Ep.109 決着
僕と、僕の剣に狙いを付けて猪突猛進する魔族が、青い炎を刃に纏う槍を高速で回転させたジークさんと肉薄する。
ジークさんは、回転力を残したまま槍を斜めに薙ぎ払い、全力を込めた突きを放つ!
薙ぎ払いは躱されたが強烈な突きは魔族の左肩を貫通し、背に生えた羽の片方を穿った。
膨大な魔力を込めた強化魔術で放った突きの威力は、魔族の肩と羽ごと吹き飛ばすほどで、魔族にとって看過できないダメージを負ったはずだった。
「ッ! ――抜けたかッ!」
だが、それでも魔族は顔を歪ませながら僕に迫る!
ジークさんが驚きの顔を浮かべながらこちらに振り向いていた。
サヤが迎え討つべく強化魔術を解放して瞬時に僕の隣から姿を消し、魔族に目をやるとすでにサヤはそこに居た。
「――止まり……なさいっ……よ!!」
サヤは刀身に纏わせた風の刃を素早く交差させるように二連の剣風を放ち、魔族の足に向かって飛ばした後、自身はしゃがむ程に低く屈み刀を左側に保ち刀身を寝かせ、魔力を急激に練り上げる。
サヤの刀から放たれた二つの風の刃は見事に魔族の両足を斬り付け体制を崩す! そこに目の前で魔力を溜めて屈むサヤが、魔力解放と同時に体を捻りながら右へ水平に斬り放ちながら飛び上がった!
体を捻りながら水平に刀を流す事で、竜巻のように回転し、強化魔術で跳躍して上昇、魔族を切り刻みながら打ち上げたのだ。
「グオアアアアッ!!」
打ち上げながら散々に斬り付けられた魔族は絶叫を上げた。
やがて回転を終えたサヤが素早く着地して叫んだ。
「――ウィニ! 今よ!」
名前を呼ばれたウィニは返事をする余裕もない程に魔力を杖に込めている。その強い意志を宿した眼差しはしっかりと魔族を見据えていた。
「――駆け巡れ光の如く、……鳴動せよ蒼き嘶き!」
宵闇の杖の宝玉が紫色に輝き、バチバチと電気が帯びる!
この魔術は知ってる。チギリ師匠との戦いでウィニが放った、水と風の複合属性魔術。雷の上級魔術だ!
「イレクトッ……ディザスターー!!」
ウィニが雷を帯びた杖を振り、打ち上がっている魔族に向けて魔術を発動させた。
杖から放たれる爆発的な威力の高密度な青い稲妻が魔族を直撃した!
術者への負担も大きく、ウィニは両手で杖を持ちながら衝撃で吹き飛ばされぬよう耐えていた。
「グゲ……――ギャアアアアアア!」
魔族がこの世のものとは思えないような悲鳴をあげる。
しかし倒すには至らない。相当なダメージを負っても尚耐え抜くのか!
「くさびん……あとは、まかせた……」
魔力枯渇で膝をつくウィニが僕に託す。
分かってる。僕が終わらせてくる……!
僕は、右肩を腕ごと失い全身血まみれで体から湯気を立ち昇らせて満身創痍な状態で立っている魔族と決着を着けるべく接近した。
相手はもはや風前の灯火だが、決して手は抜かない。
ジークさんが、サヤが、ウィニが繋いだこの勝機! 決して逃しはしない!
「はあああああっ!!」
僕は渾身の力で剣を振り上げ、魔族の脳天を狙って斬り下ろした!
――ギィン!
「――ッ!!」
魔族は僕の斬撃を残った腕の方の爪で受け止めていた。
だが瀕死だからか、抵抗はあれどさっきまでの暴力的な力を感じない。
「グググググ……!」
「――――ッ!」
僕は全力で剣を押し込む。徐々に魔族の爪を押しのけ、僕の剣の刃が魔族の肩口に食い込み始めた……!
「グアアアア! ……コノヨウナコトガアッテタマルカ!」
魔族は憎々し気に僕を睨む。刃はさらに深く食い込んでいく。
「魔王様ニ剣ヲ献上シ、幹部ニ取リ立テテモライ名ヲ頂クノダ! 名前サエ頂ケレバ貴様ラ如キニ遅レハ取ラヌトイウノニ……!」
名前を貰う? 少し引っかかったが構わず剣を押し込んでいく!
「――フ、不快ダ不快ダ不快ダ!! ソノ剣がオゾマシイ……! オノレ人間ッ!」
「おぞましいのは貴様ら魔族だ! 無惨に全てを奪って行った……貴様らだ!」
焼ける故郷と犠牲になった人達の姿を思い出し、思いを吐露した僕は、強化魔術を全開にしてとどめを刺さんと力を込める……!
「あああああああ!!」
「ガアアアアーーッッ!!」
互いの絶叫が戦場に木霊する。
もはや周囲で戦っている者はなく、人間も魔物も僕らの戦いの行く末を見守っていた。
「――もう何も奪わせはしない! 僕が! 僕らが取り戻す! あああああッッ!!」
渾身の力で押し込み、ついに刃が振り抜かれた……!
肩から斜めに分断された魔族は砂の地面に崩れ落ち、最期まで僕を睨みながら黒い塵となって消滅していった……。
魔力枯渇が近いようで頭が朦朧とする。
「……………………」
しばしの沈黙が辺りを支配する。
だが、どこからか兵士が『勝った!』と声があがり、それを合図に辺りは歓声に沸き立った!
そしてその歓声に混じって魔物達は悲鳴を上げ、悶え苦しみながら塵になっていった。
どうやら魔族を倒したことで、奴らは形を保って居られなくなったようだ。
「…………勝った……? ――勝った……!」
ようやく意識が追いついてきて、勝利を実感する。
ジークさんと、サヤ、ウィニが歩み寄ってきた。
皆全力を出してよろよろとした足取りだった。
それでもジークさんが僕の手を取り天に掲げさせた。
「魔族の大将はこの『クサビ・ヒモロギ』によって討ち取られた! 皆湧け! 我々の勝利だー!」
「「「おおおおーーー!!」」」
耳が割れんばかりの勝鬨が響き渡る。
ジークさんは白い歯を見せながら快活に笑い、僕の前に拳を突き出してきた。
サヤはウィニに肩を貸しながらこちらに微笑み掛けていた。ウィニはぐてーっとしていたが、猫耳だけはぴょんと立っていた。
「やったな、クサビ!」
「……はい!」
僕とジークさんは拳をぶつけ合い、互いに肩を組んだ。
その様子に辺りの兵士達はさらに歓声をあげるのだった。




