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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第6章『聖なる水の都へ』
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Ep.147 Bランク冒険者として

 森を出て見晴らしの良い平原の道を歩いていると、サヤが僕の歩幅に合わせて足早に追いついてきて、僕の肩に軽く体当たりしてきた。


 ……なんだ? なんだかむすっとしている。


「……ねえクサビ。あの水の精霊のことなんだけど……!」

 と、小声で語気を強めて絡んできた。


「ん? シズクのこと? どうかした?」

「いや〜……その……さ。なんかクサビに妙に近くないかなーって……さ?」


 ごにょごにょと口篭りながらも、目だけはなにやら抗議めいた視線で僕を見つめて言った。


「あ、あー……。実は僕も少しそう思ってたんだよね……」


 と、正直に頭に引っかかっていた悩みを口にすると、途端にサヤの表情が明るくなる。なんで喜ぶんだよ……僕は悩んでるっていうのにさ。


「そ、そうなの!? じゃあ、クサビが命令してやらせてるわけじゃないのね!?」

「な、なんでそういう発想になるの! そんなわけないじゃないかっ」


 僕は首を振って必死に否定する。そんな誤解は早急に解かねばならない。僕の名誉にかけて!


「そっか……。……な、なら! もう少しガツンと言った方がいいと思うわよ! シズクのクサビを見る目はまるで――」

「……まるで?」


「……まるで、恋焦がれてるような目をしてたから…………。私は……そんなのなんか…………」

「…………っ」


 ――嫌。


 そう微かに聞こえた気がしてサヤを見た。

 そして目が合うとその栗色の瞳が僕を射抜いていて、思わず鼓動が跳ねて僕の目が泳ぐ。


 そんな僕にサヤはわざとらしく溜息をつきながら呆れて見せ、もう一度肩で肩を小突いて無言の圧を掛けてきて、僕は狼狽えるばかりだった。


 ……ううむ。我ながら不甲斐なし…………。

 今後はシズクを呼ぶ時は誰かいる時にしよう……。






 それから僕達は野営を挟んだあと、魔物と遭遇する事もなく昼頃には無事にエルヴァイナに戻ってきた。

 街に到着するや否やウィニの腹の虫が騒ぎ出したりで、昼食を済ませてからギルドに向かうことにした。



 そして皆無事に依頼をやり遂げられた達成感を胸に抱きながら意気揚々と冒険者ギルドにまっすぐ報告に向かう。

 正規の方法ではないにしろ、これで僕達はBランク冒険者並の実力を有していると証明されるはずだ。



 ギルドに到着して、カウンターにまっすぐ向かう。

 すると僕達に気付いた受付けのミシェルさんの表情がワッと明るくなり、帰還を喜んで迎えてくれた。


「皆さん、おかえりなさい!」

「ただいま戻りました、サイクロプスを討伐してきました!」

「お疲れ様ですっ! ギルドマスターに皆さんの帰りを伝えて来ますねっ 待っていてください〜!」


 ミシェルさんが茶色のボブカットを揺らしながら、パタパタと小走りに奥へと消えて行き、時を置かずにすぐに戻ってきた。


「奥でギルドマスターがお呼びです! どうぞ〜!」


 元気なミシェルさんに促され、僕達は奥へと進みギルドマスターが待つ執務室に向かった。




 そして執務室。依頼を受注した時と同じようにソファに座りドゥーガさんと対面する。


「ご苦労だったね。無事にサイクロプスを討伐したようで何よりだ」

「ありがとうございます。相手にしたサイクロプスは眷属でした」

「どうやらそのようだな。ラシード君に付けた精霊が伝えてくれているよ。……討伐依頼は達成された。昇格おめでとう」


 いつもは鋭い目付きのドゥーガさんが目を細めて笑った。

 終わってしまえばあっさりとした感じがしたが、僕達は確かに強敵を倒したのだと実感した。


「ありがとうございます!」


 僕は感謝の意を込めて深くお辞儀をした。

 それに倣ってサヤとウィニも頭を下げている。


「有望な若者を遊ばせては居られない情勢だ。何より君達のお師匠さんへの一助ともなるだろう」


 穏やかにそう告げるドゥーガさんは、姿勢を正していつもの目付きに戻り僕達を一瞥する。

 その様子に僕達もやや浮かれた意識を引き締めて、居住まいを改めてドゥーガさんの言葉を待った。


「……だがこれで、ここから先の君達には更なる困難が待ち受けるだろう。それは時に心に陰を差すような過酷な事態も起こり得る。その覚悟を……君達は持たねばならないよ」


 ドゥーガさんの真剣な視線が僕の視線と重なる。

 黄金色の瞳の奥に、ドゥーガさんの想いを感じ取る。


 僕達の戦いはさらに辛く険しいものになるだろう。

 その過程で何かを失う結果を招く事も、きっと……。


 失う覚悟をせよ。冒険者たる我らは常に死と隣り合わせなのだから、と。


 ドゥーガさんの瞳はそう言っているように思えた。


「……はい。僕は、僕を支えてくれる仲間を信じ、支え合いながら乗り越えていきます」


 僕の言葉に、仲間達は自信を込めた眼差しで強く頷いた。僕達の心は一つだ。


「皆良い目だ。……あまり形式ばったのは好きじゃないんだが……。――ギルドマスターの権限において、クサビ・ヒモロギ、サヤ・イナリ、ウィニエッダ・ソバルト・カルコッタの3名を、Bランクに昇格することを承認する!」


「「「ありがとうございます!」」」




 その後ドゥーガさんと共にカウンターに赴き、Bランク冒険者のギルドカードを発行してもらった。

 装飾も何もなかったDランクのカードがCランクを通り越して、銀の装飾が施されたBランクのギルドカードを受け取る。


 まるでそのギルドカードを持つ者の責任が宿っているかのように、今まで持っていたカードよりも重みを感じるような気がした。

 僕は託された使命、そして責任と共に胸の内ポケットに大事にしまった。


 サヤも感慨深そうに自分の新しいカードを見つめている。きっと僕と同じくような思いを巡らせているのだろう。


 ウィニはいつも通りの仏頂面で反応は淡白だったが、しっぽは嬉しそうに左右に揺れていた。



「……よかったな! あっという間に同僚だなぁおい!」

「へへ……。ありがとうラシード。これで一緒の依頼を受けれるね!」


 ラシードはまるで自分の事のように嬉しそうに、拳を軽く握り僕の目の前に差し出し、僕も胸がいっぱいになりながら自分の拳をラシードに軽く打ち合わせた。



「……さて、それで君達はこれからどうする予定かな?」


 ドゥーガさんが頃合とばかりに口を開き僕達に問う。


「しばらくは旅の資金を貯めるためにここに滞在しようと思います。これからしばらくお世話になります!」


「そうか、堅実な心掛けじゃないか。急ぐ旅こそ準備は怠ってはならないからね。私にしてやれる支援はここまでだ。君達の活躍と無事を祈ろう。……ではまたな、若者達よ」


「はい! ありがとうございましたっ」


 ドゥーガさんは後ろ手を上げながら執務室に戻っていき、そんな後ろ姿に僕はもう一度深くお辞儀をして感謝が届くよう願った。


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