Ep.151 力の槍と速さの剣
「――いくぜっ!」
ラシードが強化魔術を解放させて一気に接近してくる!
模擬戦といいつつも本気で突っ込んでくる……!
油断していると怪我をするかもしれない。
「ジャンピングスラシード!!」
ラシードが叫んだ技名の通り跳躍して突きを繰り出してきた!
ジャンプしてスラストする技だそうだ。それに自分の名前を組み込んだ自慢の技だと、以前寝る前に枕元で熱弁された事があったのだ……。次の日は寝不足だった。
空中で突きを放って加速しながら猛然と迫り来るラシードのハルバードをバックステップで回避する。
ハルバードの先が地面に突き刺さると、衝撃で周囲が僅かに振動し、周りで見ている新米冒険者達は驚きの声を上げていた。
「すげーー! あの槍の人すげえーー!」
ギャラリーからそんな声が聞こえ、真剣な顔でこちらを睨むラシードの承認欲求が満たされて口元が緩む。
「オラオラァ! まだ行くぜー!」
ラシードはすっかり上機嫌でハルバードを構えてかっこつける。
もしかしてこれ新人さんに教えてるんじゃなくて、ただ自分の技を見せつけたいだけなんじゃ…………?
「必殺! 闘魂注入ッ地割れダッシュ三式!!」
ラシードが頭上でハルバードを横回転させて勢いをつけ、その勢いのままその場で地面にハルバードの斧部分を叩きつける。
ガゴッという激しい音と共に地面が抉れ、それは連鎖を起こして土が隆起しながら僕に向かってくる!
この技も、以前枕元で誕生秘話を物語形式で聞かされたから知っている。ちなみにこの技の三式の部分は、一式も二式もなく、特に意味は無い。僕はその次の日は寝不足だった。
僕は隆起して迫る地面を軽くサイドステップで難なく躱す。ラシードの攻撃は強力だが直線的で避けやすかった。
多分わざとなんだろうけど。
「うおーー! かっけええ!」
「……名前だせえ」
「青髪の人も軽く避けてるよ!」
どうやらラシードの熱烈なファンが爆誕しているようだ。その声援に紛れて何か聞こえた気がしたが……。
いつしか訓練所は、僕とラシードの模擬戦による新人さん達の観戦場となっていた。
ラシードはさらに気分よくなっているようで、いつも以上にオーバーな動きでブンブンとハルバードを回転させてポーズを取る。
……これやっぱり自分のためにやってるな…………。
何か俺を信じろだよー! もう!
そう思ったらなんだかイライラしてきた。
さっきから避けてばかりだから、そろそろ僕も攻めることにする……!
「――っ!」
僕は息を短く吐いて足の強化魔術を発動し高速で駆ける。ラシードの側面に項を描くように接近し、剣を横薙ぎする構えでラシードを間合いに捉えて水平斬りを放った!
速度を利用すると共に強化魔術によって威力を上げた、一撃離脱の剣技だ!
「うおっ!?」
速度に驚くラシードは咄嗟に防御態勢と取り、ハルバードで僕の剣を受け止める。
キィン! という甲高い音が響くと同時に剣を引き、僕は前方へ駆け抜け、ラシードの背後に回る。
駆け抜けざまでラシードに背を向けた態勢のままで、僕はバックステップを織り交ぜながら体を捻りつつ強化魔術を解放! 幾重にも回転を重ねた連続の斬撃をお見舞いしてやる。
「あっぶねッ!」
ラシードは僕の動きをギリギリで反応してハルバードで受けきり、僕とラシードは同時に弾かれて距離が生まれた。
「――――うおおおお!」
「剣の兄ちゃんもやべえ! なんだあのスピード!!」
「槍の人も今の反応できるのかよ! すげえ……!」
「私あの青髪のお兄さん推すわ…………」
ギャラリーは大いに湧いている。
……僕の動きに驚く声が聞こえて、なるほど確かにこれは照れくさいかも……。でも悪い気はしないや。
「おいおいクサビ! マジじゃねえかよ!」
「ラシードこそ、いつもより派手じゃないかッ?」
僕達は武器を構えながら不敵に笑い合う。
そして互いに強化魔術を練り上げていた。それぞれ武器を握る手に力がこもり、攻めるタイミングを図り合う。
「見てろよひよっこども! これがBランク冒険者同士の戦いだッ!!」
ラシードが新人さん達に向かって声を張り上げ、こちらに戦意を向けて開眼! 獰猛な眼差しで僕を射抜いて駆け出した!
「必殺ッ! 熱血のファイアブレイズッッ!!」
「――っ!!」
その技は……っ!
火魔術を纏わせた攻撃を連続で繰り出して炎を飛ばしつつ斬撃を見舞うやつだ。
名前があまりにもダサかったので記憶に残っていた。
だが、名前はダサいが強力なのは確かだ!
僕は剣を構えて魔力を溜める。まだ見せたことの無い技を見せてやるんだ!
水の中位精霊シズクと契約した時から、僕には水魔術の適正が発現していたのだ。今の僕なら水魔術も扱えるはずだ。
僕は右手を前ラシードに向かって突き出して、イメージを頭の中に描いていく。
「……流れに逆らい押し流せ……!」
「――オラァッ!!」
「――津波!」
ラシードがハルバードを振るい、炎の衝撃波を飛ばしたと同時に、僕は水魔術を発動させて駆け出した!
突き出した右手から質量の高い水流を撃ち出し、ラシードの炎の衝撃波を飲み込むと、ジュッと音を立てて炎が掻き消え、そのままラシード目掛けて迫り来る!
「な、なにィ!? 水魔術だあぐぼおっ――」
驚いて目を丸くしたラシードが水流に飲み込まれ態勢を崩した。
そこに間髪入れずに接近した僕は、水流に流され仰向けに倒れているラシードの急所に剣を突き付けて寸止め。
……勝負ありだ。
「…………僕の勝ちだね、ラシード」
「……あんなもん隠してるとはな……やられたぜ。……へへっ」
突き付けた剣を引っ込めて、代わりに手を差し出す。
ラシードは晴れやかな表情で手を取り立ち上がる。
「――――わああああああ!!」
誰もが固唾を呑んで見守り、静かだった訓練所に突如大きな歓声が巻き起こった。
「やべえ……! やっべえええ!!」
「魔術を自在に組み込んでる……。魔術を覚えれば俺も……!」
「槍の兄貴ー! 最高にかっけえ!!」
「青髪のお兄さま……しゅき…………」
新人さん達は興奮しながら思い思いに感想を述べ合っていたが、その一人が駆け寄ってきた事を皮切りに挙って僕達のところに大挙して質問の嵐が巻き起こった。
どうしたらそんな風になれるのか、という質問がほとんどで、結果的に新人さん達の刺激になれたようで良かった。
その後も訓練の時間は続き、僕は僕なりに自分の経験を元に説明しながら新人さん達に教えていた。
そして気がつけば日は落ちかけていた。
どうなる事かと思った依頼も大成功だ。
ラシードとも手合わせ出来たしいい訓練にもなり、新人さん達との触れ合いは僕にとっても学びのある時間で、報酬以上の収穫を持って宿へと戻るのだった。




