Ep.112 Side.C 虎牙族の長
第6章の開幕です!(*´ω`*)
よろしくお願い致します!
鬱蒼とした深き森の中、様々な鳥や動物の鳴き声が時折甲高く木霊して残響と溶けていく。
この木々で覆われ外敵から守られるように築かれたこの集落は獣人族が人口の大半を占める、東方部族連合アーガイル部族領、獣族の集落『アーガイル』
数ある獣人部族の中でも武力に長けた部族で、長年武を競い合った者の中で最強の者が代々部族長を務めるという、実力主義の集落である。
我と、我が友にして東方部族連合を取り纏める3族長の一角、アスカ・エルフィーネと共に、3族長一角の一人である『ラムザッド・アーガイル』に面会する為やって来たというわけだ。
そして現在、我らはラムザッドのもとに参じていた。
「――で、知らせもねぇでいきなり何の用だ?」
族長の住まいにアスカが半ば強引に押し入り、やや不機嫌な様子のラムザッドは、両腕を大きく広げて座って寛いだ体制のまま言葉を吐き捨てた。
『虎牙族』という、その名の通り虎の特徴を持った獣人族だ。
人により割合は異なるようだが、獣人は人に近い容姿の者、あるいは獣に近い者と千差万別なのが興味深いところだ。
そしてラムザッドは獣に割合が大きく寄っているようだ。
顔は虎そのものと言っていいが、黒く美しい毛並みの体毛の中に金毛が混じり、黄金に輝く眼光は強者の風格を漂わせていた。
「族長会議以来ですわねラムザッド。今日はマジメな話をしにやってきたんですのよ」
「ったく! 来るなら来るで連絡してから来いや! 歓待もできねえだろうがよッ」
「まあっ! 相変わらずお可愛いこと~」
「うるせぇッ」
アスカとラムザッドのやり取りを傍観していた我に、ラムザッドが鋭い視線を向けてきた。
「……で? アンタは誰だい」
ぶっきらぼうに吐き捨てるラムザッド。少々警戒されているようだな。
「これはこれは、挨拶が遅れて申し訳ない。我はチギリ・ヤブサメ。耳長人の身なれど、故あってヤブサメ部族に属すしがない魔術師さ。本日は突然の訪問、大変失礼した」
「わたくしの友人ですわ!」
「ヤブサメ……。ナタクがいる方の部族だったか。それで、マジメな話ってぇのを聞かせてもらおうか」
我は早速とばかりに話し始めようとしたところに、アスカが待ったと掛ける。何事かと注視すると、アスカは呆れたような素振りをして大きく溜め息をついた。
「はぁ〜。ラムザッド……お茶は出ないんですの? わたくし喉がカラッカラですのよ?」
「――だからおめぇらが急に来るからだろォ!?」
程なくして、お茶を出されてご満悦のアスカと、それを横目で憎らし気に悪態をたれるラムザッドとそれを傍観する我は円卓を囲んで顔を合わせ、我は大願の計画をラムザッドに全て話した。
「……アンタ、ものすげえこと考えやがるな…………」
ラムザッドが口をあんぐりと開けて驚いている。その後身を猫背になるほど乗り出して、深く考え込んでいた。
「わたくしはチギリに協力することに致しましたわ。ラムザッド、貴方の力も貸してくださらない?」
アスカが真面目な表情で一押し。だがラムザッドの返答はない。まるで全ての雑音を遮断するかのような深い思考の渦中に身を委ねているようだ。
「――ねぇラムザッドったら」
「――黙ってろ」
沈黙の黒虎の様子に痺れを切らしたアスカが一声投げかけると、それに被せてラムザッドが静かな圧力を声に乗せた。
頬を膨らませて抗議するアスカをしりめに、深い思考から帰還した様子のラムザッドはニヤリと獰猛な笑いを浮かべ、金色の瞳を輝かせた。
「アンタ。……さいっっこうに面白れぇ事やろうとしやがるじゃねえか! いいぜ、乗った! 俺も力ァ貸してやるッ!」
そう言って愉悦に笑うラムザッドの体から、毛並みに沿うように発電し始め、アスカが慌てて止めようとする。
「お止めなさいラムザッド! 貴方は興奮するとすぐ電気でるのですから、少し落ち着きなさいな!」
「……ケッ、わかってらァ……。チギリとか言ったか、アンタのその計画が成った時には、俺の部族を総力上げて参加してやらぁ」
「協力、誠に痛み入る。感謝するよ」
東方部族連合の代表者、3名のうち2名の協力を得られたわけだが、残るは人族代表である『ナタク・ホオズキ』に邂逅せねばならんな。
「これで残すはナタクだけですわね~」
「あの堅物がどういう反応すんのか見物だぜ! ククク……」
ラムザッドがクツクツと笑っている。妙に楽しそうだが、この二人と残る一人の関係性は僅かばかり想像できた。
「さあ! それでは早速向かいますわよ~!」
そう言ってアスカはラムザッドに魔力を送って魔術を発動させた。
「……はッ!? お、オイ! 何しやがるッ」
アスカの魔術でラムザッドの体が浮遊し始め、ラムザッドの服を引っ張って外へ連れ出しているところだった。
「決まっておりますわ! 貴方もわたくし達と共に参りますのよ~!」
重力を操り対象の重さに干渉する魔術だ。アスカは荷物を運搬するかのように騒ぐラムザッドを鼻歌混じりに運んでいく。
「オイ! さっさと下ろせッ! ……ちょっと待てまさか飛んでいくつもりじゃねぇだろうなッ!?」
「そのまさかですわよ~。大丈夫ですわ! 貴方を少し借りると先に側近の方には伝えておきましたの~。さあチギリ! 参りましょう~」
「なんだと!? だったら最初から連絡してから来いよ……ってうぉィ! やめろ! 俺ァ高い所は……ま、待て……!」
ラムザッドの必死の抵抗虚しく、空中で藻掻くだけで事態は好転してはもらえないようだ。
そしてラムザッドを掴んだまま満面の笑みで杖に跨り、颯爽と空に舞い上がり、黒虎の悲鳴が遠くへと木霊していった。
「……やれやれ。アスカの強引さは衰え知らずだな。ふふ」
我はそうほくそ笑み、アスカを追って空へと飛翔したのだった。




