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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第6章『聖なる水の都へ』
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Ep.119 それぞれの事情

 僕達は突然の強敵を討ち倒し、消耗した魔力を回復するため少し休憩を取ることにした。


 街道の横で適当に座って体を休める。僕の頭の怪我も、サヤが回復してくれて今ではもうなんともない。

 この旅にサヤが居なかったら、今頃大変なことになっていただろうな……。


 そんなことを思いながらサヤを見ていたら、視線に気付いたサヤが僕を見てきょとんとする。


「? なにクサビ、どうかしたの?」

「ああ、いや、なんていうか……。サヤが居てくれてよかったなって思って」


 そう言うと、サヤの顔はみるみるうちに赤くなり僕から目を逸らした。


「と、突然何言ってるのよ……。私だって………………わよ……」

 後半はごにょごにょと小声過ぎてほとんど聞き取れなかった。


「う、うん? ……サヤの回復にはいつも助けられてるからさ! ありがとうな」

 なんだか変な空気になっちゃったけど、とりあえずは伝えたい事を伝えたぞ。


「…………ああ、そうね。……どういたしまして」

 素っ気なく返されてしまった。照れ隠しかな。



 そんな僕達をラシードが見ていて、近くに座っていたウィニになにやらコソコソと話していた。

 ウィニが頷くと一瞬驚いた顔をして、そのあと神妙な表情で僕とサヤをみていた。……なんだ?



「そういえばよ、さっき気になったんだが、甲冑骸に襲われた時『魔王の遣い』がどうとか言ってたよな? それって、なんだ?」


 ラシードが何とはなしに疑問を投げかけた。きっと素朴な疑問として聞いてきたんだろう。

 

 僕はラシードに旅の目的や取り巻く事情を話すべきか悩んだ。

 いきなりこんな話をしていいものかと思ったからだ。

 隠しているわけではないが、内容が少し重いからね……。

 

 僕はサヤとウィニに目配せすると、僕の意図を察したサヤは僕の目を見て頷き、ウィニは……目が合うと首を傾げていた。


 ラシードとはさっき会ったばかりだけど、一緒に戦った仲だ。それにあんなのが徘徊してる危険性を知らせておくべきだろう。

 よし、ラシードに話そう。



「……それを説明するには、ちょっと長くなるかもしれないけど……いい?」





「……そんなことになってたのか……」

 クサビから聞かされた話の内容は、俺が想像していたよりも世界にとって重大な事情を抱えたもので、思わず絶句してしまった。


 クサビとサヤの故郷が魔王に滅ぼされたこと。クサビが持っている剣が神剣の類で、魔王を倒す鍵になり得るということ。

 そして力を失っている神剣についての情報を集め、復活させるために旅をしてきたということ。

 ウィニ猫はそれを知りながら協力することを選び、同行しているという。

 

 俺よりも6つも若いこいつらは、計り知れない重き荷を背負って旅してきたのだ。人知れず魔王を倒すと本気で……。

 クサビとサヤの眼差しから。とても冗談を言っているとは思えなかった。

 

 気軽に聞いちまった少し前の俺を恨む。辛い記憶を掘り返しちまったんだからな。

 だが、俺も知ってしまった。この世界を変える特異点とも言うべき存在を。


 ……そして、さっきの戦いぶりを見る限りDランク程度では役不足だ。実力だけならBランク級かもしれない。



 …………彼らなら……。


 …………。



 俺の中で渦巻く感情が葛藤する。



「……ラシード? 大丈夫?」

 サヤの声に、いつの間にか深い思考の中にいた事に気付きハッとして顔を上げた。


「なんか、苦虫を噛み潰したような顔してたよ。……ごめん。重い話だったよね」

 クサビが申し訳なさそうにしながら視線を落とした。

 自分が悲惨な話をしたからだと思っているのか。思いやりのあるヤツだな……。


「デリカシーがないぞラシード」

 ウィニ猫がジト目で非難してきやがる。

 どうもウィニ猫からは警戒されてるようだな。やはり最初の髪モフモフがダメだったか。

 


「うるせえ自覚してんだよ! ――いや、違うんだ。ちょっと別のことを考えちまってただけさ。……それにしてもお前らなんちゅー事情を抱えてたんだよ」


 俺はウィニ猫に言い返したあと、クサビとサヤに向き直って返答した。


「うん。僕達もちょっと前までは普通に暮らしていた、普通の人間だったよ。まさかこんな旅をすることになるなんて思ってもみなかった」

 クサビは苦笑しながら、だがどこか哀愁を含んだ声で言う。


「でも突然それは奪われた。その時の気持ちはきっと一生忘れられないんだ。……僕は、あんな思いを誰にもして欲しくないんだ」


「…………」


 俯きながら拳を固く握りながら強い意志を見せるクサビを、隣に座る心痛な面持ちのサヤがそっと寄り添うように、クサビの拳に手を重ねている。



 故郷を滅ぼされ、両親や親しき人を一夜にして失いながら、復讐に走ることなく他者の事を考えられる……。


 強いな……。俺なんか足元にも及ばねえ。

 今の俺には到底……。


 

 俺はクサビに、世界に希望をもたらすのはきっとこういう心持ちのヤツなんだと、心が動かされた。



「……立派だよお前は。……さて、十分休めたな! そろそろ行くか」

「そうだね、行こう」


 俺は半ば強引に話題を切って立ち上がる。

 他の三人も立ち上がり、気を取り直して街道を歩き始めた。

 そこからはなるべく気楽な話をしながら道中を進んだ。

 クサビは俺のくだらない話に屈託のない笑顔で楽しそうに聞いてくれる。


 そんな姿に、俺の心の中ではある一つ葛藤に決着をつけていた。




 それから俺達は一つ夜を越え日が登り、沈みかけて赤くなり始めた頃、無事にラプタ村に到着した。


 なんの変哲もない、この辺りではありきたりな村だが一応宿もあるし物資も買える。近くにダンジョンがある集落ではありがちだ。おかげでこちらは助かっている。



「ここがラプタ村……! 長閑なところだね!」

 クサビは村を見渡しながら、歩き疲れているのも気にならないと言った様子で表情を明るくしていた。


 こういう何にでも新鮮に感動できる時期が、俺にもあったな……。

 ……おっと、これじゃ思考がおっさんだな。あぶね。


「あ、あれは宿かしら? まずはあそこにいきましょ! 早く荷物を置きたいわ」

「わたしもごはんたべたい」


 俺もサヤに同意だ。それに腹も減ってきたしな。


「ああ、あれが唯一の宿だな。よし、ここはこのラシード兄貴が飯をご馳走してやるぜ!」

 俺は自分の胸をバンと叩いて年長者ムーブをかます。

 先輩冒険者としての余裕を見せねぇとな。



 ……それに、話をしないといけない事があるからな。



「わあ、やった!」

「ふふっ! ご馳走になりますっ! ラシードあ・に・き!」

「見直したぞラシード」


 おう、遠慮がない方がかわいいってもんだ! ってウィニ猫、お前はもう少し感謝しろい。



 そうして宿に着き、三人は部屋を借りて荷物を置いてきた。俺は既に部屋を借りていたから、先に荷物を置いて宿の食事処で先に待つ。


 そこにクサビ達が身軽になってやってきた。三人は安全な場所に着いたことで安心したのか、表情は晴れやかだ。


 ……そんな三人に、俺はこれから重たい話をしようとしている。純粋な心を持った連中だ、この話を聞けばきっと飯が不味くなるだろう。


 だが、クサビ達なら……。

 俺の『心残り』を解消してくれるかもしれない。


 そう信じて、俺は意を決した。


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