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獣の戦い

「ハッ! おいおい、一瞬で一人死んじまったぞ! こりゃあ時間潰しにもならねえな!」


 シュカをあっさりと吹き飛ばしたセインは、高らかに笑った。

 突進を食らったシュカは地面に倒れたまま立ち上がらない。

 気絶しているようだ。

 

 正直シュカの状態は気がかりだが、彼女の前にはセインが立ちふさがっている。

 治癒をするにしても、目の前の敵を倒さなければならないだろう。


 「とんでもない馬鹿力だな……キョウ、まともにぶつかるのはダメだ」

 「分かってる。と言っても、あの突進を避けきれるか……?」

 

 シュカがやられた時の様子を見ると、あの突進を避けられる気がしない。

 早いだけでなく小回りの利く攻撃。

 シュカよりも遥かに動きの遅い俺に、どうにかできるのか……?


 「ハハッ! 怖気づいてるな矮小な人間!」

 「うるせえ、ちょっとでけえからって調子に乗るなよ」


 強がりを言いつつも剣を構える。

 すると、セインもまた突進の構えを取った。

 しかし、巨体が動き出すよりも先にヒビキの魔法が発動した。


 「『稲妻よ ライトニング』」

 

 廊下を駆け抜けた電撃がセインの体に直撃した。

 しかし、彼はまるで攻撃など受けていないかのように平然と突撃を開始した。


 「ッ……!」


 相変わらず凄まじい威圧感だ。

 俺の方へと突進してきた巨体を、辛うじて回避する。

 しかし、セインはすぐさま切り返すと再び俺のところに突っ込んでくる。

 ……まずい、これじゃ避けられない。

 

 「――『土塊よ クレイウォール』」

 

 ヒビキの魔法が再び発動した。

 地面からせりあがった土の壁が、俺の体を無理やり空中に押し上げる。

 セインの突撃はヒビキの生み出した土壁に直撃し、一瞬にして破壊する。

 俺は崩壊する土壁の上からヒビキの方へと飛び降りた。


 「サンキュー、ヒビキ。助かった」

 「ああ。だが、今のは根本的な解決にはならないぞ」

 

 ……確かにな。

 どうすればあのセインとかいう合成獣を倒せるのか分からない。

 先程のヒビキの魔法も全然聞いていない様子だった。

 かといって、もっと強力な魔法を使おうとすると、セインは突進してくるだろう。

 誰もあの突進を止められない以上、詠唱で無防備になったヒビキを守る事ができないのだ。


「――来ます!」


 ソフィアの警句に前を向く。

 セインが再びこちらに突っ込んで来ていた。

 同じ攻撃の繰り返しと言えど、防ぐ手立てのない突進は脅威だ。

 

 しかしセインが突進を始めた瞬間、横合いから飛び出して来る影があった。

 倒れていたシュカだ。

 頭から血を流しながら、彼女はセインに突っ込む。


「ッ……死に損ないが……!」

「はあああああ!」


 不意を突いたシュカはセインの側頭部あたりから一気に接近し、その鼻っ面を殴りつけた。


 鼻の部分は神経の集中する生物の弱点だ。

 その弱点は、合成獣であるセインも克服できていなかったようだ。

 大きくのけぞり、突進の勢いが止まる。


 「アハハッ! 馬鹿みたいに正面しか見てないから、側面が弱いね!」

 「このっ……!」


 体勢を整えたセインがシュカめがけて突進する。


 しかし、シュカは既に突進の動作を見破っていた。

 セインの顔がシュカの方に向くと同時に、再び側頭部へと回る。


 いくらセインが小回りが利くと言っても、二本の足で動き回るシュカほどではない。

 まるでドッグファイトのように場所の取り合いをする二人。

 それに先に痺れを切らしたのは、セインの方だった。

 

 「ちょこまかと……クソッ!」


 巨体が力を溜める。強引に突進を繰り出し、シュカとの距離を離そうとする。

 しかし、その瞬間こそがシュカの狙いだった。

 

 「ハアアア!」


 シュカの動きが加速する。

 突進をひらりと躱し、セインが背中を見せると素早い動きで揺れる尻尾を掴んだ。


 「ッ……」


 セインの体が宙に浮いた。

 突進に特化した造りに最適化されている巨体は、想定外の方向からの力に弱かった。

 だからシュカに側面を突かれるとあっさりと揺さぶられたし、尻尾に予想外の力がかかるとバランスが保てない。

 

 バランスを崩した巨体は勢いのままに壁に激突した。

 凄まじい音が鳴り、廊下がグラグラと揺れる。


「アハハッ! 転んだの? 足元はちゃんと見なよ!」

 

 バランスを崩した巨体を追撃するべくシュカが跳躍する。

 脚力と重力で加速したシュカが、上空から拳を振り下ろす。

 

 「魔闘術――烈火 隕石」

 

 打ち付けられた拳はセインの頭に正確に命中していた。


「ガッ……ア……!」


 いくら進化を重ねても決して克服できなかった生物共通の弱点である頭。

 そこに強烈な打撃を食らったセインは白目を剥き、二度と立ち上がる事はなかった。


 「ふう……」

 「シュカさん、今治療を!」


 事態を見ていたソフィアが慌ててシュカに駆け寄る。

 彼女の頭から出る血は未だに止まっておらず痛々しい。


 「え? ああ、気付かなかった……」

 

 シュカは呆けたように言って額の血を拭った。

 ソフィアが治療をしていると、こちらにルピナが近づいてきた。

 

「そちらも終わったか」

 「え? ああ……一人で倒したのか」

 「ああ」

 

 なんでもない事のように言うルピナの後ろには、先程の二体の片割れ、デインが倒れていた。


 「デカイだけのウスノロだったな。口ほどにもなかった」

 

 獣人って怖いな……。

 シュカの様子とルピナの言葉を聞いて、俺はそんなことを考えた。


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