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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第2章『再封印を成す為に』
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Ep.337 Side.C 創世の光

 軍議を終えた日の夜も、魔族軍は夜襲を仕掛けてきた。


 被害を被りながらもそれを撃退し、兵舎に戻るは明け方近く。


 程なくして世界が光を灯す頃、再び軍内に魔族襲来の警鐘が鳴り響いた。


 あまり休めていない体に鞭打って、兵達はそれぞれの配置場所に駆けていく。


 もはや同胞達の疲労は限界に近い。士気低下は避けられず、このままではいずれ突破されかねん。

 だが今日の戦でその流れを断ち切る事が出来れば、我々はまだ抗える。


 ……ここが正念場なのだ。



「チギリ魔大将、各員持ち場に着いた模様です」

「承知した」


 中央砦の高所より戦場を一望していた我に、副官のシンの報告が入る。


 眼前に広がるは広大な亡者平原。

 その平原を覆う程の漆黒が魔族領方面に並び、それは波のように押し寄せて来ていた。


「全戦線の魔術部隊は広範囲の魔術を放て。接近される前に可能な限り撃破せよ」


 我は言霊返しで指示を送り戦況を見守った。

 各所から放たれる何色もの魔術が黒の波にぶつかっていく。


 爆炎、風裂、雷撃、氷結。

 そのどれもが魔族に突き刺さり黒塵へと変えて行く。しかしそれをものともせず跳梁跋扈する魔族の軍列は、着実に最前線へと迫っていた。

 

「度重なる戦闘を経てしても、まるで数が減っている気配がありません……。これも魔王の力なのでしょうか」

「魔王は己が力で眷属たる魔物を生み出す。それが一度に大量に可能だとするならば、この状況も頷ける」


 傍で戦況を見守っていたシンが呟き、我はそれに答えた。


 だが、今ここで魔王について考えている暇はない。


「――チギリ。攻撃隊が出撃準備を整えて待機しておりますわ」


 そこに我の下へやってきたアスカが報告に訪れた。彼女の目の下の隈が度重なる疲労を物語る。


「了解したよ。デュエリスト出現の報が入るまで、可能な限り皆を休ませてくれ。……無論、君もだ」


 アスカは疲労を押して気丈に振舞っているが、その表情を見れば一目瞭然だった。

 我がそう言うと、アスカは苦笑しながら頷くのだった。


「……お言葉に甘えさせていただきますわ。それではわたくしは持ち場に戻りますわね」


 そうしてアスカが下がると、我は視線を前方に戻した。



 そして――。


「――中央戦線よりデュエリスト出現ッ! ――」

「来たか! ――今度こそデュエリストを討つ! 行くぞ!」


 我の合図に対デュエリストに選出した部隊が一斉に飛び出し、我らは戦場に躍り出た。


 中央戦線の最前線では、既にデュエリスト出現時の対応に移行しており、被害を抑えながら後退していく。そこに我らが入れ替わるように突撃していった。


 デュエリストはすぐさまこちらに気付き、怒声を荒げて突っ込んでくる。

 その前を行く魔物をも撥ね飛ばしながら、激昂の咆哮と共に猛然と。


 周囲の魔物は危険を察知し、前回と同じように周囲から離れた。これで奴相手に注力できるというものだ。


「フェッティ隊! 防御を頼むぞ!」

「――了解よ! ……交戦! ――」


 言霊返し越しに、フェッティからの応答とデュエリスト接敵の報告が返る。


 我は杖を掲げ、杖の先に魔力を収束させていく。神級魔術の威力をさらに高めるために、一心に集中した。


 そこにアスカが中隊を率いて我の横を駆け抜けていき、足を止めずにフェッティら防御隊に防御障壁を展開させていく。

 デュエリストは既にフェッティとマルシェの目の前に迫り、彼女らゼルシアラ姉妹は盾を構える。


 ――そしてデュエリストは四本の腕を大きく振り上げた!


 それと同時に攻撃隊が一斉に駆け出した!


 そして一瞬の煌めきがデュエリストの目の前で4度起こると、奴は大きく仰け反った。

 フェッティとマルシェが奴の4本腕の攻撃をパリィを完璧に成功させたことによる反動返し、そして間髪入れずに彼女らは奴の両の膝に剣を突き立てていた。


 そこに隙を作ると信じていた攻撃隊がデュエリストの両側面から襲い掛かる!


「オゥッ、ラシードォ! 修行の成果見せてみろやァッ!」

「おうよ! アンタ仕込みの体術ぶち込んでやるぜぇッ!」


 デュエリストの右側面、拳に紫電纏いし黒き虎、ラムザッドと、左側面より業火纏いしハルバードを携えたラシードが飛び込んだ!


 デュエリストの前で交差した紫電と炎の光は、体制を整えられぬままの漆黒の巨人の膝に炸裂する。


 彼らの攻撃はそれに留まらない。


 我から見て左のラシードがハルバードを地面に突き刺し、腰を落として構える右のラムザッドと、鏡合わせの如く同じ構えを取った。


 同時に地を蹴ると、赤と紫の閃光がデュエリストに猛追。渾身の拳撃が目標の膝を穿った!


 ――――ドゴォッ!


 鈍い衝突音に混じって苦悶の咆哮を上げるデュエリストの漆黒の脚鎧を破壊したラシードとラムザッドは、素早く飛び退く。


 それに続くように他の同胞も攻撃を加えては離脱して距離を取った。


 ――そしてナタクとサヤが左右からデュエリストの眼前に躍り出た!


「いざ! この一太刀、受けてみよッ!」

「私も共に!」


 ナタクは納刀した刀を下段に構え、サヤは居合の構えを取った。


 その刹那――! ナタクが地を蹴り、刀身を閃かせ、抜刀と同時に一気に斬り上げた!


 同時にサヤも抜刀し、その刃が煌めく刹那、凄まじい勢いで鞘から刀を抜き放ち、横一閃に刃が走った!


 ナタクとサヤの剣閃はデュエリストの両膝に食い込み、そして断つ。


 ――ヴォァァァアッ!


 凄まじい血飛沫を撒き散らし、デュエリストの両の膝が斬り飛ばされ、奴は顔から落ちて地に伏した。

 これを好機と見た攻撃隊がこぞってデュエリストの巨体に殺到する。



 ここまでが息付く暇すらない猛攻であった。瞬く間にデュエリストは全身から血を流し、痛みに吠えている。


 ……だがまだだ。この程度では奴はすぐに復帰してしまう。



「わたしがいく」


 そう名乗りを上げたのは我が弟子の一人のウィニだった。彼女は既に杖の先に黄色く輝く魔力を蓄積させており、発動を待つのみの状態だった。


 ウィニは待っていたのだ。最も効果的なタイミングを。


「――ロックメイデン!」


 ウィニの杖の先から地属性の魔術が放たれ、デュエリストが倒れた周囲の地面がせり上がり、瞬く間にデュエリストを閉じ込めた。そして――。


 ――ジャキィッ!

 ――ヴォォェアアァァァ!?


 その土の檻の中から鋭い音が響くと同時にデュエリストの悲鳴が木霊した。


 あの土の檻の中は無数の針で埋め尽くされているはずだ。


 だがそれでデュエリストを倒せるとは思っていない。

 ……あれはただの足止めに過ぎんからな。



 その時、土檻の中から黒いモヤのようなものが漂い始めた……!


「――瘴気奔流の前兆ですッ!」


 我の傍らで護衛に徹していたシンが皆に警告の声を張り上げる。


 その場にいた対デュエリストの面々は、即座に後方へと飛び退いた反面、アスカとサヤが前に出て地面に手を着いた。


「サヤ! 行きますわよっ!」

「はいっ! やってみせます!」


 ――二人が示し合わせるように白き輝きを放つ。


 ――土檻からは、今にも瘴気が爆発して飛び出さんばかりの勢いで黒い煙が漂い始めている。



 そして――!


 ――ヴオォォォォォオォォォォォオッ!!!


 耳を劈くような咆哮と共に、土檻を木っ端微塵に破壊しながら漆黒の瘴気が溢れ、渦を巻きながら周囲を呑み込まんとする!


「「――結界!」」


 同時に二人は我々を防御するように、周囲に結界を展開する。


 悪しきものを寄せ付けず、浄化する力を秘めた神聖魔術の結界だ。

 結界ならば奴の瘴気奔流を軽減出来ると踏んだ、予め打ち合わせしておいた対策だったのだ。


 ――そして、我はこの瞬間を待っていた。

 奴が瘴気を奔流させ、消耗した瞬間を。


「……くっ……ぅぅ……!」

「うぅ……! サヤ! まだですわ……! 踏ん張りなさいっ!」


 容赦なく襲い来る瘴気の嵐は結界によって浄化されて行く。しかしその負担は、結界が破られぬように魔力を注ぎ続ける術者二人に全てのしかかっていた。


 ……だが耐えてくれ! 作戦の成否はお前達に掛かっているのだ!



 ……魔力は十分に集めたのだ。後は確実に奴に当たるタイミングを見極めるだけなのだ。


 そしてそれは今、到来したのだ!



 我はデュエリストに引導を渡す為、魔術の構築を開始する。


「――数多の星々を創造せし創世の光。我、チギリ・ヤブサメは求む……」


 アスカとサヤの呻き声を聞きながら、我は魔術のイメージを構築していく。


「……生命の始まりは神秘の黎明、終わりは絶望の明滅。……我が前に具現せよ!」


 詠唱を終え、発現すべき魔術の形が明確になったとき、荒れ狂っていた瘴気の力が霧散して行く。


 二人は耐え抜いたのだ。

 ――よく耐えてくれた。後は我に任せてくれ。



 黒き景色が晴れていき、その中で瘴気奔流により消耗し、片膝を再生していたデュエリストの姿を捉える!


「――塵すら残さん! アナイアレーションッ!」


 我は杖を振り翳し、神級魔術の名を叫んで杖先をデュエリストに向けた!


 直後、漆黒の巨人の体の中心あたりから、眩い光が発し、それは一気に広がりを見せ、爆発を起こした。


 爆発と言えども、その場に残り続ける超高熱の炎だ。爆発と圧縮を繰り返し留まり続けるその炎は、触れたモノ全てを焼き尽くす。


 それこそ存在そのものを――。



 ――ヴォォッ…………


 デュエリストは炎に呑み込まれ、断末魔を上げ切る前に消滅し、やがて爆炎は小さくなっていった。

 そうして全ての炎が消え去った後、そこには何も残されていなかった……。



「……やった、ようだな……」


 我はフラつきながらも、杖を支えに立ちながら呟いた。


「――デュエリスト! チギリ魔大将が討ち取ったぞ!」


 その呟きに呼応するかのように、シンが雄々しく声を上げ、周囲の兵達に伝える。


「「「おぉおおおぉぉぉぉぉーーー!!!」」」


 そして兵達の歓声が戦場に轟いた!

 デュエリストの脅威を取り除いたことに歓喜し、士気が最高潮に達したのを感じる。


 その歓声に応えるように、我は杖を大きく掲げて応えるのだった……。




 ……その後、デュエリストの消滅で周囲の魔物に危機感が芽生えたか、魔物達は撤退していった。

 その勢いに乗って黎明、帝国の連合軍は戦線を押し返し、その日の戦いは大きな戦果を上げるに至るのだった。

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