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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第6章『聖なる水の都へ』
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Ep.123 純粋な食欲

 翌朝、テントを畳んで野営した場所を後にした僕達は、ダンジョンへ向かった。


 街道を逸れた先では、眼下に広がる平原を進むと徐々に下り始め、振り返れば元居た場所との高低差がはっきりと分かれているほどの斜面となっていた。


 この低地平原を進めば古代遺跡があるはずだ。そして地下へと続く入り口がダンジョンの入り口となっているそうだ。


「あれだ。古代遺跡が見えてきたぞ」

 ラシードが指差す先に目をやると、遠くに確かになにかが見える。長い年月を経て風化してしまったのか、もとは建物だったであろう、砂色の壁が朽ちていた。



「遺跡というより……廃墟みたい」

 近くまでやってきて、サヤが遺跡を見渡しながら物悲しそうに呟いた。


 住居のような建物がボロボロになっている。

 かつてここにも人が住んでいたのだろうか。そしてここはどうしてこのように朽ち果ててしまったのだろうかと考えると、確かに一抹の寂しさを覚える。


「気を抜くなよ? ……こっちだ、行こう」

 ラシードが先頭で歩き僕達の歩みを促した。


 やがてダンジョンの入り口となる地下への通路に辿り着いた。

 ……この先にシャドウヴォアが待ち構えているんだ。



 周囲に魔物がいないことを確認してから、しゃがんで集まるよう身振りで伝えてきたラシードに倣い、静かに集まってしゃがんだ。


「……いいか? ここから先はシャドウヴォアの巣窟だ。奴らに対抗するには、サヤ。君の結界が頼りだ」

「結界……。そういうことね。でも私の結界はまだ小さいのしか張れないわ……。精々ここにいる皆が集まってやっと入れるくらいよ」


 そうか、つまり神聖魔術である結界を張りながら進んでいけば、シャドウヴォアは迂闊に手を出せないっていうことか!


 しかし、それだとサヤは終始結界を張り続けることになる。魔力総量の少なさに悩んでいたこともあるし、心配だ。


「そのくらいのサイズで十分だ。神聖魔術に弱い奴らは結界に触れただけでもヤバイはずだぜ」


 それでもサヤの負担が心配だった僕は、ラシードに意見しようと口を開いた。


「でもラシード、それじゃサヤの魔力が――」

「――クサビ。……いいの」


 僕の言葉がサヤの強い意志がこもった声に制された。

 サヤに目を移すと、真剣な瞳が真っすぐと僕の目を見ていた。


「お願い、やらせて。私が皆を守るわ」


 ……そんな本気の目をされちゃ、止めようがないじゃないか。

 これは僕の負けだな。


「……わかった。でも無理はしないで」

「大丈夫よ! 師匠に貰ったこの循環の輪もあるんだし! ……それにこれが最善でしょ?」

 サヤは腕に装着している精霊具をコンコンと軽く手の甲で叩きながら気丈に微笑む。


 確かに安全に進むにはサヤの結界で進むのが最善だろう。

 サヤの決意を信じるべきだ。


「……問題ないか?」

「うん、大丈夫。ごめんラシード」

「ええ、それでいきましょう!」


 よし、とラシードは頷き、ダンジョンの入り口に視線を送り立ち上がる。


「んじゃ、いこうぜ……」

 ダンジョンの入り口を睨みつけるラシード。右手に持ったハルバードを握る手が一層強く握られた。

 

「ウィニ、援護よろしくね」

「ん! さぁやはわたしが守る」


 サヤの言葉にウィニも力強く頷いている。調子は上々のようだね。


 そして、僕達は地下へと降りて行った…………。



 ダンジョンに足を踏み入れると、そこは人の手が加えられた施設のようだった。石材を加工して敷かれた石床と壁の通路は人工的で、魔力を送ると照明になる燭台が、通路の左右に一定の間隔で備え付けられていた。


 これは前回ラシードが訪れた時に灯したようで、若干暗めではあるが、これなら足元が掬われることはなさそうだ。


 横幅5メートルほどの通路は真っすぐに伸び、長い通路の一番奥には大きな扉が見える。その途中には左右に扉が2つずつあった。


 

 その各部屋を回っても収穫は得られないだろう。

 なぜなら古代の遺物などは度重なる冒険者の探索によって、すでに何もない有様だからだ。

 ここには最奥に精製される貴重な鉱石を回収する為だけに訪れるような、簡単なダンジョンと化していた。


 しかし今回隠し通路が見つかったことで難易度は跳ね上がることになってしまった。ここを無事に戻れたら、冒険者ギルドに報告しなければ、また犠牲者が出てしまう恐れがある。


 と、ラシードは語る。



 僕達は用心しながら通路を進む。

 コツ、コツ、と僕達の足音が奥へと反響していった。


 今回は要であるサヤを守るように隊列を組むと決めていた。

 先頭をラシード。サヤと並んでウィニが、そして僕は背後を守る。

 シャドウヴォアが現れたらサヤの近くに集合し、サヤが結界を発動させて僕達を包む。その中に居ればシャドウヴォアの攻撃は届かないはずだ。


「中が何もなさすぎる……」

 ラシードが眉間に皺を寄せて言う。


「それはもう探索し尽くされたからじゃなかったの?」

「そうじゃねえんだ。……俺らが倒した魔物の残骸すら、ねえんだ」


 僕は通路を見渡してみた。

 確かに何一つものは落ちていないし、魔物の一部も見当たらない。もともとこの通路に巣食っていた虫型の魔物は前回ラシード達に倒されていたため、死骸が転がっていなければ不自然なのだ。


 ……それがどこにもない。

 その不気味な予感をラシードは感じていたんだ。

 

 そう思った矢先のことだった――


「……! みんな止まって」

 猫耳を忙しなく動かしていたウィニが、警戒を色濃く含んだ声を発した。全員が歩みを止め武器を構えて臨戦態勢に入る。


 

 その瞬間通路の左右にある扉が勢いよく開け放たれ、中から大量のシャドウヴォアが一斉に飛び出してきた!


「――来たぞ! 奴らだ!!」


 黒光りした小柄な体の魔物が俊敏に迫ってくる。尖った四本足でカサカサと足音を立て、鋭く太い針のような両腕が不気味だ。

 そして鋭く尖った歯を見せつけながら大きく口を開けて、僕達を喰らい尽くさんとする。


 シャドウヴォアから殺意を全く感じない。貪欲に目の前の動く者をただ食う事しか考えていない、純粋な食欲だ。

 通路に妙に何もない理由は一つしか思い当たらない。

 コイツらが魔物も死骸も、倒された同胞すらも根こそぎ食い尽くしたに違いない!

 

 近寄られれば容赦なく食われる……!

 

 ――僕の背筋に冷たい何かが走った。


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