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進化の極致

 先程の二体を送り込んできたという事は、魔王フランチェスコは既にこちらの動きに気づいているという事だ。

 俺たちは次の迎撃を準備する間もなく畳み掛けるべく、魔王城の廊下を走った。


 「ああもう、ここが何階とか書いておけよ! どんだけ走ればいいんだよこれ!」

 「……上から、大きな音がする。多分、そこが終着点だろうな」


 走ったせいで随分と息の上がったヒビキが言う。

 彼女の胸で揺れるものについては、なんとか目を逸らして見ないようにする。

 そこはこう、見てしまったら親友として敗北感があるというか……。

 

 ヒビキの言う大きな音は、ガタガタと動く洗濯機が出す音に似ていた。

 しかし、それよりも遥かに大きく、得体の知れないものに聞こえる。

 何かマズいことが進行しているような、そんな感触がするのだ。

 

 大きな階段を駆け抜けてると、廊下の奥に扉が見えてくる。

 他の階層とは違い、この階には奥の扉以外に部屋は存在しないようだ。

 上に登る階段も存在しない。

 ここが最上階であり玉座、という事だろう。

 

 今まで見た中で一番大きな扉だった。

 装飾の類は相変わらず存在しないが、配置からしてこの城の玉座、魔王のいる場所だろう。

 扉の奥からはヒビキの言っていた大きな音が響いている。

 

 ノブを回しても扉が開かない事を確認すると、シュカが思いっきりキックをかましてドアをこじ開ける。

 

 「お邪魔しまーす!」

 「……騒々しいな」


 大きな部屋の奥にいたのは、神経質そうな顔をした白衣の男だった。

 ヒョロヒョロとした細い体は人間の基準で言えばかなり背が高い。


 ここに一人でいるという事は、あれが魔王フランチェスコだろう。

 

 一見すれば、貧弱な研究者と言った風貌。

 しかし、獣王国を滅亡寸前まで追い詰めた魔王フランチェスコが見た目通りの弱さとは考えづらい。

 

 彼の目の前には、巨大な実験カプセルがあった。

 騒々しい駆動音を響かせるそれが、下の階まで響いていた音の出所だった。

 

 中では、肉の塊が培養液の中に浮いていた。

 

 生物の肉を継ぎ接ぎにして作られただろうそれは、辛うじて人型のような状態を維持している。

 

 合成獣(キメラ)の作成途中なのだろうが、その見た目はあまりグロテスクだ。

 強いて言えば、無理やり肉を押し込まれたソーセージのようなイメージだろうか。

 パンパンに張った筋肉は所々皮膚を突き破って露出している。

 

「しかし良いところに来たな。私の最高傑作が完成した所に、ちょうど実験相手が来たのだからな!」


 フランチェスコが昏い笑みを浮かべて装置のボタンを押すと、実験カプセルが激しい音を立てて崩壊した。

 カプセルから出た肉塊が地面にべちゃりと落下する。

 

 ぶちまけられた培養液が足元に流れ出るのも気にせずに、フランチェスコは肉塊に近づいて行った。

 その口元には不気味な笑いが浮かんでいた。

 

「嗚呼……これこそ私の追い求めた究極の生物……進化の極致だ……!」

 

 肉塊がフランチェスコの声に反応するように蠢いた。

 地面に横たわっていた肉塊が、意志を持って動き出す。

 フランチェスコがそれに腕を伸ばすと、肉塊はナメクジのように絡みついた。


「な、なんだ……?」


 最初はフランチェスコが反乱でも起こされたのかと思った。

 しかし彼自身の表情は先程の不気味な笑顔であり、この事態を予想済みだった事を感じ取れる。


「究極の生命……その研究の中で最も課題となったのは、知性と屈強な肉体の両立だった」


 まるで夏休みの自由研究を自慢する子どものように、彼は語り出した。

 その間にも肉塊はどんどんと彼の体を覆っている。


 「知性を上げようとする程に脳はより大きく、よりデリケートになる。これは屈曲な肉体を作る上で大きな課題だった。私は試行錯誤の末に、一つの結論に至った。――知性を付与する事は諦め、後付けの形で搭載すれば良い」

 

 やがて、二つの生命体は完全に融合した。

 肉塊はフランチェスコの体を覆うようにして形成され、人型になる。

 しかしそれは、もはや元のフランチェスコとは全く違うシルエットとなっていた。


 身長は3m近く。それに合わせて手足もまた人間離れした長さになっている。

 強化外殻というよりもむしろ、フランチェスコを核として取り込んだ別の生き物と思った方が近いのかもしれない。

 

 「私の作り出した究極の肉体を、私の優れた脳で操作する。これこそが長年の研究の結論。そしてこの姿こそが、真に究極の生命であり進化の極致――『終極獣エクストリームビースト』なのだ!」


 昂った声は、ひどく自分に酔っているようだった。

 そんな彼に醒めた声をかけたのはシュカだ。


 「究極の生命にしてはブサイクだね。見た目から見直した方がよくない?」

 「ハハッ! これだから凡才どもは……これは機能美というものなのだよ!」

 

 肉体に極限まで力を溜めたフランチェスコが拳を構える。

 攻撃の意思を感じ取った俺とシュカが、迎撃態勢を取った。

 

 しかし反応する暇すらなく、ほんの一瞬で合成獣は俺の目の前まで来ていた。


 「――は?」


 次の瞬間、俺は激しい衝撃を受けて後ろに吹き飛ばされていた。

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