Ep.342 新たな右腕
「どうじゃ。どこか違和感はないか?」
「大丈夫……だと思います」
義手を製作開始してから1ヶ月もの時間が流れ、僕とゼクストさんは幾度もの試行錯誤の末、ようやく義手の原型を完成させる事が出来た。
そしてそれを僕の右肩に装着し、起動前の再確認を行っていた。正常に動けば完成である。
装着された義手は肘から先まで装甲で覆われている。ワイヤーの様な金属が腕の役割を再現し、まさに金属の腕のような見た目だ。
今は魔力が通っていない状態なので義手は動かないが、これから地霊石に魔力を込め、義手全体に循環させて手のように操る事が出来るようになるはずだ。
右肩に掛かる義手の重みが、期待に沸く僕にとっては心地よく感じられた。
「うむ。では魔力を送ってみろ。中の地霊石に送り込むイメージでじゃ」
「はい! 始めますっ!」
僕は左手を義手に当てて魔力を送り込んでいく。
すると、義手の中でカタカタと小気味良い金属音が聞こえると、義手の指部分に当たる箇所がピクリと動いた!
「――あっ! 動きそうですよ! ゼクストさん!」
「よーしッ! ではハクサよ! 指一本一本を動かそうと念じてみろ!」
僕とゼクストさんは喜色満面の様子で互いの顔を見合わせて、頷き合うと義手の操作を試みる。
僕は義手の指先に意識を集中させ、指を動かすイメージを込める!
親指から人差し指。中指の次は薬指……そして小指に至るまで順に義手の動きを操作していく。
動きはまだぎこちないが、滑らかに動かす為には修練が必要だ。
ともあれ問題なく動作しているのを確認して確信する。
義手は見事完成したのだ!
僕は歓喜に震えながら義手を眺めた。
「う……動きます……僕の……腕が……っ!」
感極まって涙が溢れそうになるのを堪えつつ、僕はゼクストさんを見ると、彼も瞳を潤ませながら大きく頷いて応えた!
「よし! ハクサよ! 成功じゃッ!」
「ありがとうございます! ゼクストさんッ!」
僕らは互いに喜び合いながら固い握手を交わす!
「これだから物作りは辞められんのじゃ! じゃがハクサよ、それを上手く扱えるようになるかは、後は努力次第じゃ! ゆめゆめ修練を怠るでないぞ」
「……はいっ! ゼクストさん!」
僕は強く頷いて深々と頭を下げた。
その後はゼクストさんから、義手のメンテナンスのやり方を教わり、最終調整をしてもらい、工房を出ることになったのだった。
僕はゼクストさんにお礼を言って、喜び勇んで街へと駆け出した。
早く皆に報告したい! 義手は完成したんだと!
皆にお披露目したら、ゼクストさんには改めてお礼をしたい。そんな思いを巡らせながら皆のところへ向かったのだった。
「――アズマ! ついに完成しました! …………あれ?」
宿に着いた僕は真っ先にアズマの部屋のドアを勢い良く開ける。
しかし宿の中を見渡すが無人で、どうやら留守のようだった。
僕は他のメンバーの部屋にもノックしたが、いずれも部屋主の声は返ってこなかった。
思えば陽はまだ高い。活発な彼らがこんな時間から宿にいるはずもないと今更気付き、僕は独り苦笑しながら頭を搔く。
逸る気持ちと興奮が冷めやらないまま、僕は自室に戻りこのまま皆が帰ってくるのを待つ事にした。
ベッドに腰を降ろし、義手を眺めていると、自然と笑みが零れる。
僕の腕が戻ってきた……!
僕は拳を握りしめ、義手を眺めて指部分を動かしてみる。
「……う。やっぱりちょっと難しいな……」
意識的に念じて動かしてみるも、まだまだぎこちなく、滑らかな動作には程遠い。ゼクストさんの言う通り、自然な動きを取り戻す為には、これからの僕の努力次第なのだろう。
改めて決意を固めて、それからの僕は、皆が戻ってくるまで義手操作の鍛錬に勤しむのだった――。
それから数時間後。
鍛錬に熱中していると、複数の足音が部屋の外からして、誰かが帰ってきたのが分かった。
僕は立ち上がってドアを開けると、ちょうど皆が各々の部屋に入ろうとしているところだったが、開かれたドアに反応して皆がこちらに視線を向けていた。
アズマやサリア、シェーデやウルグラムにデイン。全員が揃っている。
「あらクサビ。先に戻っていたのねっ」
サリアが僕の姿を見つけると声を掛けてきたので、僕は微笑みながら頷く。
「いつも遅くまで帰ってこないクサビが居るということは、完成したんだね? ついに」
アズマが僕の義手を視線を移しながら言ったので僕は頷き、満面の笑みで右腕を皆に見せつけた。
「はいっ! 見てください! この通りですよ!」
僕は皆の前に義手を突き出して、手の部分を動かしたり指を操作して見せる。
だが鍛錬が足りず、まだ動きはたどたどしかったのだが。
「あはは……まあまだ動かすのに慣れてないんですけどね」
僕は照れ隠しに頭を搔く。
「十分に凄いことじゃないか! おめでとう、クサビ」
アズマは優しく微笑みかけながら僕の肩に優しく手を置くと、力強く励ましてくれた。
「本当に……。おめでとうクサビ。良かったわねっ」
サリアは目に涙を溜めながら微笑み、それを拭った後、満面の笑みを送ってくれた。
僕の腕の欠損について最も心を痛めていたのはサリアだ。同時に責任も感じていたのかもしれない。これでサリアが負っていた肩の荷も降りただろうか。
シェーデやデインもそれぞれの反応で僕の義手の完成を祝福してくれた。
だがウルグラムだけは興味なさそうに背を向けて自分の部屋へ戻っていく。
だが部屋へと消えていく瞬間、気の所為か、その口が僅かに上がったように見えた。
「はは。ウルも素直じゃないな。……クサビ! その義手をもっと良く見せてくれないか?」
アズマはウルグラムの態度に苦笑しつつ僕に義手の詳細を見せて欲しいと要望してきたので、僕は快諾する。
それから僕の部屋でアズマやサリア達と一緒に、義手の仕組みや、完成するまでの苦労話などを語りあったのだった。




