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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第6章『聖なる水の都へ』
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Ep.121 自分とよく似た背中

 翌日のこと。

 僕の部屋にサヤ、ウィニ、そしてラシードが集まっていた。ダンジョンに入るための打ち合わせをしておこうということになったのだ。


 僕は部屋に備え付けられた小さな椅子に座り、サヤとウィニは並んでベッドに腰掛け、ラシードは壁に寄りかかっている。皆それぞれリラックスしながらの『希望の黎明パーティ会議+ラシード』の始まりだ。



「ダンジョンはここから一日半の距離にある。出発は明日にして、今日は準備を整えようぜ」

「と言っても物資を買い足すくらいだけどね。あ、ウィニはおやつ買い過ぎないようにね」

「む。……おやつは金貨1枚までにする」

「買いすぎよ!」


 談笑を交えながら緩やかな雰囲気の僕達らしい会議だ。


 ラシードも僅かだが気が楽になったようだ。

 それでも、きっとラシードの仲間の遺品を回収するまでは先には進めないんだろう。

 このダンジョン攻略は、ラシードにとって自分の心と向き合い整理をつけるためのものなのだ。


 悲しみの淵で一人で立ち上がるのは難しい。僕も故郷を追われ森を彷徨っていた時に人に救われたからよくわかる。


 ……ヘッケルの村のカタロさん、マルタさんやカインズさんは元気かな。

 僕を救ってくれた恩人の姿が脳裏を駆け巡り、彼らに対する深い感謝の気持ちを思い出して胸が熱くなるのを感じた。


 僕の心の火は彼らに灯してもらった。

 今度は僕が、ラシードの心の火を灯すんだ。



「――だいたい打ち合わせはこんなところかしら」

「あ、そうだね。後は各自準備して明日に備えよう」


 おっと、つい物思いにふけってしまった。


 それぞれが行動を起こすために動きだした。

 そこへウィニがやってきて僕の服の裾を摘み、軽く引っ張っている。


「くさびん、くさびん。一緒に買い物いこ」


 それを見たサヤが瞬時にウィニの背後に迫り、僕から引きはがした。……え、早っ。何今の。


「ウィニ、そうやってクサビにねだっていろいろ買うつもりでしょ! クサビもウィニを甘やかしたらダメなんだからっ」

「むう。なぜばれた」


 そのままウィニはサヤに担がれ『あーー』と危機感のない悲鳴をあげながら部屋を出て行った。


「……なかなか愉快な女性陣だな…………」

「ははは……。そだね……」


 乾いた笑いが寂しく響く部屋を出ていこうとラシードが動き、ドアの前で立ち止まって僕に背を向ける。


「クサビ……その、ありがとな。これで俺もあいつらにきちんと別れを言える」


 ラシードは背中を向けたまま、ぽつりと呟いた。

 いつも体格の良い彼の広い背中がなんだか小さく見えて、酷く哀愁を感じさせた。


「いいんだよ。一緒に戦った仲じゃないか」

「……へへっ。おまえ、お人よしが過ぎるぜ……」


 ラシードの声が震えていたような気がした。

 そして僕に振り返って白い歯を見せながら笑うラシードの糸目からキラリと光るものが見えた。

 僕もラシードに笑顔で返して見せた。


「そうだな。ダンジョン攻略が終わったら俺も――」


「――いや、これ以上は『死亡フラグ』ってやつだな! ……んじゃ俺も出てくらぁ」

 そう言いかけ不意に口を噤むと、また満面の笑みを浮かべて片手を上げて部屋を出て行った。




 その後、僕は物資の調達を手早く済ませ、一人村の外れの広場にやって来た。

 誰もいない静かな場所で集中したかったのだ。


 すっかり手に馴染んだ剣を握り正眼に構えて振り下ろす。

 この単純な動作を、今まで幾度となく繰り返してきた。


 旅の途中、可能な限り日課の素振りを続けてきた。

 その甲斐あって、僕の剣の扱いは以前よりも良くなってきたように思える。

 

 深く集中して、目を閉じて仮想敵を想像する。

 正眼に構えて振り下ろす。


 姿勢を正して、正眼に構えまた振り下ろす。


 振り下ろす度、ヒュッという空を斬る音が一定の間隔で耳に届いた。

 目を閉じている為視界は真っ暗だ。深く、もっと深く集中する……。


 そうしていると、最近不思議な事が起きるようになった。

 真っ暗な視界の中で、ぼうっと青髪の自分によく似たの姿が写し出されるのだ。

 僕の肩に垂らした三つ編みはなかったが、背格好も僕に近かった。


 今の僕と同じように正眼で構えた僕を上から見ているかのような、高い位置で自分を見下ろしていた。

 集中を続けたまま自分を見ていると、剣を構えた自分が動き出し剣技を放つ。


 今回僕の幻影が見せたのは、踏み込んだあと剣の刃に沿って赤い軌跡を残しながら切り刻む、流れるような連続攻撃だった。

 今までのような一体に対して打ち込む技ではなく、一撃毎に対象を変えていくような、多数の敵に向けた技だ。


 ……そうか。今の僕にはこういう剣技が必要なのかもしれない。

 何故目を閉じると自分が見せてくれるのかはわからない。

 無意識に考えた末に自分で編み出した結果なのだろうか……。



 僕は目を開けて、自分の幻影が見せてくれた通りに体を動かしてみる。


 足に溜めた強化魔術を解放して大きく踏み込み、横方向に急制動して意表を突きつつ敵の側面に移動する。袈裟斬りと同時に火の魔術を混ぜ込むイメージと一緒に斬る。

 

 赤い軌跡が剣をなぞり僕の動きを追従する。軽く跳躍して素早く、だが静かに別の仮想敵に接近し、反時計回りに一回転しながら剣を水平に斬る。そのまま斬り抜け次の敵へ――――



 ……イメージの中の最後に敵を葬った。

 

 技の動作が終わり集中が解かれる。

 ……本当に不思議な事だ。自分の幻影が行った動作をなぞるようにやってみるとその通りにできるんだ。


 でも、ふう、と一息ついてもう一度試そうとすると今度はなかなかうまくできなかった。

 幻影が見せた技を最初に試した時は、まるで自分の体を誰かが操っているかのように動き出して技を繰り出しているような感覚だった。


 いつもそうだ。もう一度と試そうとすると途端に動きが悪くなる。

 まるで、未来の自分が今の僕に教えてくれているみたいだ。

 などとあり得ないことだ。と一人笑い飛ばした。


 それでも突然浮かんだこの剣技、必ず役に立つはず。

 そうと決まれば練習あるのみだ!


 僕は両の手をぎゅっと握って気合を入れ、再び剣を構えて飛び込んでいった。


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