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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.106 怒れる三壁

 乱戦は続いていた。

 

 息つく暇もない攻防の只中で懸命に剣を振り続ける。

 徐々に疲労が見え始めるが 休むことは許されない。

 動きを止めた者からたちまち魔物に呑み込まれ、息の根をも止める事となるのだから。

 

 兵士達の懸命な応戦の甲斐あって、だいぶ数を減らした魔族の軍勢だがこの中央戦線においての戦力は未だ圧倒的な差があった。


 そして徐々に強力になっていく魔族の軍勢の猛攻に耐え切れず壊滅する連隊も出始めていた。


 しかし、こちらもただ兵力を消耗させるだけではない。


 左翼での戦線は優勢に事を運んでおり、一部の精鋭が中央戦線の加勢に来たのだ。

 

 さらには後方支援を担当する衛生部隊の増援により、戦場で負傷者の治療と魔術障壁の展開で、負傷者を下がらせて治療を受けたのち、戦場へ復帰させることができるようになった。


 極めつけに、前線で戦う兵士達にとって最も朗報であったのは、攻撃専門も魔導部隊の精鋭が、広い範囲に苛烈に魔術を撃ち込み、纏めて敵の数を減らしていった。

 率いるのはアル爺さんこと、アルマイト魔大将だ。


 大きな火球が後方から放たれ、僕達を飛び越えて魔物の群れのど真ん中に着弾すると、大きな爆発が起きてその辺りにいた魔物はまとめて灰塵と帰した。


 ここが踏ん張りどころの戦況で頼もしい後衛が支えてくれる。僕達や最前線の兵士達は奮起して武器を振り続ける。


 僕達を含め、最前線で戦う全ての兵士が高揚していた。

 それに対抗するかのように魔族の軍勢も殺意のこもる叫び声をあげる。


 両軍の雄叫びが飛び交う中、槍を振るいながら前へ前へと突き進むジークさんに続くと、前方から大きな影が複数接近してくる!


「一際デカイハイゴブリンが3体来るぞ! ヤバそうだ! やられんじゃねーぞ!!」

「……はい! ――サヤ、ウィニ! 気をつけて!」

「ええ! ……なによあれ!」

「……ぞわぞわする。むぅ……」

 


 3体の巨体が猛然と突撃してきた!

 かなりの興奮状態にあるようで、僕達を凝視する双眸は真っ赤に血走り、進路上にいる邪魔な魔物を吹き飛ばして黒い塵に変えながらこちらに向かってくる!


 敵味方お構い無しなのか!

 危険を感じた両軍の兵士と魔物が巻き添えになるまいと僕達の傍だけ場所が開き、周りは僕達の方に視線を集め歓声が巻き起こり、まるで観戦するかのような状態になった。

 

 

 大きな戦斧を担いだハイゴブリンがジークさんに向かい、それを迎え討つジークさん。

 サヤに狙いをつけたのは、盾と剣を持っているハイゴブリンだ。盾を構えて迫る! サヤは刀を構えて相手を見据えている。その表情に余裕はない。


 そして僕に接近してくるのは、重装の鎧で身を包みモーニングスターという、メイスの持ち手に鎖を繋げた先にトゲの付いた鉄球を付けた、破壊力重視の武器を振り回しながら狙いを定めていた。


 ハイゴブリンが到達する、ほんの数秒間分析した僕の表情が曇る。

 相手は僕より2倍近く大きく、しかも全身を鉄鎧だ。

 そして持っている得物が何より危険だ。

 

 ……ハイゴブリンの時点でかなり強力だというのに、装備の組み合わせでさらに厄介だ。


 全身鎧のハイゴブリンが目の前に迫り、僕は相手を見上げる。まるで大きな壁だ。その壁が腕を生やしてモーニングスターを振り下ろさんとしている!


「――っ!!」

 僕は歯を食いしばりながらモーニングスターの軌道を読んでサイドステップで右側に回避する。地面がモーニングスターの鉄球を叩きつけられて砂が巻き起こった。


 こんなもの食らったら即死だ……! しかし距離を取ろうにも後ろにはウィニがいるから下がれない。

 ――ここで踏ん張るしか……ない!!


 僕は相手を睨み反撃行動に移った。

 相手は頭も覆う全身鎧だ! 視界は悪いはず!


 僕はハイゴブリンの側面に周り混んで死角に入り込む。

 それを体ごと向けて目で追うハイゴブリンに、素早く反対方向に反復し、右往左往に撹乱させた。


 完全に僕を見失っているハイゴブリンの背後に回り込み、両手で握った剣を上段に掲げながらジャンプして、相手の脳天目掛けて力いっぱい振り降ろした!


 ――ガンッ! という鉄が打たれる音が響き、ハイゴブリンが呻き声をあげながら一瞬よろけたが、すぐに持ち直してモーニングスターを水平に振り回してきた!


「――ッ!!」

 咄嗟に身を屈むと、僕の頭のすぐ上を殺意の塊がすごい勢いで通過したのを感じた。


 ハイゴブリンが僕に向き直る。どうやら荒い呼吸を繰り返しているのか、肩が上下に動いて鎧の億から激しい怒気が漏れ伝わってくる。


 ハイゴブリンの頭に打ち込んだダメージはあったようだが未だ健在だ。僕の腕ではコイツの鉄鎧を斬り裂く事は出来ない……! どうする!


 目の前の壁を打ち壊す一筋の光明を見出さなければならない。

 僕は固唾を呑んで対峙し、剣を強く握り直していた。


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