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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第6章『聖なる水の都へ』
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Ep.143 クサビ、貞操の危機!?

 ラシードとの合体技を開発してくたびれながら宿に帰ってきた。

 サヤとウィニは先に戻っていたようで、僕達の帰りを待っていたようだ。


 サヤはやけに疲れた様子の僕を見て首を傾げていたが、ウィニのお腹の虫が騒ぎ出したことで、一行は宿にある食事処で夕食を摂ることになった。



 皆で顔を合わせて卓を囲んだ。やがてそれぞれが注文した料理が運ばれてきて、美味しそうな匂いが空腹の感覚を急に目覚めさせ、食欲がもりもり湧いてきた。


「いやー、今日はいいモノが出来たよな、な! クサビ?」

「えっ……う、うん、ソウダネー」


 食事を味わっていると、ラシードが話の口を切った。


「へえー? 防具屋のあと何してたの?」

 と、サヤは興味ありげに乗ってくる。

 ウィニは言わずもがな、一心不乱に自分の料理の器に向き合っていた。


「よくぞ聞いてくれた! 俺とクサビは広場で最高にカッコイイ必殺技を編み出しちまったのさ!!」


 ラシードは昼間の興奮が蘇ったように鼻息荒くして活き活きとしている。

 僕はなんとも言えない気持ちで少し目を逸らした。


「……? ……ふーん? それってどんなのなの?」


 サヤは一瞬僕を見ていたが、ラシードに向き直りいたずらっぽい表情でさらなる追求を続けた。

 

 ……サヤは今僕の様子で何かを察したのだろう。その上でまだ聞きたがるのだ。あの顔は僕を揶揄う時によくする顔だからわかる。


 このままではあのダサ……趣きが強すぎる技名がこんなところで披露されてしまいそうだ……!


「う、ウィニ、これも美味しいよ、あげるよ!」

「むぐむぐやったー。くさびんもぐもぐ…………ごくん。……すき」


 僕は料理の器をウィニの方にずらすと、一切の会話を遮断していたはずのウィニが両手でぱしっと僕の器を掴んで、咀嚼しながらキリッとして妙に凛々しげに受け取った。


「あれ? クサビもう戻るの……?」

「う、うん! なんだか疲れちゃってさ……っ! お先に戻るね!」


 少し残念そうな顔のサヤを知り目に僕はそそくさと退散し、自分の部屋に戻ってきた。

 

 あのまま居たらラシードの話が続いてしまいそうだったからね。……まあ話が続くかもしれないけど、やるならせめて僕が居ないところでやって欲しい。

 冷静になってみるとやっぱりあの技名は恥ずかしすぎるんだ。



 僕はベッドに身を投げ出して目を閉じる。

 横になると今日一日に溜まった疲労がじわじわと体からベッドに溶けていくような感覚と共に、眠気が僕を心地よい眠りへと誘い始める。


 ……。


 …………。



 ……と、

 そこでふと、ある事を思い出して僕は目を開けて上体を起こした。


 そういえば、僕は水の中位精霊と契約してシズクと名付け、召喚魔術が使えるようになったことを思い出したのだ。


 そうは言ったものの試していなかったので、昇格依頼を受ける前に使い方を知っておかねばと思ったのだ。


 シズクが言うには、強く念じるだけでいい、ということだったが…………。はてさて。



 試しにやってみようとベッドに腰掛けて、左手を前に伸ばして瞑目し、シズクの姿を思い浮かべながら念じた。


 ……シズク。僕の元へ来てくれ…………!


 そう強く念じ続けていると、体から少し魔力が抜ける感覚がして、僕の伸ばした左手に突然冷たい感触がして驚いて目を開けた。


「――うわぁっ」

「あっ……。びっくり……した…………?」


 驚いて思わず手を引っ込めると儚げな声がして、目の前には僕の手を取るような姿勢で宙をふわふわと浮いている水の精霊、シズクの姿があった。召喚魔術が成功したんだ!


 シズクも僕の反応に少々驚いたような表情をしたが、すぐに穏やかに微笑んで顔を赤らめる。

 ほとんど水で出来てるのに赤くなるんだ……。不思議だ。


「クサビ……。やっと……呼んでくれたね…………? 逢いたかったの…………」


 照れながら微笑んで、ゆっくりと僕に密着するほど近づいてきた。冷たいけれど、不思議と服が濡れてはいないようだ。


「うん、召喚魔術を試してみたくて……。ごめんね、いきなり呼んじゃって! すぐ戻すからっ」

「あっ……やだっ……! もっとクサビと……一緒に居たいの…………」


 戻るように念じようとすると、シズクが静かながらも強くそれを制止して、僕の首に腕を回して抱きついてくる。


 冷たい感触が首を包んで少し気持ちがいい……――って、そうじゃないっ


 驚いたことに、シズクが僕に触れた時の感触は、水の冷たさはあるものの、人間の柔肌とまったく同じ感じがしたのだ。


「……ていうかシズク、なんだか前に会った時と姿が違わない……?」

「うん……。クサビの好みに合うかなって……ね……? ……もっと大きい方がいいなら……すぐ変えれるよ……。触れてもクサビが濡れないように頑張ったの……!」


 僕が驚いた事はもう一つあった。

 目の前にいるシズクは、以前契約した時の姿に比べると、なんというか……その、すごく豊満な体の持ち主に変化していたのだ……。


 それに、ほとんど水で出来ているとはいえ、服のような部分と肌のような部分の見分けが付きにくく、正直直視出来ないほどの魅力的な女性が目の前にいるのだ。


 そんな姿のシズクに密着されたらさすがに僕もとても困ってしまう……!


「……クサビ……? もしかして、ちっちゃいのが好み……かな…………?」


 僕が内心で慌てていると、シズクは困ったような顔で自分の胸を持ち上げて僕に見せつける……。

 ダメだ。完全に目に毒だよこれはっ


「そ、そうじゃないよ……!? シズクはシズクらしくいてくれれば僕は嬉しいかなっ! あはは」

「……! …………うん」


 シズクははっと目を見開いたあと、微笑みながら目を伏せて、僕の肩に頭をこてんと乗せてくる。


 顔を真っ赤にしながら、感触を堪能するように僕に密着して黙り込むシズク。

 そしていろんな感触に内心穏やかではいられない僕も顔がとても熱い。

 ……そうして続く沈黙がとても長いものに感じた。



「クサビ……?」

「ど、どうかした!?」


 シズクの声で沈黙が破られ、僕は上擦った返答をしてしまった。


「……人と精霊は……愛し合えるのかしら…………」

「えっ! ……う、うーん……どうだろうなぁ…………っ」


 シズクが切なそうに見上げてくる。気のせいかも知れないけれど、シズクの瞳孔がまるでハートマークのように見えたような気がした。いや、絶対気のせいだ。

 

 だが、シズクの想いはどうやら気のせいではないようだ……。でも僕には……!

 


 と、狼狽えている間にシズクは僕の膝の上に座り、目の前に顔を近づけて向き合うように抱きしめてきて、ぴったりと体を密着してくる……っ


「…………試して……みる…………?」


 目の前のシズクの唇が徐々に近づいてくる……!


 だ、だめだ〜っ! 僕には心に決めた人がっ……



 ――コンコンッ


「――ッ!!」

「……っ」


 僕とシズクは音がした方向に顔を向ける。それは紛れもなくドアの向こうから鳴ったものだった。


「――クサビ? もう寝ちゃったー?」


 ……この声はサヤだ……! 助かった!

 ……いや、今のこの状態を見られたら逆に殺されるんじゃなかろうか!?

 

「――……シズクっ」

「……あっ。……ハイ♡ クサビ…………?」

 

 僕は極力声を絞ってシズクの肩に手を置いて、赤面して何かを期待するシズクに真剣な表情で告げた。


「と、とりあえず、今日はこの辺で……っ! また呼ぶからっ」

「……。寂しいけれど……わかったの…………。 またすぐに呼んでね……待ってるから…………!」


 僕は頷いてシズクの帰還を念じると、シズクが最後に誘うような笑みを残して消えていった。



「……なんか話し声がするわね。――クサビ、開けるわよ!」


 シズクが消えたと同時に開かれるドア。

 間一髪だった……。サヤにあんな現場見られたらどんな誤解をされるかわからないし、何より怖いからね…………。


「……ん? 誰かいなかった?」

「誰もいないよ……? 疲れてるんじゃないっ?」


 ん〜? とサヤが近づいて訝しげに僕の顔を覗き込む。

 内心僕はドキドキである。

 いや、やましいことなんてしてないけどね!?

 してないんだけど…………ね……。


「……むしろクサビの方が疲れてそうだったから、様子を見に来たの。……なんでもないならいいわ。ゆっくり休みなさいよね!」

「あ、うん。心配させてごめん。今日はゆっくり寝るよ。ありがとう、サヤ」


 そう言うとサヤは優しく微笑んで踵を返して部屋を出ていった。

 僕もどっと疲れてベッドに寝転がった。


 まさかシズクがあんな風になるなんて……。

 次会ったらどうすればいいんだろう……。


 てか、サヤが来なかったらどうなって…………はわわわわ……!


 それから悶々と苛まれた僕は、夜遅くまで酒を飲んでいたラシードが帰ってきてすぐいびきをかき始めても、なかなか寝付けずにいたのである。


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