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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第7章『勇者の伝承』
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Ep.215 生きることを諦めない!

 ラシードと反省会をした翌日。

 僕は日課の早朝トレーニングをこなした後、希望の黎明の皆とマルシェさんの5人で冒険者ギルドへ向かった。


 今日も師匠達に修行を付けてもらう為だ。

 もう昨日のような無様は晒したくない。今日から僕の中にある甘さを払拭しなければならないんだ。


 ギルドの中に入り、カウンターで仕事をしているエピネルさん達に挨拶してから訓練所へ向かう。昨日も利用した模擬戦用の訓練所だ。

 魔術障壁で囲んでいる所じゃないと、他の建物を破損してしまっては大変だからね。


 カウンターで、チギリ師匠達は既に訓練所で待っていると聞いたので僕達は急いで訓練所の扉を開くのだった。




「さて、皆揃ったようだね。訓練の前に伝えておくことがある」


 師匠達と合流した僕達は訓練を始める前にチギリ師匠の言葉に耳を傾ける。


「昨夜、我らが話し合って決定したことを、君達に伝えておきたい。これからの方針のようなものさ」


「はい!」


「これから我らは君達に苛烈な試練を課す。これ以降、ここで行う事は実戦のつもり臨んで欲しい。我らは君達を……」


 チギリ師匠は言葉を詰まらせた後、真剣な眼差しを僕達に向けて言い放った。


「……殺すべき相手として相対する」



 そう投げつけられた瞬間に、周囲にヒリつくような緊迫感が漂った。

 厳しい言葉が来ると身構えていたけれど、その想像を超えた言葉に僕は内心戸惑った。だが、師匠の目を見て冗談の類いではないと理解してもいた。


 目を伏せて俯いているアスカさんは黙って佇んでいる。

 その隣では既に僕らを敵と認識したラムザッドさんが、獰猛な目で敵意を剥き出しにしていた。

 ナタクさんは腕を組んで目を瞑る。そして再び開かれた双眸からは殺気を孕んだ気配を纏わせていた。



 誰もが危機感を受け止めるのに精一杯で返す言葉もない、重苦しい沈黙。

 これから始まるのは訓練などという生易しいものではなく。正真正銘の殺し合いだと宣言されたのだ。


「……怪我をしたならわたくしがすぐに癒しますわ。だから……死なないでちょうだい」


 眉を潜めながらアスカさんがそっと言葉を添える。僕にはそれが唯一の激励に思えた。


 ……師匠に初めて会った時のことを思い出した。

 あの時も突然殺気を向けられ、生きる為に無我夢中で抗ったのだ。

 それは覚悟を試す為だったと……。


 今回はそれとは非にならない程の決意を以て、チギリ師匠達はここに立っているのだろう。

 知らず知らずのうちに緩んでいた、覚悟という名の紐を再びきつく結び直す時が来たのだ。


 師匠達にとっても苦渋の決断だったのだ。それは師匠の決意の眼差しに滲み出ている。そこまでしなければ僕達は戦い抜けないという事なのだと。


 ここで師匠達の想いに応えなければ弟子失格だ。僕は今一度己に問う。



 力を求めるのは何故? ――それはこれ以上奪われない為。

 目の前で奪われた故郷の友達、顔馴染みの人達。そして父さんと母さん。

 もう二度と会う事の叶わない悲しみを押し殺してここまで進んできた!


 力を求めるのは何故? ――それは取り戻す為。

 世界中で魔王によって多くのものを奪われた。今も奪われ続けて絶望している。

 そんな絶望した世界から、僕は人々の心に希望を取り戻すという使命を、亡き両親に託されたんだ。

 それを可能とするいろんな巡りあわせが世代を経て僕の元へと集まった。だからこれはきっと僕にしかできないことなんだ。


 力を求めるのは何故? ――そんなの決まってる。

 単純で分かりやすくて、なによりも純粋な想い。

 ――大切な人を守る為だ!


 ……だから僕は壁を越えなければならない。生きねばならない。

 だから僕は師匠達の試練を乗り越えて、ヨルムンガンドを倒し、神剣に眠る力の情報を得るんだ!


 そして魔王を倒し、人々の笑顔を取り戻してみせる!


 だから今一度、母さんの最後の言葉であり、僕を支えたこの言葉を掲げよう。



 ――――生きることを諦めない。


 ここで死ぬわけにはいかない。だから必ず乗り越えてみせる!

 この想いを胸に秘めて、緊迫した訓練所で僕は一歩前へ出て深く頭を下げる。

 

 そして自分の意思を、師匠達に向かって力強く叫んだ!


「――分かりました! 全力で抗う事を誓いますッ!」


 覚悟が定まった僕の声を聞いて、チギリ師匠達は不敵に微笑む。

 その瞳には既に僕を弟子ではなく、殺すべき敵として捉えている事が伺えた。


「承知した! ……では、覚悟が決まった者は前に出なさい。覚悟無き者、迷いのある者には無理強いはしない。遠慮なくこの場を後にするがいい」


 そう言うとチギリ師匠は開けた空間に移動して僕達を待ち構えた。その両隣りにラムザッドさんとナタクさんが並ぶ。


 僕は迷いなく前に出て、チギリ師匠に向き合い、もう僕の中に甘さは残さないと誓いながら、腰の神剣を抜剣して対峙した。



 そこに、僕の方に近付く足音。

 その足音は僕の隣で止まり、刃が擦れる音を鳴らして刀を抜き放った。

 そしてナタクさんに向けて刀を構えるサヤは、戦意を高めながら口を開いた。


「クサビ。私はずっと前から、アンタと一緒に行くって決めてるの。だから私も一緒に乗り越えるわ……!」



「……俺も負けっぱなしのままじゃ納得出来ねえ。ぜってぇ一発ぶち込んでやるぜッ!」


 ラシードが不敵に笑いながらハルバードをラムザッドさんに向けて言い放った。

 その言葉にラムザッドさんの瞳孔が開かせながら笑い、殺気を放つと同時に体から雷がバチッと放電した。



「しかたない。わたしはラシードに手を貸してやる」


 と、ぶっきらぼうに言い捨てたウィニがラシードの隣に立ち、杖を構える。いつも眠そうな目もこの時ばかりはラムザッドを睨んでいた。



「……このままでは終われないと思っていました。打ちのめされた後もずっと考えていました。成り行きのような形でここまで来た私ですが……今ではこう思うのです」


 マルシェさんが僕の隣に並び立ち、思いを吐露する。

 そして迷いを払った言葉は紡がれる。


「勇者の血を引くクサビさんの使命の手助けをする事こそが、かつての勇者と旅した祖先の末裔としての天命であると! だから……退きません!」


 勢いよく剣を抜き放ち、盾を構えてチギリ師匠を見据えた。



「ふふ。……僥倖。皆覚悟を決めたようだ。……では、精々死なぬよう抗うといい!」


 

 ……チギリが衝撃を伝いながら魔力を解放し、ナタクとラムザッドが構える。

 苛烈極まる試練が今始まろうとしていた……!

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