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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第6章『聖なる水の都へ』
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Ep.141 そ、そうてんのあおぞら……。

「うし! クサビ! もう一回やるぞ!」

「……も、もういいんじゃないかなー…………」


 装備を新調して、それぞれ自由時間として解散した後、僕はラシードに誘われて街の広場に来ていた。


 ハルバードを構えて活き活きとするラシードに剣を構えるように言われ、僕は渋々言われた通りに剣を構えた。


「クサビ! 集中だ! 目の前に敵がいると想像しろッ!」

「……はいはい」


 僕達のこの熱量の差には訳がある。


 広場に着くや否や、いつそんなスイッチが入ったのかと言わんばかりに、ラシードは突然熱血漢の如くけたたましく、ラシードと僕で繰り出す必殺技を開発しよう! と提案してきたのだ。


 その時はなんだか強力な技が出来上がるのを期待した僕も気分が上がったのだけれど…………。




「いくぜっ!」

 ラシードが架空の敵に向かって強化魔術で一気に飛び出し、僕はその動きに合わせて駆け出す。


「うおーらららららァ!!」


 架空の敵がいるのであろうその場所に気合い十分に連続突きを繰り出しているラシード。


「――らららら!……オラァ! ――はい! 敵が浮いたぞクサビィ!!」


 そして突き攻撃を終えると宙返り様に蹴り上げ、僕に合図を送る。どうやら見えない敵はラシードの強烈な蹴り上げで宙に打ち上げられた設定らしい。

 仕方なく僕も事前に打ち合わせた通りの動きで見えない敵に跳躍して追撃する。


「……とりゃー」

「違うッ! そこで技名を叫ぶんだろォ!? そしてもっと腹から声出せ腹から!」


 ラシードからダメ出しを貰い最初からやり直しになった。


 ……気が乗らないよ…………。だってさ……。


「ねえ、ラシード……。技名なんだけどさ」

「どうした? 順番変えるか?」

「いや、そうじゃなくて――」

「ははーん。さては最高に格好良過ぎて口に出すのが恥ずかしいんだろ。気にすんなって! 俺を信じろッ!」


「…………」

 ダメだ。僕の意見が通るテンションじゃなさそうだ。

 僕は心の中で深い溜息をついた。



「よし! 最初から行くぞ! ……とう!」


 ラシードが再び見えない敵に対して連続突きを見舞い、サマーソルトキックを放っている。

 そして少年のようにキラキラと輝いた笑顔のラシードが僕を見る。


 ……もう! わかったよ! もうヤケクソだー!


 僕は架空の敵に向かって跳躍し、剣を両手で握って上段に構え、声を張り上げながら振り下ろす。


「蒼天の青空!!」

 僕のもうどうでも良くなった叫びを木霊しながら、斬り降ろした斬撃が敵に大ダメージを与え、叩き落とし……たことにする。

 それにしてもなんだ蒼天の青空って……。頭痛が痛いみたいになってるんだけど。僕は言わされてるんだ。断じて進んで言ってないぞ!


「――豪炎の爆炎……ッッ!!」

 叩き落とした敵に間髪入れずにハルバードを勢いよく交差し、炎を纏いながら回転させて焼け付く斬撃を連続で叩き込んでいる設定!


 そして見えない敵の直上に素早く高く跳躍し、曇りなき眼で糸目のラシードが僕を見てる気がする。……ちょっと鬱陶しい。そして恥ずかしい。


 ……ええい! もうどうにでもなれー!


「――撃滅のパニッシュ!!」

 敵(設定)に急接近し、低く構えた剣を斜めに斬り滑らせ、続けて両手で剣を持ち斬り降ろして両断! さらに強化魔術を剣に収束させて全開放。飛び上がりながら斬り上げた!


「ブウウウゥレイヴァァァァーー!!」

 僕の斬り上げ跳躍で斬り付けると同時のタイミングでラシードが体重を掛けて、ハルバードの刺突部分を地面に向けて急降下して突き刺した!

 その衝撃で周囲が僅かに振動した。威力は相当のものと窺える。



「うおおおお…………! 最強の誕生だ…………ッッ」


 ラシードは合体技の手応えに打ち震えている。

 こうしてラシードと僕の合体技『蒼天の青空・豪炎の爆炎・撃滅のパニッシュブレイヴァー』が爆誕してしまった。

 

 確かに威力は凄まじいものだと思ったよ?

 見栄えも正直かなりカッコイイのは認めるよ?


 でも…………致命的なのがなあ……。



「ね、ねえラシード……。やっぱり名前なんだけどさ――」

「クサビ! 俺は今猛烈に感動してる! こんなッ……! こんな最高にカッコイイ技が生まれるなんて思ってなかった……ッッ! ありがとう! ありがとう……ッ!」


 ラシードが凄い勢いで涙を流しながら僕の手を取り激しい握手を交わす。

 またしても僕の主張は露と消え、内心の溜息がついに枯れ果てた。




 そしてその後、練度を高めようと嬉々としてやまないラシードに、合体技の動きを幾度となく体に叩き込まれた。


 どうかこの技が披露される事がありませんように…………。


 空はいつしか暗がりを見せ初め、クタクタになりながら宿への帰路に着くのだった。


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