Ep.131 ラプタ村帰還
カラッザ街道外れのダンジョンからの帰路につき、僕達はラプタ村に戻ってきた。
無事に戻ってこれた安堵もあったが、ラシードの頼みを達成できた事が何よりも嬉しく思っていた。
だけどラシードとはここでお別れなのか……。知り合って数日という短さだが、共に死線を潜り抜けた戦友と呼べる程濃密な時間を過ごしたから、やっぱり別れは寂しい。
「なんとか無事に帰ってこれたね」
「そうだな。本当に世話になったよ。これで仲間を家族の元に帰してやれる。……ありがとうな!」
ラシードは僅かな哀愁を含みながらも晴れやかな笑顔を見せてくれた。仲間との離別をラシードなりに受け止める事が出来たのだと思いたい。
「これからどうするんだ?」
「僕達は聖都マリスハイムを目指す事になるかな。……でもその前に近くの街に立ち寄るのがいいと思う。……装備もこんなんだしさ」
僕はボロボロで穴だらけにされた自分の服を、苦笑しながら自虐的に見せびらかした。
「くさびんの服、穴ぽこだらけー」
ウィニが僕の穴の空いた服に指を通して遊んでいる。やめなさい。
「そうね……私もそろそろ武器をちゃんと見てもらいたかったし、いいと思うわ!」
「そうだな。なら、ここから近くて大きな街だと『エルヴァイナ』だな。マリスハイムの途上にあるから丁度いいだろう」
なるほど。そこなら冒険者ギルドもありそうだし、体制を整えるのにも丁度いいかもしれない。
「じゃあ次の行先はエルヴァイナで良さそうだね! いろいろありがとうラシード」
いよいよお別れか……。ラシードのこれからの旅の無事を祈ろう。またどこかで会えたらいいな。
「おう! んじゃ今日は物資調達して、明日行くか!」
「うん。そうだね……って、え?」
「えっ?」
「げ」
僕達は目をぱちくりさせてラシードを見た。
「ん?」
ラシードもきょとんとしている。
あれ、何か噛み合わないぞ。
「えっと、ラシードもエルヴァイナへ?」
「ん? おお、もちろんだろ」
そう言うとラシードは少し考える素振りをした後、何かに気付いたようにハッとした。
「……あ! もしかしてお前らここでさよならだと思ってるのか!?」
「……違うの?」
サヤが恐る恐る聞き返す。
「おいおいそんな悲しい事言うなよ! 俺もお前らの旅に着いていくつもりだぜ!」
「でも仲間の事があるから……」
亡くなってしまった仲間の遺品を故郷に帰すと言っていたから、てっきりやる事があるのだと思い込んでいたんだけど……。
「それは冒険者ギルドに死亡報告と一緒に依頼するつもりだったんだ。だから問題ないぞ。……だからこれからもこのラシード兄貴を頼ってくれていいぞ!」
ラシードは胸をドンと叩いて快活に微笑んでいる。
……そうか、これからも一緒に旅ができるんだ。心強いことこの上ないよ!
「……そうなんだ……! これからもよろしくね、ラシード!」
「ラシード兄貴、頼りにしてるわね? うふふ!」
「任しとけ! 改めてよろしくな!」
僕達はラシードと他愛のない会話をしながら宿に歩き出す。正式にラシードが希望の黎明に加入する事になって、気分と相まって会話が弾んだ。
「…………げ」
後ろで小さくウィニのそんな声が聞こえたような気がした。
その後明日の出立の為にいろいろ用立てしていたら月が顔を出し、僕達は宿に戻り借りた部屋で打ち合わせる事にした。
こういう時は何故か僕の部屋に集まるんだよな。一応パーティのリーダー……というより発足人だからなのかな。
皆は各々楽な姿勢で、いつものようにテーブルに広げた地図を見る。
割と緩い雰囲気から始まる『希望の黎明パーティ会議』は居心地がいい。
それに今回からは正式にパーティメンバーに加入したラシードもいて、その雰囲気には緩いながらも新鮮さが交じるものとなっていた。
「えーと、それじゃあここからエルヴァイナまでの道を確認しよう。ラシードお願い」
「おう!」
ラシードが地図を使いながら皆に道順を説明していく。
エルヴァイナはカラッザ領内では一番大きな街で、ラプタ村からだと3日の距離にあった。
道も街道を沿って行けば迷わず辿り着けるそうだから、エルヴァイナまでは特に難所を気にせず、苦労もなく旅ができそうだ。
とはいえ、魔物や盗賊には注意を払いながらになるのは変わらない。いつ何が起こるか分からないからね。
「ねえラシード、エルヴァイナにはどんな施設があるの?」
道の確認を終えたあとサヤがラシードに尋ねた。
「そうだな、まず冒険者ギルドだろ。あと道具屋に武器防具の店、それから鍛冶屋。冒険者に必要なもんは大抵揃ってるぜ?」
聞いた話だと、エルヴァイナはこの辺りでは一番大きな街らしいから施設も充実してるんだね。
ボリージャとどっちが大きいのだろう。楽しみだ。
「鍛冶屋か……。私そろそろ刀を見てもらいたいのよね。手入れは欠かさずしてるけど、手持ちの道具じゃ限界があるし……」
「サヤの武器は普通の剣とは違うよな。……確か東方文化の品も取り扱ってる武器屋兼鍛冶屋があったはずだ」
そうか、当たり前のものだったからあんまり意識してなかったけど、僕らの文化は世界にとっては独特なんだ。サヤの刀も、場所によっては対応できない、なんてこともあり得るんだね。
「そうなの? なら私はそこに行かなくちゃね」
「おう。でも剣士の中では東方文化の武具を好んで使う奴もいるから、そこまで珍しいってわけじゃないけどな!」
なるほど。冒険者の経験豊富なラシードの知識は助かる。
「わたし、おいしいものたべたい」
それはいつもな気がするぞ、ウィニ。
「エルヴァイナにも旨い店あるぜ? 特に『肉』料理とかな!」
「おぉ、おぉぉぉ~!」
ラシードが肉を強調して言うと、ウィニは猫耳をピンと立たせ、目を輝かせながら期待に胸を膨らませている。
「ウィニ、お金使い果たさないようにしなさいよ? ……というかクサビからお金借りてるんだから、まずそれを返してからよ!」
「……はっ! も、もちろんそのつもり、だょ……?」
あ、多分借りてること忘れてたな。まったく……。
「それもそうだけど、そろそろ稼がないといけないと思うんだ。先は長いんだし、エルヴァイナで依頼をこなして稼ごうか」
「そうね、私もそう思ってたわ」
「おいしいごはんの為、しかたない」
「ブレねぇよな、ウィニ猫……」
とりあえずこれでパーティ会議は終了だ。
明日はエルヴァイナに向けてしっかり休もうと、それぞれの部屋に戻っていった。




