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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.108 魔族討伐戦

 ついにこの戦いを引き起こした張本人との決着をつける時が来た。

 相手は魔物よりも強力で残忍で名高い魔族だ。

 そして奴は魔王から、解放の神剣捜索の命令を受けている。

 ここでの敗北は、解放の神剣の損失、ひいては希望の灯が完全に消えることを意味する。


 絶対に負けられない!

 

 獰猛な笑みを浮かべながらこちらに接近してくる魔族が両手を振ると、鋭い爪がさらに鋭利に伸びてまるでかぎ爪を両手に装備したような状態になった。


 動きは早いが、目で追える。だが何かを隠しているかもしれない。慎重に注意深く観察するんだ……!

 

「マップタツニシテクレヨウ! ケケッ」

 魔族が右手を乱暴に振りかぶり、爪で切り裂こうとする。

 僕は剣を傾けて魔族の爪撃を受ける!


 何がそんなに楽しいのか、下品な笑いを響かせた魔族の爪が僕の剣に触れる。すると魔族の顔に怯えか、あるいは焦りの表情に豹変して飛び退いた。


「――キ、キモチワルイ……!」

「…………?」


 そんな魔族の様子を僕は訝し気に見ると、僕の剣を指差した魔族はこう言った。


「ナ、ナンナノダ! ソノオゾマシイ剣ハ!? 触レルノモ不快ダ!!」


「……なに? 一体何を言ってんだコイツは」

 ジークさんも突然の魔族の慌てぶりに眉を顰める。


 するとサヤが『もしかして……』と言葉を零すと、魔族を見据えて警戒しながら言葉を続けた。


「その解放の神剣は、言い伝えでは闇を払う力が宿るって言われていたわよね。もしかしてそれが関係しているんじゃないかしら……」


 なるほど、もし言い伝えが真実であったなら、微弱とは言えど魔族が嫌がる力が確かに宿っているということになる。


「アア、不快ダ……! 何故魔王様ハアンナオゾマシイ物ヲ欲シガルノカ……。ダガ……」

 魔族の顔が野心的な物に変わり、再び下卑た笑いを浮かべながら顔を歪ませた。


「コノ剣ヲ差シ出セバ、幹部ニ昇格モ夢デハナイ! ケケケケ! ――イクゾ」

 魔族は野心的な笑いを一変、ピタリと止めて無表情にして、強烈な殺気を放ってながら再び襲い掛かってきた!


「――――っ!」

 さっきより数段早い!

 僕は咄嗟に身を翻して魔族の爪を避けようと横へ飛んだ。


「痛っ!」

 しかし僕の脇腹を爪が掠め、僅かに切り裂かれて血が飛ぶ。


「クサビっ!」


 サヤが駆け寄ってきて僕の傷に手を押さえると温かい光に包まれて傷が癒えた。

 ジークさんも僕と魔族の間に位置取り、槍を構えている。

 ウィニは僕の右後方で魔族に杖を突きつけて、いつでも魔術を撃てる体制だ。



 魔族が猛然と襲いかかってくる!

 同時に僕達も動いた。強化魔術を練り込みながら砂の大地を蹴る。

 真正面から右腕を振り上げながら突っ込んでくる魔族を迎え討つ! 上から斜めに切り裂こうとする右爪をバックステップで躱すとすぐさま左手を揃えて爪を尖らせて貫こうと、僕の脇腹に差し込まれる。


 咄嗟にその爪を剣で受けて間一髪で直撃を防いだ僕は、強烈な衝撃で数歩後ろに弾き飛ばされた。


「オラァ!」

「はぁっ!」


 ジークさんとサヤが同時に挟み込むように魔族に攻撃を仕掛ける!


 ジークさんの刺突とサヤの袈裟斬りが魔族に迫る!

 それを魔族は左右の爪で二人の攻撃を受け止めると、力で強引に押し返しながら爪撃を放つ!


 爪によって武器が弾かれて仰け反るジークさんとサヤは、攻撃失敗と見るやすぐに距離を取った。



「えいっ」

 ウィニが宵闇の杖を振り、砂を固めた円錐の棘、ガイアショットを連続で放つ。


 魔族は飛来するガイアショットをことごとく払い落とし、余裕の表情を浮かべた。


「虫ケラガ束ニナロウト無駄ナコト! 大人シク息絶エルガイイ! ケケケ!」



 流石に戦闘力は高い……! 今までのどの魔物よりも危険な存在だ!


 だがなんとしてもここで倒さねば!

 何か有効な攻め手を見つけなければ……。


 ……とにかく攻めなければ勝ちは掴めない! ……あれを試してみるか……!

 


 僕は剣先を魔族に向け、両手で剣を持って構えた。


 そして強化魔術を解放して加速する!


「やあああ!」

 魔族を剣の間合いに捉え両手を振り上げて斬り掛かる直前、僕は足の強化魔術を解放して背後に回り込んだ!

 

 魔族は僕の動きにカウンターを仕掛けていたが、突き立てた爪の先には僕は既に居ない。


「ムウ!?」


 右手に発動させた火属性の魔術を、敢えて放たず手に保ち続けて刀身に滑らせる。

 やり方が根本から違うが、ジークさんの炎を纏った槍を見て思いついたのだ。


 解放の神剣の刀身に炎を纏わせ、足に目いっぱいの強化魔術を発動させて急加速。背を向けている魔族が一瞬で肉薄する距離に迫った!


「はぁーっ!!」

 そして渾身の力を込めて右上から斜めに斬り放った!

 剣の軌跡に合わせて炎が走り、魔族の背中を斬り裂いて――


 ――キィィン!


 ……いなかった! 魔族は即座に振り向き左爪で斬撃を受け、右爪を斜め上に振り上げてきた……!


「ぐっ……!」

 防ぎ切れずに体を裂かれる! 腕を少し裂かれて血が飛び散ったが傷は浅い! 精霊具の絆結びの衣で致命傷は避けられたのだ。


 僕は苦悶の表情で距離を取る。

 くそ! 隙を作らないと刃が届かない!


 そこにサヤが僕に近づこうとしたが、それを手で制して首を振り強気に笑みを作って見せた。

 治療してくれようとしたんだろう。だけどこのくらいでサヤの魔力を浪費させる必要はない。

 今は魔力を魔族を討つ事に使うべきだ!


 サヤは僕の意図を汲んでくれたようで、心配そうな顔をしたが小さく頷いて魔族に向き直って睨みつけた。

 


「クサビ! 連携していきましょう!」

「そうだ! 一気に叩き込むぞ!」

「援護する。まかせろ」


「皆……! よし、いくぞ!」


 サヤとジークさんの声に強く頷き、同時に距離を詰めた!

 ウィニも魔力を練りながら移動を開始していた。


 最初に魔族を間合いに捉えたのはジークさんだ。

 再び炎を纏った槍で、リーチを活かして連続突きを繰り出した。


「うおおらララララァ!」

 ジークさんの槍を持つ手がブレる程の高速で繰り出される連続の刺突!

 

 その槍が魔族を幾度となく貫かんとして、それを魔族は爪で弾き、いなし、身を翻して躱すが、全てを捌ききれずに至る所に槍による火傷や切り傷を付けていった。

 

「――ストーンフォール!」

 そこにウィニが風魔術で空中に浮かび上がり、大量の拳ほどの大きさの石礫を発射する!


 ジークさんの激しい刺突の連撃と、ウィニの大量に襲い来る石礫の物量で、動きを制限しようという意図を感じた。


 サヤが僕を見て頷き飛び上がり、僕はその動きに合わせて低空を跳躍して加速する。


 魔族は移動しながらジークさんの攻撃とウィニの魔術を躱しながら凌ごうとするが、二人の猛攻もそれを追尾して逃がさない。


「――小賢シイ真似ヲ……スルナァ!」

 怒りを剥き出しにした魔族が体を大きく捻って回転し、ジークさんの槍を弾き返して蹴りを放ち、ウィニの石礫を跳ね返し、ジークさんを吹き飛ばした!


「――っ!」

「うおっ! やるじゃねえか……!」

 

 ウィニは返ってきた石礫が当たって砂の上に落下して魔術が中断され、ジークさんは振り飛ばされる勢いを宙返りして槍を地面に突き刺して、吹っ飛ばされる勢いを抑えている。二人とも大した怪我はしていないようだ。



 そこにサヤと僕が同じタイミングで魔族に到達。サヤの高い位置からの斬り下ろしと、僕の足元に潜り込んでから胴体を狙っての斬り抜けを見舞う!

 

 ジークさんの対応で背を向けていたところに僕達の斬撃が魔族の背中と脇腹に剣閃を穿った!


「ガアアァァ!! オノレ虫ドモガァ!」


 効いてるぞ! 僕とサヤが付けた傷は魔族の体にしっかりと残っている。このまま畳み掛ければ……勝てる!

 僕とサヤは斬り付けたと同時に魔族から距離を取っていた。

 


 魔族が叫び、怒り狂いながら殺気を孕んだ真っ赤な目を僕に向け、まるで暴力の化身の如く危険な気配を纏わせて睨みつける。

 僕は闘志を燃やした眼差しで迫る魔族を睨みつけ、剣を構えた。

 

 それと同時に、体制を立て直していたジークさんが加速して、咄嗟に僕の前に立ち魔族を阻むように槍を構えて迎え討つ!


 右隣で刀を構えるサヤも僕と共に迎え討つつもりで刃の切っ先を魔族に向けて構え、ウィニが僕の左隣に移動しながら魔族を見据え、真剣な表情で杖を両手で持ち魔力を練り始めた。


 僕は胸に熱いものを抱きながら声を張り上げた。強大な存在を前に恐れは微塵も無い。

「絶対に負けない! この剣も、ここに生きる人達も魔族なんかに奪わせない!!」


「出来モシナイコトヲ宣ウナヨ小僧ーー!」

 僕の言葉に激昂した魔族が突っ込んでくる!


「ソノ剣ヲ寄越セエエエ!!」

「――させねえんだよ!」


 魔族は僕の解放の神剣に執着し、それだけを凝視して突っ込んでくる! そんな魔族にジークさんが真っ向から前進した!


 槍を回転させながら魔力を練り込んだ刀身が激しく発火し、赤い炎が青く変わる。


 僕とサヤが動き、ウィニが詠唱を開始した。

 今持てる力のすべてを魔族にぶつける為に!

  


 駆けながら過ぎる一つの予感があった。

 

 ――僕達と魔族がぶつかった時、決着が着く。

 何故かわからないけど、そんな直感とも言える予感が。


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