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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第8章『精霊の祖』
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Ep.282 師弟集結

 一人きりでの過去への旅を皆に告げた日から2日が経っていた。

 その間足りない魔力をどう補うか皆で頭を捻ったが、良い案が浮かばず、目前まで迫った過去への道を前に手をこまねいている状態だった。


 時の祖精霊の支度が済むまであと一日。それまでに魔力問題を解決しなければ無駄に待たせてしまうことになる。

 とはいえ、限られた人数と土地で出来ることは少ない。


 やはり一度戻って人員を引き連れてくるようにお願いするしかないのかもしれない。



 ――そんな事を考えながら、僕は一人拠点の外れの森で考えあぐねていたその時だった。


 突然頭上に光が瞬いたと思うと、何かが落ちて来た!


 ――――っ!?




「――ふむ。どうやら着いたようだが……」

「辺り一面森ですわねぇ……」

「だが空気が澄んでやがるな」

「うむ。周囲に悪しき気配を感じぬでござる」



「あ…………あのう…………」

「――ん?」


「…………どいて……ください…………」

「あらあらまあまあ……」


 何が起きたか分からなかったが、突然地に伏している状況と、聞こえる声で、どうやら今の僕は急に現れたチギリ師匠と3人の先生の下敷きになっているのだと理解した。



「び、びっくりした……。――って、し、師匠……!? それに皆さんも! ……どうしてここに……?」


 僕の上からどいてくれた師匠達を、這いつくばった状態で見上げ、僕は混乱しながら訊ねる。

 何故師匠達がここに? 帝国領に居るはずなのに……。


「ウィニ達から君の事を聞かされた時は、流石の我も狼狽したぞ。……だが、もう心配は要らないようだな。クサビよ」

「わたくし達は、この転移の精霊具でひとっ飛びしてきたのですわ。本当に元気そうで良かった……」


 師匠とアスカさんが穏やかな眼差しを向けて手を差し伸べてくれた。


「……ご心配をお掛けしました。もう大丈夫です。仲間が居てくれましたから」


 そう言って微笑み、僕は手を伸ばした。




 その後師匠達を皆やアランさんの所へ案内し、僕達は拠点に設けられた会議用の部屋に再び一同に会した。サヤ達も師匠達の無事な姿に安堵して、突然の再会を喜んでいた。

 そして師匠達は、第5騎士団の指揮官であるアランさんとの顔合わせも済ませていた。副団長のモーマーさんも一緒だ。


「時の祖精霊より要求された魔力問題。我らが赴いたのは、それに対応する為だ。我ら4人の魔力が加われば術に見合う量の魔力に到達するやもしれん。……待たせたな」

「いえそんな……。貴重な精霊具まで使ってもらって、本当にありがとうございます!」


 師匠達のこれまでの経緯を聞き、僕は恐縮しながらも感謝を示した。

 帝国の皇帝様の計らいで、僕達は今師匠達に再会出来たんだ。遠く離れた皇帝様にも感謝の念が絶えない。


「私達だけではどうにもならなくて、頭を抱えていたところでした……。師匠、先生方、本当にありがとうございます……!」


 サヤが精一杯の感謝を込めて頭を下げる。その様子に続いて僕達もそれに倣って頭を下げた。

 こうして師匠達に助けられるのは何度目だろうか。

 次はきっと、僕達が師匠達の助けになりたいと思う。


「ふふ。弟子が困っているのだ。師が手を差し伸べずして、誰が差し伸べられようか。……まあ、甘えられるうちに甘えておくといいさ」


 そう言ってチギリ師匠は口角を上げた。

 そんな師匠の思いに胸が熱くなる。



「ところで、時の祖精霊様の魔術構築には、明日まで掛かりそうなんですのね?」


 再会を喜び合う場も一段落した頃、アスカさんが口を開いた。


「あ、はい。明日時の祖精霊様の領域の辺りまで行くことになってます」

「……それなら、今日は貴方達はたくさん語らっておきなさいな。…………その機会は、次はきっとしばらく先でしょうから」


 アスカさんは少し伏し目がちにそう言った。

 皆口には出さなかったが、明日過去への転移が成功したら、僕はパーティの皆や師匠達としばらく会うことは出来ない。


 アスカさんは悔いの残らないように、皆との時間を大切にしなさいと言っているのだ。


「……はい」


 僕はそう返事をしながらパーティの仲間達に視線を移す。

 皆それぞれ神妙な表情で、この後待っている別れの予感を改めて実感していた。


「……ならば、明日の段取りを手早く済ませてしまいましょう。……勇者殿、よろしいですかな?」


 アランさんが気を遣いながら僕に声を掛ける。


 ここでしんみりしていては、皆に気を遣わせてしまうな。しっかりしないと。


「……はい! よろしくお願いします」


 僕は努めて気丈にアランさんに向けて頷くと、アランさんはしっかりと頷き返した。


 そしてアランさんの仕切りで、明日の段取りを師匠達を交えて話を詰めることになったのだった。




 明日に向けての話し合いが粗方終えた頃時間にして昼過ぎになっていた。

 途中で昼食の時間も設けたので、皆と卓を囲むことが出来て、楽しい食事の時間を過ごせたのは良かった。

 ウィニの腹時計に感謝だね。


「――それでは明日はこのように。勇者殿と皆さんはそれまで英気を養っておくのが宜しいかと」

「後のことは我々にお任せ下さい」

「ありがとうございます、アランさん、モーマーさん。では失礼します」


 アランさんとモーマーさんの言葉で締めくくられた話し合いは終わり、僕達は一礼をして会議室を出た。



 明日に向けて、今日はもう僕達に出来ることはない。

 残された時間を仲間達や師匠達と過ごしたい。

 そう思っていたのは、どうやら皆も同じみたいだ。

 自由行動のはずなのに誰も立ち去ろうとしないのがその証拠だ。


 そして心の内の寂しさをそれぞれが感じていた。口数の少ない周囲の様子がそんな雰囲気を漂わせていて、どこかぎこちない。



「さて、我はしばし探索でもしてくるとしよう。では弟子達よ、また夕刻にな」

「……はい。また後で」


 チギリ師匠達はそう言うと森の奥へと歩いていった。

 僕達だけの時間を作ってくれたんだ。


 悔いの残らないように、皆と過ごしたい……。


 そんな僕の思いと裏腹に、皆は誰も口を開こうとしない。

 いつもお喋りでムードメーカーのラシードですら、どこか落ち着かない様子で土を蹴っていて、ウィニは猫耳を垂らしてチラリと僕を時折見るだけ。

 マルシェも居た堪れない様子でソワソワしながら、自分の盾の点検をしているフリをしている。


 サヤは僕の傍で、そんな皆の様子に眉尻を下げて僕に微笑を見せていた。


 …………皆が感じている事、僕も痛いほどに分かる。

 これまで苦難を共にして、常に助け合って来た大切な仲間だ。

 だからこそ、明日に控えたしばしの別れを前に、皆どこかよそよそしくなってしまうんだ。


 皆の気持ちは一つだ。

 寂しさが取り巻く中で、僕はそれをどこか嬉しく思っていたのだった。

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