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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第8章『精霊の祖』
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Ep.285 そして勇者は時を越える

 翌朝、僕は寝台の上で目覚める。

 そして僕の腕の中には、一糸纏わぬ姿の最愛の人が寝息を立てていた。


 ――僕は必ずサヤのもとに帰ってくる。

 サヤは僕が守る。そして平和になった世界で幸せにしてみせるんだ――。




「いよいよね」

「……うん」


 そして目を覚ました僕らは身支度を整えて、感慨深そうに呟いた。

 互いに口数が少ないのは、また寂しさが舞い戻ってきてしまいそうだったからだ。


 寝台に座って神妙な顔をしている僕に、僕の前に立ったサヤがそっと胸に抱き寄せる。

 サヤの温もりに安らぎを覚えながら、僕は昨夜決めた覚悟を改めて固め直して顔を上げた。


「ありがとう、サヤ」

「……うん。さあ、行きましょ!」


 立ち上がった僕はサヤを抱きしめて、最後の口付けを交わす。


 そして僕は荷物を背負い、サヤを伴って部屋を後にしたのだった。




 

 僕らが拠点の広場に入ると、既にアランさんとモーマーさんを始め、騎士全員が集まっていた。

 ラシードやウィニ、マルシェと、チギリ師匠達も一緒に居てくれた。


 皆が揃っている中、アランさんが声を掛ける。


「それではこれより、時の祖精霊様の領域の境目まで参りましょう! 準備は宜しいですかな?」

「はいっ!」


 僕は元気よく返事をして前に進んだ。

 中央孤島にいる全ての人員を引き連れて、時の祖精霊の領域の境界まで進む。


「クサビ、俺が持ってやるよ」

「ん? すぐそこだし大丈夫だよ?」


 歩いている最中、ただ一人荷物を背負う僕にラシードが僕の荷物袋を掴むと肩の負担が少し軽くなった。


「いいから持たせろよ。……そのくらいさせてくれ」


 ラシードの真意を察した僕の心が熱くなる。


「……ありがとう」


 それだけ言うとラシードはニカッと歯を見せて笑った。


 だがしかし、背中が軽くなると同時に、助走をつけてジャンプしたウィニが僕の背中に飛び乗ってきた!


「――おわぁっ!? ……とと」


 僕は驚きながら、思わず後ろ手を回してウィニを受け止めると、ウィニは僕におんぶされるような形になり、白い尻尾をご機嫌に揺らしながらニマニマと笑っていた。


「ふふん。背負う物がないなら、わたしをおんぶしたらいい」

「なんでそーなるんだよッ!」


 得意げな表情のウィニにラシードがツッコミを入れて、それを隣で見ていたマルシェがクスクスと笑う。


「もう! なぁにやってんのよ……まったく……」


 そう言ってサヤが呆れながらも笑みを零した。


 そんな僕達をチギリ師匠達やアランさんら騎士団の皆が微笑ましそうに見守りつつ、その場は和やかなムードで移動していた。



 そうして僕達はとうとう時の祖精霊の領域の境界へと辿り着いた。


 すると突然僕達の目の前に眩い光が瞬き、その光の中から何者かの姿が顕現した。


 それこそが全ての時を司るという、精霊の祖。

 僕を過去へと導いてくれる張本人だ。


 神々しさを漂わせて空中に浮かぶ時の祖精霊の姿に、アランさん達はもちろんの事、チギリ師匠達も驚きと感嘆の声を漏らしていた。


 そして時の祖精霊の口が開かれる。


「……この時の軸に降り立つのは久方振りか。――蒼空の髪の少年よ、勇者クサビよ。汝の覚悟は決まったのだな?」


 その問いかけに僕はしっかりと頷き答える。


「……はい!」


「……そうか。では、不足分の魔力も補填出来るのだな?」

「はい。ここに居る皆が魔力を分けてくれます」


 そして僕は後ろに向き直り仲間達の顔を見る。

 この面々で過ごした日々が走馬灯のように思い出され、胸が締め付けられた。


 ――だが、もう迷いは無い。



「承知した。ならばこれより、太陽暦元年への扉を開く。皆の者、魔力を我に向けて送るのだ。……始めるぞ」


 時の祖精霊は両手を高く掲げると、魔力を練り始める。

 周囲に風が起きる程の膨大な魔力の奔流が、時の祖精霊の両手の間に集まっていく!

 集まった魔力は虚空色の光を放ち、徐々に大きくなっていく。


「――皆の者! 我に魔力を!」


 時の祖精霊が叫ぶ。

 その声に呼応して、僕を除いたこの場の全員が両手を突き出し、時の祖精霊に向けて魔力を送り始めた。


 皆一様に険しい表情を見せている。魔力を送り続けるのも辛いのだ。


「くっ……!」

「うおっ……!? ゴッソリ持ってかれるぜ……!」


 サヤとラシードが一瞬ふらつくが、すぐにしっかりと立って持ち直した。


「よいか勇者クサビよ! 汝が行くのはこの時代より500の年の過去、魔王封印せし後の世だ! 魔王眠れども、魔族はこの時代よりも強力であると心得よ!」


 魔術を構築しながら時の祖精霊が僕に呼びかける。その表情は険しい。


「……はい!」


 虚空の光が膨張し続け、そして魔力を送っている何人かの騎士達が魔力枯渇で倒れていく!


「ふんっ……!」


 それを見たチギリ師匠やアスカさんが、失った頭数を補うようにさらに多くの魔力を送り込む。


 …………皆っ! 無理をさせてすまない……!


 ウィニは目をぎゅっと瞑りながら両手を突き出して懸命に魔力を送り出している。


 マルシェとラシードが膝を付きながらも魔力を送る。もう限界が近いのだ……。


「うぅ……っ!」

「――サヤ!?」


 そしてパーティの中でも魔力総量が少ないサヤは、もっとも限界に近いだろう。サヤもまた片膝を付き、その膝が笑おうとも必死に魔力を送り続けていた!


「はぁ……はぁ……ま、まだまだ大丈夫よ……! アンタを見送るまでは…………っ」

「――――ッッ!」


 僕の旅路を見届けるんだ。サヤはその一心で魔力を送っていた。僕の胸は締め付けられたが、その覚悟から目を逸らさなかった。



「――まもなく完成するぞ! よいかッ! ゲートを保っていられるのはほんの僅かだ! 開いたらすぐに飛び込め!」

「――――分かりました……!」


 魔力の奔流が風となって吹き荒れる中、既に多くの者が魔力枯渇で倒れていた。


「ゆ……勇者……どの……! ご武運……をォッ…………!」


 そして第5騎士団の中で最後まで残ったアランさんがついに力尽きる。


「クサビ……邁進せよ……!」

「……ハッ! 次会う時が……楽しみだぜェ…………」


 ナタクさんとラムザッドさんがバタバタと倒れる。


「――はい……ッ! いって……きます……!」


 僕の為に皆が必死になって……!

 その思いに必ず応える!



 時の祖精霊の魔術が形をなそうとしていた。

 その両手が地面を差し、虚空の光が両手から離れて指し示した先へ移っていく。


 光が地面にぶつかると、その場に歪みが発生し、次元が割れた!



「クサビーッ!」


 不意に名前を呼ばれ振り向く。

 そこには膝をつき、手を震わせながら力を振り絞る、開眼したラシードと、同じく限界寸前のマルシェが僕を見て苦しそうにしながらも笑みを見せていた。


「必ずッ! ……必ず帰って来い……! お前の帰る場所は……ここだッ!!」

「クサビ……ッ……貴方が帰る場所を…………守っておきます……ね…………」


「ラシードッ! マルシェッ! ……わかった……! 必ず帰ってくる! また会おう!!」


 僕は必死に叫ぶと、二人はふっと笑みを浮かべて、そして倒れ込んで気を失った。



「わたくしも……ここまで……ですわ……! クサビ…………どうか、無事に…………」


 そしてアスカさんが倒れる。その隣のチギリ師匠はさらに魔力を送り出す。

 その魔力を送る手は二手に分かれていた。


 一つは時の祖精霊に向けて。

 もう一方は、サヤに向けられていた……。



 そのサヤはへたりこんで項垂れながら、辛うじて片手を時の祖精霊に向けている状態だった。

 サヤ自身の魔力はとうに枯渇している。

 意識を保っていられるのは、チギリ師匠から送り込まれた魔力のおかげだった。


 そして、その隣で握る手によるものだった。

  

「くさ……び……ん…………。ちゃんと……かえって……くる……?」


 ウィニだ。彼女は時の祖精霊への魔力供給を止め、サヤの手を握って残り僅かな魔力をサヤだけに送り込んでいた。

 ウィニの弱々しい疑問、いや願いに答える。


「ウィニ安心して……! 絶対帰ってくるからさ……っ」

「…………ん。いっぱい……ごちそう……用意して…………まってる………………」


 そう言うとウィニが前のめりに倒れ込んだ……!


「クサビ……! 行って……来いっ…………!」

「師匠……ッ! 行ってきます……!」


 ついにチギリ師匠までも限界を迎え、崩れ落ちる。

 残ったのはサヤだけだった。



「勇者よ! 術が成るぞ!」

「――――っ!」


 同時に時の祖精霊の声で歪みの方へ振り向くと、人一人分の大きさの次元の裂け目が完成した!

 その先の景色か、こことは違う風景が裂け目の先に見える。


 過去へのゲートが完成したんだ……!


 ――――行かなければッ!



「――クサ……ビ…………!」

「――っ!」


 消え入りそうな声に振り向く。

 既に倒れ込み、顔だけを僕に向けた状態でサヤは僕を見つめていた。

 もはや意識は朦朧としていて今にも気を失いそうなサヤのもとに駆け寄りたい衝動に駆られる。


 だがその時間はない……。


 その時サヤは儚げに微笑んだ……。


「しん……じてる…………。貴方を……信じてる……から……!」

「――――ッ! ああ……! サヤ! 必ず戻るからッ!」


 僕は今までに無いほど懸命に言葉を伝えようと叫んだ。

 サヤの反応は乏しく、伺い知れない。

 それでも僕は信じる。きっと届いていると。


「――急げ! 消滅するぞッ!」


 僕は振り返り、喉が枯れることも厭わず叫びながら走った!


「――うわああああああッッ!」


 そして僕は一目散に次元の裂け目に飛び込んだ――――






 時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜

 第8章『精霊の祖』 了

 現代編 完 過去編へ続く。

これにて現代編は完結です!


これから物語は過去編へと続いていきます。

宜しければこれからも読んで頂けたら嬉しいです(*´ω`*)


続きはこちら!

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