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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第3章『花の都へ』
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Ep.24 ウィニエッダ・ソバルト・カルコッタ

 僕は猫耳族のウィニと一緒にシニスタ宿場町へ向かっていた。

 歩きながらウィニと話していると、ウィニの事が少し分かってきた。


 ウィニは口数が少ないけど、無口ではないみたい。口下手という表現が正しいかはわからないけどそれに近い感じだろう。


 それから猫耳族の事をいろいろ教えてくれた。

 最初に出会った時にしていた自己紹介も故郷の伝統なんだそうだ。


 

 猫耳族は、部族の仲間や家族、血の繋がりを最も重視した種族で、名前に両親の名前と部族名が入るそうだ。

 ウィニのフルネームは、ウィニエッダ・ソバルト・カルコッタ。

 

 ウィニが本人が授かった名で、名前の後ろには同性の親の名前が付き、ミドルネームには逆性の親の名となり、部族名が苗字だ。

 

 ウィニは女の子だから、お母さんの名前が自分の名前の後ろに付くということか。ウィニは、お母さんはエッダでその親がニアだからエッダニアだと説明してくれた。

 

 なかなか難しい命名法則だけど、それだけ家族の繋がりを大事にしているんだというのが伝わる。


 ウィニの年齢は18歳と、意外にも僕より一つ年上だ。それを伝えるとまた腰に両手を当てて胸を張るポーズをして、『おねーさんに甘えてくるがいい。えっへん』と、突然言い出した。

 全然年上に見えないからスルーした。


 ウィニの容姿は、年下に見えるほど童顔で小柄だ。碧色の瞳に雪のように真っ白な猫耳。同じく真っ白な髪は肩の上くらいまで伸ばし、もみあげ部分はそれより少し長めに伸びている。頭頂部にぴょこんと跳ねた髪の毛が印象的だ。ローブに隠れて分かりにくいが、華奢な体つきに年相応な女性らしい曲線を際立たせており、存外年上というのは本当のようだ。


 猫耳族では17歳の時に部族の掟で、故郷に残り故郷の者とつがいとなり、子を産み一生を過ごすか、外の世界に旅に出るかを選ばされるのだそうだ。ウィニは後者を選んだということだ。理由を聞いてみると


「冒険者として大成功すればお金持ち。すばらしい」


 とのことだ。お金持ちになれば毎日働かずに食べて寝ての生活ができると考えたという……。一緒についてきて本当に大丈夫なのかな……。



「ん? ウィニって冒険者なの?」

「ん」


 短い肯定をしたウィニが冒険者の証でランクを表す、ギルドカードというものを見せてきた。

 Dランクと書いてある。冒険者というのは知っていたけどランクはわからないな。Dランクって凄いのかな?

 

「Dランクの冒険者って凄いの?」


 そう聞くとウィニはドヤる時のポーズで誇らしげに言った。


「……すごい」



 なんか変な間があった気がするけど。しっぽが垂れ下がってますよ。なんでそっぽ向いてるの。



 それにしても冒険者かあ。僕も戦う術をもっと磨かないといけないと思っていて、冒険者になるのはどうかと考えていた。でもどこでなれるのかとか、知識が全くなかったからどこかで調べようと思っていた。

 せっかく目の前に冒険者がいるんだから、聞いてみよう。


「冒険者はどこに行ったらなれるの?」

「大きな街に行けばだいたい冒険者ギルドがあるから、そこで登録する」

「なるほど!」

 大きな街か。ボリージャにもあるといいな。



 道中歩きながら色々な話をした。

 僕の事情や旅の目的はなるべく重くならないように話してある。でもその話を聞いた時ばかりは少し悲しそうな顔をしていたのは印象的だった。

 

 それにしても、今までは一人での旅だったから、誰かと一緒にというのはなんだかいいな。

 今は食糧や水の消費が倍以上かかってるけど……


「そういえば、ウィニはどうしてあんなところで行き倒れてたの?」


 そう言うとウィニの耳がみるみるうちにぺたんと下がっていく。


「む……。お金なくなって食べ物もなくなった」

「いや、それはそうだろうけどもっ」


 渋々といった感じに話し始めたウィニ。

 17歳になって故郷を飛び出し、街で冒険者になった。

 ……までは良かったが、口下手が災いして仲間が見つからなくて、新人冒険者がやる雑用などの依頼をこなして食いつないで来たらしい。

 そうしていたら一年経って、今度は駆け出しの新人冒険者に雑用の依頼が優先され始めた為仕事がなくなり、思い切って別の街へ移動しようとして、途中で無一文になり、食糧も尽きた……。


というわけだそうだ。


 つまりウィニは今完全に穀潰し状態ということか……。節約していこう……。

 僕の考えてる事を察したのか、ウィニは危機感を感じたように髪が少し逆立ち、しっぽがぴーんと伸ばしながら逆立つ。


「くさびん、わたしは無一文」

「ソウデスネ」

 棒読みでそう返すとウィニは僕の服にしがみついて仏頂面で訴えた。しがみつく握力の強さが、表情とは裏腹に本人からしたら必死のようだというのは伝わった。

 

「でも、わたしは魔術が使える! だから捨てないで」

「捨てないよ! ……でも、ここからは節約していかないと。僕もお金はそんなに持ってないし、ボリージャまでに行き倒れたくないしさ」


「お腹いっぱい……たべたい…………」


 悲壮感が漂うウィニ。食いしん坊なんだね……。今はちょっと我慢しようね。



「そういえばウィニは魔術が得意なの?」


 何気なく質問すると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりにウィニの耳がぴーんと上がり、いつものドヤ顔とポーズ。


「ん。わたしの魔術はさいきょう。ぶい」

 そう言って両手でピースサインしている。ホントかなぁ……。因みに杖とかないのかと聞いたところ、泣く泣く路銀に変えたと言ってた……


 ははは……と乾いた笑いの僕。


 

 

 そうしているうちに、僕らはシニスタ宿場町を視界に捉えるところまでやって来ていた。ようやく荷を下ろしてゆっくり出来ると、僕の心は少し弾みながら残りの歩みを進めるのだった。


 

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