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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
第5章『熱砂を征く者達』
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Ep.97 砂漠の討伐依頼

 首長の邸を訪れた日の翌日。

 僕達が泊まる宿に、首長の遣いを名乗る役人が訪ねてきた。


 その役人さんの招待の言伝に従い首長の邸へ向かうことになった。


 僕の心中はどんな依頼なんだろうとワクワク6割、また過酷な砂漠を移動するのかというゲンナリ4割だ。



 首長の邸に到着して謁見の間に通される。

 そこにはすでにジークさん、ウォードさん、アル爺さんの三人が昨日と同じ立ち位置で待っていた。


 いや、今日は他に二人待機していた。

 部屋の端で直立で控えている。



「おう、昨日振りだな! 召還に応じてくれてありがとうな!」

 と、一番偉いはずなのに一番気安い様子のジークさんがさわやかな笑顔で片手を上げて言った。


「こちらこそ、これほどに早くお呼び頂き感謝致します」

 と、僕は隣のサヤの小声に倣って言葉を発した。


「では早速じゃが、お客人に依頼を伝えるとしようかの」

 アル爺さんは今は宰相モードなんだね。それなら僕もそのように振舞おう。


 そこで、ウォードさんが一歩前に出てきた。

「では、それは私から説明致します」


 僕達は居住まいを正してウォードさんを注視した。

 するとウォードさんは眼鏡の位置を直す仕草をして話し始める。


「皆さんに依頼するのは、『サンドワーム』という魔物の討伐です」


 サンドワーム……。確か図鑑に載っていたな。

 砂漠に出没する大きな芋虫のような、もしくはミミズのような魔物だったはずだ。顔の大部分を口で占め、目が退化しているため音に反応してくるのが特徴だ。


「我が国の重要な収入源である『地霊石』という貴重な鉱石が採れる場所にサンドワームが住み着き、現在採掘が滞っているのです」


 なるほど。それを僕達が解決できれば国の利益を回復させる事が出来るということだね。


「今回現れたサンドワームの中でも巨大な特殊個体で、非常に危険な魔物です。そこで現地には私とそこに控える部下二名が同行します」


 そう言うとウォードさんは手を部下の二人に向けて僕達の視線を誘導させた。

 部下の二人はその場で綺麗なグラド式の敬礼をして声を張りあげる。


「第2哨戒部隊第1連隊所属『リト・ハルバロード』剣少尉であります!」


「衛生部隊所属『ミリィ・エメラルダ』魔曹長でありますっ」


 今しがた秩序の行き届いた挨拶をした二人が今回一緒に討伐に参加してくれるようだ。

 

 リトと名乗った黒い軍服の男性は筋骨隆々とした体格で、短く揃えた茶色の髪と瞳で20歳くらいに見えた。背中には大剣を背負っていて、いかにもパワータイプな印象だ。


 ミリィと名乗る白い軍服の女性は、緑の髪を一本の長い三つ編みを後ろに垂らしていて、くりっとした目に黒い瞳が印象的だ。

 背丈はサヤより少し低いくらいだったが、軍用ローブの上からでも目立つ女性的な曲線が際立つ。

 彼女も18歳から20歳くらいだろうか。右手には杖を持っているあたり魔術師なんだと思う。



「よろしくお願いします!」

 僕は笑顔で二人と握手を交わす。


 顔合わせは一通り済み、ウォードさんが話を再開させた。


「出発は明朝です。各自それまでに出発の支度を済ませておいて下さい」

「分かりました。……ウォードさん、サンドワームの住処までの距離はどのくらいなんですか?」


「その事ですが、明日は『サルカ』という、移動用の動物に乗って移動します。サルカに乗れば半日程で着くでしょう」

「分かりました!」


 サルカとはどんな動物なんだろう。

 気になるが明日になればわかることだ。今日は準備をしっかりしないとね。



「詳細は理解したようだな。くれぐれも油断するなよ? 頼んだぞ!」

「儂も同行できれば良かったのじゃが、二人も離れる訳にもいかんからの。任せたぞい」


 ジークさんとアル爺さんの期待の言葉を受け取った僕達は大きく頷いた。


「では明日、ここで」

「はい! では失礼しますね」


 

 僕達は首長の邸を後にする。

 明日からまた砂漠を移動する事になる。足りないものがないか確認しないとね。


「ねぇねぇ、さっきウォードさんが言ってたサルカって、どんな動物なのかしらね? 馬みたいな感じかしら」

「わたしも見たことない。きになる」


 サヤとウィニも気になってたんだね。

 かくいう僕も、明日が少し楽しみだったりするんだ。


「明日になればわかるさ! 歩いて移動しなくて良さそうでだいぶ助かるよ〜」

「ふふ! そうね! 砂の上は歩きづらいし疲れやすいものね」

「らくちんは、さいこー」



 三人はそんな他愛もない会話をしながら明日の支度をして、依頼に向けてしっかり体を休めることにしたのだった。





 ――月明かりに照らされた、とある夜の砂の海での事。

 

「――――様、準備ガ整イマシタ」

 報告を受けた異様な気配を放つ魔族は、跪きながら報告した部下の眷属の魔族の言葉に頷いた。

 

「そうか。戦力は十分なのであろうな?」

「万事抜カリナク。オ任セクダサイ」


 そう言って部下の魔族が跪いたまま片手を上げて合図をすると、異様な気配の魔族の眼前の砂の海の下から夥しい数の魔物が剥い出て、整列した魔物の様相は瞬く間に軍勢と化した。


「……いいだろう。あの人間の砂の国を、魔王様に献上してみせよ!」

「ハハーッ!」


 そして異様な気配の魔族はなんの感情も表さずにその場で翻ると、身に纏う黒衣に覆われ、その場から影も形も消え失せた。


 残された部下の魔族は、立ち上がり踵を返して魔の軍勢に振り返り一喝した。


「サア! 進メ! アノ国ノ人間ヲ皆殺シニスルノダ! ユケー!」


 その檄に乗せらせた魔の軍勢から、おぞましくけたたましい叫声が巻き起こり、黒い波のように砂の海を駆けていった。


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