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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第6章『聖なる水の都へ』
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Ep.124 捕食者の群れ

「サヤ! 頼む!」

 ラシードが声を張り上げながらハルバードを振り回して迎撃する。


 横の部屋から大量のシャドウヴォアがけたたましい叫び声をあげながら襲い掛かり、壁や天井を伝って自在に移動してくる!

 僕達は瞬く間に囲まれてしまった。


「――祓い給え、清め給え……」

 サヤが結界を構築するため詠唱を開始した。

 

 僕はサヤに近付けさせまいと、強化魔術で威力を高めながら剣を水平に薙ぎ、飛び掛かる2体のシャドウヴォアを両断した!

 金属のような見た目に反して柔らかい手ごたえを感じる。

 当たれば倒せそうだが、如何せん数が多いのが厄介だ!


 シャドウヴォアは目の前で同胞が倒されても怯む様子も見せず迫ってくる。

 それどころか倒したシャドウヴォアに群がり共食いする始末だ。喰われたシャドウヴォアはものの数秒で跡形もなく、黒い血溜まりだけが残された。

 

 ……恐れも知らない暴食の権化とも言える姿だ。仲間意識なんて皆無のようで、己の食欲を満たす為なら同族だろうと喰らう。それがこの化け物なのだ。


「ふんっ、えいっ。……とんでけ!」

 サヤの傍でウィニが下級の魔術の火の玉を2連射して迎撃し、僅かな溜めの後、風の魔術で複数体のシャドウヴォアを吹き飛ばして遠ざけていた。


「――邪を阻む壁よ守り給え! できたわ! 集まって!」

「オラァ! ――わかった!」


 ラシードはハルバードのリーチを活かして薙ぎ払いつつバックステップで下がった。


 僕とウィニもサヤの近くまで下がると、サヤが地面に手を付き、そこから淡い光がドーム状に拡大していき、半径1メートルほどの結界を発動させた。

 僕達はサヤを囲うように立ち武器を構える。


 構わず殺到してくるシャドウヴォア。

 結界の存在などまるで気にも留めずに突撃して結界に接触すると、ピシッという音が結界から響く。

 結界に接触したシャドウヴォアは、聖なる力によって体から蒸気を上げて、叫び声をあげて力尽きた。


 そしてそれに群がり喰らいつくした他のシャドウヴォアは結界に突っ込んでは同じ末路を辿っていく。なんともおぞましい光景だ。


 それが十数匹によるシャドウヴォアによってあらゆる方位で同時に繰り広げられていて、結界からピキピキと音が鳴る。


「――いけないっ! …………っ!」

 サヤの目が焦りの色を浮かべ、慌てて両手を地面に押し当てる。すると再び淡い光が広がって結界が強固なものとなった。


 数に任せて突っ込んでくるシャドウヴォアに結界が壊れかけたのだ。それをサヤが魔力を送り補強している。

 これを続けていたらサヤの魔力残量が心配だ……!


 でもこの状況ではサヤに頼るほかはない。


「結界の負担を減らすんだ! ここから少しでも奴らを倒そう!」

「ん!」

「おう!」


 ここにいるシャドウヴォアは10体以上はいる。その全てが一心不乱に猛進してくる!

 僕とウィニは、結界に近付く前にシャドウヴォアを仕留めようと魔術を連発し、ラシードは果敢にも結界の外へ出てハルバードで薙ぎ払うことを重視して立ち回っていた。


「うおお! 必殺ッ! 本気マジ振り回しイィー!」

 雄たけびとともにラシードがハルバードを突き出して自身事回転し始め、みるみる早くなる回転は風を纏い、まるで一つの竜巻のようだ。


 複数のシャドウヴォアが打ち上げられて天井に激突に、さらにあまりの風圧で圧殺されている。ハルバードによる斬撃でも何体か葬ったようだ。


 ラシードの槍技は名前はともかく、豪快で強力だ。

 技を繰り出し終えたラシードは飛び退いて結界の中に戻ってきた。




「――片付いた……?」

 サヤの結界と僕達の迎撃の末、シャドウヴォアのここにいた群れは全て撃退することができたようだ。


 ウィニが目を閉じて猫耳を動かして周囲の音を探っており、やがてゆっくりと目を開けた。


「ここらへんからは何も音、しなくなった」


 それを聞いた僕達はほっと胸をなでおろした。

 サヤもふう、と深く息を吐いて立ち上がる。


「サヤ、大丈夫?」

「このくらいなら大丈夫よ。この調子でいきましょう」


 サヤは僕の言葉にさらりと返して頷いた。まだ余裕がありそうで安心したよ。


 その時、近くで何かが地面に落ちるような音が聞こえ、僕達は思わず武器に手を掛けながら音のする方に振り向いた。


「ラルス…………こんなところに……居たのか……」

 その音は、膝をつき項垂れるラシードから発せられたものだとわかった。僕達は異変を感じて駆け寄る。


「ラシード! 何が……――あっ……!」


 静かに肩を震わせたラシードの手には、ボロボロになった衣服とBランクのギルドカードだった。

 そのギルドカードには『ラルス・シュタット』と名が刻まれていた。傍にはおびただしい量で黒ずんだ血溜まりが残されている。


「ラシード…………」

 僕は胸の奥に痛みを感じながら、悲痛な様子のラシードにそっと声を掛けた。

 変わり果てた仲間の姿と対面しているラシードは、今どれほどに胸が張り裂けそうな思いでいることかと慮ると、思わず拳に力が入る。


「こうなっていることは分かっていた。覚悟もしていた……! だがよ……こんな……ッ……こんなに軽くなっちまいやがってよ…………ッッ!」


 ラシードの肩が一層に震える。それを見たサヤは思わず口元を押さえながら目を逸らし、嗚咽を必死に抑え込んでいた。

 ウィニも、猫耳もしっぽも垂れ下がり、悲しそうな表情で下を向いていた。


 ……なんて声を掛けてあげたらいいのか分からない。

 どうすればラシードの心を少しでも楽にしてあげられるのだろうか。何も思いつかない未熟な自分に内心苛立った。



 そして程なくしてラシードが立ち上がる。その手には親友の遺品を抱きながら通路の先を睨んでいた。


「……わりぃ。もう大丈夫だ。……行こうぜ」

「う、うん…………」


 ラシードはずんずんと先へ進もうとして、その後ろ姿にかつて復讐で動いた自分を重ねながら後を追った。


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