遭い、地に倒れ伏していた。


「……はぁ……はぁ……っ」


 僕はぜぇぜぇと荒い息を吐き、地面に手をつきながら項垂れた。


 身体中が痛くて呼吸が苦しい。全身汗まみれでボロボロの様相。


 余りの激しい訓練の様子に、通りかかった街の人は引いていたし、いつの間にかアズマとサリアが遠目に見守っていた。



 僕は痛みに軋む体を叱咤し、なんとか立ち上がり、力を振り絞ってウルグラムに斬りかかった!


「遅せぇ」


 ウルグラムは最小限の動きで僕の攻撃を躱すと、がら空きになった腹部に強烈な蹴りが入ってくる!


「――かッ……ハッ……!」


 僕は吹き飛ばされ、地面を転がる。そしてそのまま仰向けに倒れてしまい動けなくなってしまった。


「ク……、ハクサっ!」

 

 見ていられなくなったのか、サリアが僕に駆け寄って回復魔術を掛けてくれた。

 暖かさと共に痛みが癒えていく。しかし疲労困憊な僕は起き上がれず、サリアに上半身を抱き抱えられ、それでようやく体が起こされた。


「サリア……ありがとうございます……」

「いいのよ……。――ウルっ! やり過ぎだわっ!」


 サリアはウルグラムに非難の声を上げるが、ウルグラムは表情一つ変えることなく言い返した。


「お優しい聖女様には分からねぇか? ソイツを甘やかしても強くなんざならねぇ。今ソイツに必要なのは力なンだよッ」

「そ、それは……」


 サリアはその言葉に押し黙り、俯いて下唇を噛む。


 これは、ウルグラムなりの思いやりである事は理解していた。目的を果たし、サヤ達がいる元の時代に戻った時、魔王を討ち倒せるように、死なないようにと……。


 サリアもそれを理解はしていた。だから返す言葉を失ったのだ。


「分かっているわ……。でも苦しそうな姿を見ていられないの」

「ちっ……お人好しがよォ……」


 ウルグラムは舌打ちすると、戦意が削がれたのかそっぽを向いてしまった。


 僕はサリアの支えから解放し、自力で起き上がって、ウルグラムに感謝を込めて言葉を投げかけた。


「ウルグラム、ありがとうございます……! また、鍛錬に付き合ってくれると嬉しいですッ」


「……ふん。精々死なねぇようにするんだな」


 ウルグラムはそう言うと宿に戻っていってしまった。


「もうウルったら……。本当に素直じゃないわよねっ」


 サリアはやれやれといった様子でウルグラムを見送った後に僕の方を見る。


「ハクサ、立てるかしら?」

「……はい! なんとかっ」


 僕はサリアの手を借りながら何とか立ち上がったのだった。


「――いやぁ、厳しい訓練だったね。僕だったら震えてしまったかもしれないよ、ははは」

「もうアズマ! もっと早く二人を止められたでしょうっ?」


 アズマの軽口にサリアが抗議の声を上げると、その途端におどけた様子をかき消して、真剣な表情で僕を見据えてきた。


「……敢えて止めなかったのさ。僕もウルに同感だったからね」


 アズマはしゃがみこみ、僕にまっすぐ目線を合わせてさらに言葉を続けた。


「……ハクサ。このままじゃ魔王には勝てないよ。守りたいものがあるのなら、自分の弱さから目を背けず強さを求めなければならない。……もちろん、僕達も全面的に協力するから、頑張っていこう!」

「……はい!」


 アズマの言葉に僕は彼の心を受け取り、強く頷いた。


「……さて、それじゃ宿に戻るとしようか。今日はゆっくり休んで明日は旅の支度だよ」

「ええ。ハクサ、行きましょうっ」

「はい! もうクタクタですよ……」


 僕は返事をして、サリアはアズマの後をついて宿に戻るのだった――。

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