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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.102 いざ、戦場へ!

「――急がねば……!」


 僕達は砂船に乗り、サルカ達を急がせながらグラド自治領に向かって進んでいた。


 無事サンドワームを討伐したのも束の間、魔物の大軍に街が襲われているというのだ。


 ウォードさんの苦悶の表情が事態の深刻さを物語る。

 緊迫した雰囲気が辺りを包み、僕達は誰一人口を開くことなく街がある方に目をやる。


 先を急ぐサルカ達にも疲れが見え始めていた。そろそろ休ませてあげなければ潰れてしまう。


 ……などと考えているうちに砂船の速度が著しく低下していた。サルカにも限界が訪れたのだ。これ以上進ませては街に着くのが返って遅くなり兼ねない。



 やむを得ず足を止めてサルカ達を休ませることにした。




 サヤとミリィさんが回復魔術を掛けて、できる限りサルカを休ませている。

 その間も僕は終始落ち着かなかった。

 今こうしている間も街の外では国の存亡を賭けた戦いが繰り広げられているのだから。


 焦る気持ちだけが逸り、ウロウロしてしまう。


「クサビさん、落ち着いてください。今は休めるだけ休んでいてください」


 ウロウロと落ち着かない様子も僕に見かねてか、ウォードさんから声を掛けられた。


「でも……今こうしてる間にも街が危険に晒されているかもしれないと思うと……!」


 街の人達が魔物に襲われている光景を想像してしまい、それが故郷を襲撃された悲惨な光景と重なって、居ても立ってもいられなくなる。

 あんな悲劇はもうたくさんなんだ! もうあんな悲しみを抱える人たちを増やしてはならない……!


「……ウォードさんはどうしてそんなに落ち着いていられるんですか? 故郷が襲われているのに……!」

 僕は自分の感情を引きずったままウォードさんに問う。


 するとウォードさんは強い眼差しで僕を見返し、落ち着いた口調で問いに答える。


「もちろん私とて、グラドが心配ですよ。ですが我々は軍人です。いついかなる時も冷静であるべきと、己を律する義務があるのです」


 言葉を紡ぐウォードさんの眼差しに一片の迷いもない。

 同じようにリトさんとミリィさんの眼差しも同様に、僕を見据えている。

 

 心配じゃないわけがないのだ。当たり前じゃないか。それなのに僕はまるで気にしていないのかと勘違いしてしまって、ウォードさん達の覚悟を軽んじたんだ。

 

 ……それに気づいた時、僕はまだ人としても未熟であると思い知った。


「……すみませんでした。失礼なことを言って…………」

 僕は深く反省し、その分深く頭を下げて三人に謝罪した。

 そんな僕をウォードさんは優しく僕の肩をポンと叩く。


 僕が頭を上げてウォードさん達の顔を見ると、皆優しい眼差しを僕に向けていた。


「いいんです。街の人々の心配をしてくださった事、感謝しますよ。……それに我が軍にはそう簡単にやられるような軟弱者はおりませんから」


 そう言ったウォードさんは眼鏡の位置をくいっと正しながら不敵な表情をしてみせた。


「――そこでクサビさん。貴方達にもう一つ依頼を頼みたいのです」

 真剣な表情に戻したウォードさんが僕に言った。近くで話を聞いていたサヤとウィニがこちらに集まってくる。

 ウォードさんの後ろには、リトさんとミリィさんが姿勢を正して並んでいる。


「街に到着したら我々は魔物の迎撃をすることになります。貴方達の力を貸して頂きたい。その報酬はきちんと支払います」


 ウォードさんがそう言うと敬礼し、リトさんとミリィさんもそれに倣った。


 仲間に確認するまでもない。皆心は一つだ。


「もちろんです。ぜひ僕達にも守らせてください!」


 僕達も強い意志を眼差しに込めて頷いた。それを見たウォードさん達も頷く。


「サルカ達もそろそろ動けそうですね!」


 と、サヤが知らせる。


「では皆さん砂船に乗り込んでください。出発します!」


 僕達を連れて再び砂の海を泳ぎ出したサルカ達。

 その先起きるだろう激しい戦いの予感に、僕の胸は緊張で高鳴り出すのだった。




 



「第4歩兵中隊! 陣形を崩すでないぞ! 支援部隊の支援を受けた小隊は前線と交代するのじゃ!!」


 魔物の大軍に攻め込まれ、両軍激しくぶつかり合う戦場を喧噪が鳴り響いていた。

 儂が率いる中央方面軍は、愛する故郷グラドを背に布陣し、一進一退の攻防を繰り広げている。ここを抜かれれば、今日世界から一つの国が消えることになろう。


「全魔導中隊! 一斉に範囲魔術を放つのじゃ! 儂の魔術に続けい!」


 部隊に指示を飛ばし、儂は杖に魔力を込める。

 この『白賢のアルマイト』! 老いてもまだ力は衰えてはおらんぞい!


「各隊! 面制圧支援開始じゃ! 放てーーい!!」

 儂は杖を振り抜き魔術を発動させる。

 上空に発現した何個もの大火球を降らせ、着弾後爆発を起こす魔術。名付けて『バーンメテオ』じゃ!


 儂のバーンメテオに続き、次々と各部隊が放った魔術が魔物の大軍に襲いかかる。

 着弾後、魔術障壁を受けた大盾歩兵隊が前進して前線を押し上げる。


 そして大量の魔物の群れが大盾歩兵隊に襲いかかる!

 堅牢な大盾歩兵隊は一歩も引かずに攻撃を受け止めて耐える。


「――第2射! 放てーい!」

 再び魔術部隊による範囲魔術が発動する!

 そして大盾歩兵隊が前進していく!

 時折、攻撃によって魔術障壁が破られた部隊と、魔術障壁を受けた部隊が入れ替わる。


 この戦法ならば被害を抑えながら戦う事ができるのだ。圧倒的に戦力差を覆すには戦闘不能者を減らすことが肝要。


「アルマイト魔大将! ジーク様率いるサルカ騎槍隊が敵陣の側面を食い破っております!」

「うむ! 包囲されぬよう援護じゃ!」

「はっ!!」


 我が総大将殿は最前線で大暴れ中じゃて。

 若の武力はこの国最強じゃ。そうそうやられることはない。だが万が一ということもある。援護は欠かさないよう指示する。



 対する魔物の大軍はただ突っ込んでくるばかりで、大きな動きを見せぬ。この戦い、この先どう転ぶか……。

 


 儂は再び魔術を発動させ、ひたすらに敵の数を減らし続けた。


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