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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.98 サルカに乗って

 明くる日。

 今日はジークさんの依頼を解決する為出発する。

 今回の仲間は僕達希望の黎明のメンバーと、ジークさんの側近の一人であるウォードさんと、その部下のリトさんとミリィさんが同行して6人で行う。


 

 僕達は支度を整えて待ち合わせの首長の邸へ向かった。


 首長の邸前に着くと、ウォードさん達は既に待機していた。三人とも昨日の軍服姿と違い旅装束に身を包んでいた。

 佇む雰囲気もどこかリラックスしているようだ。


「おはようございます。皆さん。今日はよろしくお願いします!」

 ウォードさん達に挨拶すると、それぞれ挨拶を返してくれる。


「では早速参りましょうか。こちらです」


 僕達はウォードさんの案内で出口まで移動する。

 その間僕の後ろではミリィさんがサヤとウィニに話しかけながら和気藹々と会話を弾ませていた。

 ミリィさんは人と話すのが好きみたいだね。割りと幼く見えるけど、どこか大人っぽい雰囲気を漂わせるところがある不思議な人だ。


 そんなふうに思いながら僕もリトさんに話しかけて見ることにした。


「リトさん、サルカってどんな動物なんですか? 僕初めて見るんですよ」


 リトさんは僕に見下ろして爽やかに微笑んで返す。

 身長差が凄いからどうしても見上げる形になっちゃうな。体格差も凄いんだけどね。


「サルカはですね、砂を泳ぐように移動する生き物ですよ。海にイルカという動物がいるでしょう? サルカはイルカの進化した姿らしいですよ」


「なるほど〜、名前も似ていますね!」

 イルカも見たことないけど、村にいた時に本で読んだことがあるからなんとなくイメージは出来る。あれに似ているのか。


「ふふ! サルカはとっても可愛らしいんですよ〜? それにとても賢いいい子なんです!」


 後ろからミリィさんが話に入ってきた。

 人好きのする雰囲気で楽しそうに話しかけてくれるとこちらの気分も楽しくなってくる。


「楽しみです! でも上手く乗れますかね?」

「大丈夫ですよ。私達はサルカに直接乗るわけじゃありませんからね」

 と、リトさんが教えてくれた。


「私達は砂船に乗って、それをサルカちゃん達に引っ張って貰うんです! でも臆病なので魔物が出たら私達でやっつけましょうね!」


 なるほど。それなら安心だ。僕は馬も乗れないからなぁ。


「――そろそろそのサルカとご対面ですよ、ここからは魔物が出ます。気を抜かないように」

「はあい」


 話していたらいつの間にか街の出口まで来ていたようだ。

 ウォードさんの言葉に返事しながら、ミリィさんは僕達の方に向いて、ウインクしながら舌を少し出しておどけてみせる。



 街の外ではウォードさんの部下の兵士が三匹のサルカを引いた砂舟と待っていた。


「ウォード剣大将! お待ちしておりました!」

「ご苦労様です」

 待っていた兵士はウォードさんを見ると綺麗な敬礼をした。それにウォードさんは片手を軽く上げて返した。


「サルカの準備は出来ております! いつでも出発できます!」

「了解しました。貴方は持ち場に戻って大丈夫です」

「はっ! 失礼致します!」


 兵士さんが小走りで去っていった。



「さあ! 皆さん、この子達がサルカちゃんですよ〜!」

「はわあ〜! 可愛い〜!」


 ミリィさんが、待機しているサルカを両手で差して紹介すると、サヤがサルカを見て感激していた。


 サルカは確かにイルカみたいな顔をしているが、砂の上を移動しやすそうな大きなヒレが特徴的だ。

 愛くるしい見た目にサヤが歓喜するのも納得だ。


「今日はよろしくね、サルカ達」

 サルカの頭を優しく撫でると、サルカはクィ〜と鳴き声を上げて応えてくれた。



「さあ、そろそろ乗り込みましょう。皆さん」

 リトさんが呼びかけて、僕達は砂船に乗り込んだ。




「おー。はやい」


 僕達を乗せた砂船を引くサルカ達は砂の上を軽快に進む。その速度は僕達が苦心しながら歩くよりも何倍も早く、ウィニが淡白ながらも感動していた。本人はかなり心踊っているようで、尻尾がそれを物語っている。


「何回かサルカを休ませながら、このペースを維持して進みましょう。途中で魔物に遭遇した場合は応戦を。周囲に警戒していてください」

「分かりました!」


 ウォードさんが簡潔に説明すると、リトさんとミリィさんはそれぞれ別方向を監視し始めたので、僕達も他の方向を警戒することにした。



 そうして進み、2時間程経過したあたりで疲れを見せ始めたサルカ達の為に、丁度いい岩陰に止まって休ませる。

 僕達は周囲の魔物からサルカを守る為、ここでも警戒を解かないのだ。

 この依頼でサルカでの移動は要だから、何よりもサルカを守らねばならない。


 この子達を危険な目には合わせないぞ。と僕は意気込み、腰の剣に手を掛けながら警戒を続けた。


 そこへ後ろからミリィさんがやってきて、僕は肩を軽くとんとんと叩かれて振り向いた。


「クサビさん、そんなに気を張らなくて大丈夫ですよ〜。サルカちゃん達の周りに防御魔術の一種の『結界』を張ってますから!」

 そう言いながらミリィさんはくすくすと笑っていた。


「そうですよ。ミリィ魔曹長の神聖魔術と防御魔術は、我が軍でもお墨付きですからね!」

「おぉ……凄いですね」

 リトさんの言葉を受け、僕は素直に感心する。

 結界というものを初めて知ったよ。


「うふふ! 私の結界は魔を阻むものなので、魔物は結界の中には入れないんですよ〜!」

「わあ……野営で重宝しそうですね! ……ミリィさん、私に結界を教えてくれませんかっ」

「まあ……! もちろんですよ!」


 サヤがミリィさんに結界の使い方を熱心に聞いている。

 たしかに誰かが結界を使えれば野営でも安心だし、精神的な負担はかなり軽減できるな。


 サヤはいつだって誰かの為に動いて来たことを、僕は知っている。

 今回も皆の為に結界を使えるようになりたいのだと思うと、僕のサヤに対する想いが疼いた。



「――神聖魔術の素質はあるので、あとは練習あるのみです! サヤさん、頑張って!」

「ありがとうございますミリィさん! 毎日練習してものにしてみせます!」


 ミリィさんとサヤがお互いに笑いあっている。

 この短時間でかなり仲良くなったようだ。


 

 僕は休んでいるリトさんに、もう一つ質問をしてみる。

 今までの会話の中で気になっていた事があったのだ。


「そういえば、リトさんの階級にある剣少尉の『剣』と、ミリィさんの魔曹長の『魔』って、どう分けられているんですか?」


「ああ、軍属ではないと分かりませんよね。この国だけでは無い話ですが、使い手が剣士なのか魔術師かで分かれているんですよ」


 そういえば冒険者になった時に、近接を担う者の総称を剣士。遠距離攻撃を担う者の総称を魔術師と呼ぶことを思い出した。

 

「なるほど、つまり階級でどういうタイプの人なのか解るようにしているんですね!」

「その通りです。きっとこの先も耳にする事もあるでしょうから覚えておくといいですよ」

 

 リトさんは穏やかに微笑んで、丁寧な口調で教えてくれた。大柄ながら穏和な人だからか、不思議と頼りたくなってしまうな。


「疑問が解消されてすっきりしました。ありがとうございます!」

 

 休憩の邪魔しても悪いので僕はその場を離れた。


「あれ? そういえばウィニは?」

 僕はキョロキョロと見渡してウィニを探した。

 ある予感が過ぎったからだ……。


 僕は音を立てずにそうっと岩陰の、影か深まっているところに近づくと、ゆらゆらと揺れる白いしっぽを見つけた。



「ウィニ」

「むぐむぐ。うまうま」


 岩のちょうど体がすっぽり入れそうなくらいの窪みにウィニが背を向けていた。猫みたいに狭い場所に入りたがる習性でもあるんだろうか。

 いや、今はそれよりも…………


「……ウィニ」

「むごむごもごもご…………あ、くさびん」


 案の定一心不乱に何かを食べているウチのパーティの胃袋担当。


 チラッとこちらに咀嚼しながら振り返るウィニが、ごっくんと口の中のものを飲み込んで、仏頂面で宣う。


「これは、おやつ。お昼ごはんはちゃんと食べるから、さぁやにはないしょだよ」

 と、言うと『てへ』と言って舌を少しだけだしてあざとくしてみせる。……何処で覚えたそれ。それに弁明するとこそこじゃないし。


「………………」

 警戒中でだっていうのにこの猫は〜〜〜!

 まったく悪びれない様子になんだか腹が立ってきた。

 ……今日は甘やかさないからね!


「……すぅぅぅ」

 僕は大きく息を吸い込み……

 

「にゃ!? くさびん待っ――」


「サヤー! ちょっと来てくれー!」

「んにゃー!」


 この世の終わりのような表情のウィニが、血相変えて飛んできたサヤに見つかってこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

 サヤのウィニへのお説教が続く中、ウォードさん達は苦笑し、僕も『いつもの事なんですよ……はは……』と、この砂のように乾いた笑いを出すしかないのだった……。


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