Ep.104 怒号、剣戟、断末魔
戦場を駆ける。俺らの兵力はおよそ3000。対して魔物は弱いものも含め、ざっと1万はくだらんだろう。
兵力差は歴然。だが俺らグラドの民は怯まない。
皆がここに生きる民の為、愛する者のため、守りたいものの為勇敢に戦っているのだ。
俺はその模範とならんが為、戦場を転々として兵を鼓舞しながら回った。
陣形が崩れそうな部隊に加勢し、空いた穴を埋めてまた別の戦地へ向かうを繰り返した。
俺と共に戦場を駆ける、東の大陸から来た少年達も良く着いてくる。一人一人の戦闘力は抜きん出ている程ではないものの、まだ砂地の戦闘に慣れていないのだろうに、仲間と上手く連携しながら支え合っていた。
俺が守ってやらねばと思っていたが、どうやらその必要はなさそうだ。
ならば背中は任せた。目の前の魔物を蹴散らすのみ!
「兵達よ奮起せよ! 俺が来たぞ!!」
「ジーク様だ! うおおおお!」
最前線を転々とする度ジークさんが雄たけびをあげる。
その度に兵士達は沸き立ち士気は最高潮になって、瓦解しかけていた戦線に再び反撃の力が蘇った。
「兵達よ恐れるな! 敵は数は多いが雑魚ばかり! 俺と共に目の前の敵をぶっ潰すぞ!」
「おおおおおーっ!」
苦戦していた戦線が、ジークさんの存在だけで雰囲気がガラリと変わったのがわかる。
もはや熱狂的と言っても過言ではないほどの忠誠心が兵士達に宿っていた。
「大盾歩兵隊! 用意! 槍隊ッ! 構えーい!」
重厚な鎧と体のほとんどを覆い隠す程の大盾を構えた兵士達が、大盾を隣り合わせて隙間なく並び、最前線で押し寄せる魔物を食い止める。兵士自身の強化魔術と支援魔術を受けて、まるで堅牢な壁のようだ。
そしてその大盾の隙間から狙うは、大盾歩兵隊の後ろで合図を待つ槍隊だ。グラド自治領の歩兵部隊は、攻めの槍、守りの大盾の部隊で構成されているようだ。
「突け!」
「「「応ッ!!」」」
大盾の隙間から掛け声と共に一斉に鋭い槍の刺突が放たれ、最前線の弱い魔物はそれだけで黒い塵になり、肉薄していた両軍の間に少しばかりの空白が生まれた。
「押せッ!」
「「「応ッ!!」」」
すかさず大盾歩兵隊が前進し、激しく魔物に打ち付け怯ませる! 壁のような質量と化した大盾歩兵隊のシールドタックルで前線の魔物がよろめく。
「突けー!」
「「「応ッッ!」」」
そして大盾歩兵隊の前進と呼応して槍隊も前進し、よろけた魔物に刺突を見舞う。この繰り返しで魔物達は大した成果を得られないまま数を減らしていく。
……凄く綺麗に揃った連携だ。ジークさんの一声で崩れかけていた前線が持ち直している!
「――よし、ここは持ち直したな。次に行くぞ!」
「ジーク様! ウォード剣大将より伝令です! 中央戦線に強力な魔物出現により、防衛戦が一部崩壊! 乱戦中との事!」
指揮の末戦線を持ち直したのを確認していたジークさんの元に、伝令の兵士が駆け寄ってくるなり報告している。
「わかった! 俺達も行くぞ!」
「はいっ!」
伝令の報告を聞くなりすぐさま駆け出すジークさんを僕達は追従した。
夕焼けも姿を隠し、月明かりの下で喧騒が辺りを支配する戦場に、上空では間断なく魔術の光が放たれている。
これから味方を支える為に、乱戦状態に陥った中央の戦線に飛び込む。既に厳しい寒さに包まれた夜の砂漠とは裏腹に、僕の胸の内では熱い何かが灯っていた。
中央戦線が見えてきた! このまま敵と味方の間に飛び込むぞ!
「はあああっ!」
僕は跳躍して、ゴブリンの上位種である『ホブゴブリン』に側面から斬り込み、気合いを乗せて首を撥ね飛ばした。
そして剣を構えて魔物の攻撃に備えると、ジークさん、サヤ、ウィニがすかさず僕の近くに位置取り陣形を組む。
押し寄せてくる魔物の軍勢は、既にゴブリンのような下位の魔物は既に倒されたようで、中位の魔物が散見されるようになっていた。
僕達はひと塊になってはぐれないように魔物と交戦する。その中でジークさんの姿に気づいた味方の兵士達が徐々に集まり陣形を形成し始めた。
「ジーク様だ! ジーク様が加勢に来られたぞ!」
「おうよ! お前ら気張れァァ!」
兵士達を奮起させたジークさんは、襲いかかる魔物を豪快に槍を振り回してなぎ倒していく。
そこへ大きな鎌を両手に付いたカマキリの魔物、ブレードマンティスが左腕の鎌を上げながら接近してくる! この魔物は危険だ!
「サヤ! アイツを止めるぞ!」
「ええ!」
僕とサヤはブレードマンティスの前に躍り出て、僕がブレードマンティスの、凶刃振り下ろさんとする左腕の鎌を剣で受け止め、サヤが刀でブレードマンティスの右腕を斬りあげ飛ばした!
僕達の奇襲に怯むブレードマンティスを、僕は袈裟斬りで左腕の鎌を斬り裂き、そのまま右手に剣を持ち替えながら水平斬りでブレードマンティスの頭を狙って振り抜いて、力尽きた魔物を黒い塵へと変えた。
倒すと黒い塵になる為、魔王の眷属だと思うが以前ボリージャで見たブレードマンティスよりも数段劣る。眷属でも強さは一定ではないようだ。
……よし! 強敵だがこれなら皆と戦えば倒せるぞ!
僕は油断なく周囲に気を配り、近づく魔物から斬り伏せて行った。
僕の右側にはサヤが魔物を受け流しながら斬り返しており、後ろではウィニが無詠唱の魔術を飛ばして援護し、左ではジークさんが大暴れしていた。
「陣形を組んで互いに守り合え! 巻き返すぞ!!」
「「「おおーーっ!」」」
兵士達の気合いの入った掛け声が響き、戦意が伝播していく。それは僕達も例外無く、剣を握る手の力が一層こもる。
「サヤ! ウィニ! 僕らもジークさんに続くよ!」
「ええ……! やるわよ!」
「……ついてく……っ!」
絶え間なく迫り来る黒い軍団と、祖国への想いを力に変えて立ち向かうグラド自治領軍の兵士達。
怒号飛び交う戦場に、幾度目かの激しい激突を繰り広げるのだった……!




