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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第6章『聖なる水の都へ』
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Ep.127 第三波の影

 崩れた壁から現れた隠し通路の中へ飛び込んだ僕達は、間の前の光景に目を疑った。


 通路の先も見えないほどに埋め尽くされるシャドウヴォアの群れは、左右の壁や天井にすらびっしり所狭しと並んでこちらを見ていた……。


「――――っ」

 あまりの数に息を呑む。

 

 そして、シャドウヴォア達と目が合った。



 ――――キィィィィィエエエエーー!


 獲物が飛び込んできて喜びの声を上げているように、シャドウヴォア達が甲高い嬌声を轟かせながら我先にと一斉に襲いかかってきた!


「サヤっ!」

僕は悲鳴にも似た叫びを上げる。一刻も早く結界を張らなければ瞬く間に全滅だ……!


「は、祓い給え清め給え……!」

 詠唱するサヤの声が震えている。先程までの群れが霞む程の数を前に心が怯んでしまっている。


「クサビ! ウィニ猫! 気合い入れろ! ここから通すなよ!」

 ラシードはハルバードを回転しながら斬り付けて、先へ通さぬように阻んでいる。


「うああああー!」

 僕は全力で魔力を解放させながら地面に剣を叩きつける。刃と地面に生まれた火花が急激に成長し、火柱を発生させた!


 覚えたてで荒削りな技だ。

 練度が低く、何度も連発出来る技ではない。精々ほんの僅かな時間稼ぎにしかならない。


 わらわらと迫り来るシャドウヴォアを遠ざけるように必死に剣を振った。

 ……駄目だ! 数が多すぎて対処しきれない!


「踊れ……踊れ……炎よ踊れ! フレアストーム!」

 ウィニの詠唱が後ろから聞こえて、僕の目の前の地面から炎が噴出して渦を巻き、回転して通路を塞いだ!


 それでも大量のシャドウヴォアが炎に焼かれながら、構わず食い尽くさんと突撃してくる!


 その執念に僕の胸中に恐怖が宿る。


「――……っ! 結界が出来たわ! 皆無理しないで入って!!」


 無数に迫るシャドウヴォアを目の前に、救いの声が届く。僕とラシードは堪らず後退し、結界の中から迎撃する作戦に切り替えた。

 しかし、この方法はサヤに負担を強いる。それはすなわちサヤの魔力が切れた時、僕達の命運は尽きるという事だ。


「クソ! 何でこんなにいやがるッ! 前はこんなに居なかったぞ!!」

 横薙ぎを連続で繰り出し、複数体を一度に葬りながらラシードが叫ぶ。この間もラシードのハルバードの隙間をすり抜けて結界に到達し爆ぜるシャドウヴォアが何体もいた。

 その度にサヤが魔力を消費するのだ。結界に奴らを触れされてはならない! ならないのに……!!


「コイツら……まさか食ってここまで増えたのかッ!? ……ヤロウ……ッ! 許せねえ!!」

「ラシード!」


 ラシードは怒りに任せて結界を飛び出し、強化魔術を込めた渾身の一突きを放った。その突きから発せられる衝撃波が目の前のシャドウヴォアの多くを巻き込み粉々に砕く!


 しかし難を逃れたシャドウヴォアが一瞬にしてラシードを取り囲み一斉に飛びついた!

 あっという間にラシードが黒い影に埋め尽くされる。


「ぐあああ!! やめ……ろ!!」

「――ッ!! ……ラシードーー!!」


 ラシードを包んだ黒い影がこちらに迫る!

 そして結界に飛び込むと、結界に触れて消滅したシャドウヴォアの大群の中から、全身血塗れになったラシードが現れ、痛みを忘れたようにすぐ迎撃を再開させた。


「――ううっ……!!」

 サヤが苦悶の声を上げる。

 今のラシードを包んだシャドウヴォアで相当の負荷がかかっていたんだ!


「ラシード! サヤ!?」

「すまねえ……! まだまだやれる!」

「はぁっ……はぁっ……! 私もッまだいけるわ……!」


 絶体絶命かと思われたラシードは、全身に強化魔術を練って耐え抜いている間に結界に入ることで難を逃れたようだ。

 しかしそれによってサヤの負担が増えてしまい、サヤはポーションの小瓶を取り出して、口でコルクの蓋を外してそのまま飲み干した。


「ウィニ! イレクトディザスターはいける!?」

「……だめっ! 今止めたら、さぁやが耐えられない……!」


 先程から必死に弾幕を張るように風の刃の魔術、ゲイルエッジを連発させていたウィニが悲痛に訴えた。


 このままではサヤが保たない。いくら魔力回復のポーションがあれど、そのおびただしい数のシャドウヴォアを相手に、魔力が足りるかわからない!


 今もなお、力を尽くしても濁流のように雪崩れ込んでくる暴食の化身を食い止め切れず、結界に負担を与えてしまっている。

 サヤの魔力は絶えず減り続けているんだ……!


 一網打尽にできる何かが必要だ!



「……ぐっ! ……まだよ……っ!」

 サヤが2本目のポーションの瓶を開け、飲み干した。ポーションは残り3本。それが尽きたらサヤの魔力も尽きるだろう。


「ラシ-ド! このままじゃサヤが保たない! なんとか時間を作ってウィニのイレクトディザスターで一気に減らすしかないよ!」


 懸命に剣を振るって迫り来るシャドウヴォアを纏めて葬る中僕は叫んだ。


「同感だ! だがしかし……くそ! ウィニ猫! 壁から抜けてくるぞ!」

「どこからも来る! おっきいの出す時間ない!」


 サヤはもちろん、ラシードもウィニも余裕はない。

 僕とて息が上がり始めている……。

 息つく暇なく剣を振り続けて疲労が溜まり、動きが鈍くなってきている。


 マズイ……! このままでは誰かの体力が尽きるかサヤの魔力が尽きるかの状況になってしまう……!


 僕は剣を振りながら懸命に思考を巡らしていた。

 この状況を打破するにはどうすればいいのか……。



 ……やはりここは一か八か、飛び込んで数を減らすしかない。

 だが、濁流のような群れに突っ込んで、魔力が尽きようものならたちまち奴らの餌食になるのは自明の理。


 ……やれるのか? ――いや、やるしかないんだ!

 僕は覚悟を瞳に宿して魔力を練り始めた……!


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