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大人の階段上る!?

 パーティーメンバー探しと言えば酒屋と相場が決まっている。

 俺はヒビキと共に酒場に来ていた。


「誰かー! 誰か俺たちと一緒に世界を救いませんかー! 報酬はやりがいと経験! 毎日元気に活動中でーす!」

「ブラック企業か! 誰がそれで入ろうと思うんだよ!」


 元気に呼び込みをしたつもりだったが、ヒビキにツッコミを入れられた。

 冷静に考えれば、たしかにちょっと言いすぎだったかもしれない。


「誰かー! 勇者である俺のハーレムメンバーになりませんかー! 今なら第一号の席が空いてますよー」

「お前、それで人が来ると思ってるのさすがに自惚れすぎじゃないか……?」


 そうか? 勇者って言えばあっさり人が来るもんだと思っていたが。


「勇者なんてこの都市には溢れているんだよ。ここは勇者召喚の場所だぞ? 何人もの勇者が旅立っているそうだ」

「あー、なるほど、そういう系ね」


 俺は一つ咳払いをすると、また新しい言葉を口にした。


「誰かー、ハーレム勇者パーティーをざまぁして真の主人公パーティーとして世界を救いませんかー」

「そんな意味の分からない言葉を理解できる人がこの世界にいるわけないだろ!」


 ムム。俺のネットで鍛えた知識を総動員した推理は外れか。

 俺たちのやり取りを、酒場にいる人たちは遠目に眺めていた。別に咎めるでもなく、声をかけるわけでもなく、ただ眺めている。


「あれ……本当に誰もいないのか……? うーん、また日を改めるか?」

「いや、今の感じだと明日以降も誰も来ないと思うぞ……」


 ヒビキがやれやれ、と肩をすくめる。


「それなら、ヒビキは何か案があるのか?」

「ああ、少なくとも馬鹿なお前よりはな」


 一言多いやつめ。

 ヒビキはクイ、と眼鏡を上げると、得意げに自分の主張を話し始めた。

 

「いいか。冒険者ギルドは単に依頼の仲介をしているだけじゃない。パーティーメンバーのマッチングを――」

「お兄さんお兄さん、ちょっといい?」


 しかし、彼女が自分の言葉を言い切る前に、俺たちに話しかけてくる女性がいた。

 そちらを見た瞬間、俺は胸の高鳴りを抑えきれなかった。

 ヒビキがわずかに目を細めた。


「あなたたち不慣れそうだから、放っておけなくて」

 

 女性は、なかなかの色気を放っていた。清潔な身なり。前の開いた衣装からは、こぼれんばかりの巨乳が見える。唇の下には色気を感じさせるホクロ。

 大人のお姉さん、という印象だろうか。


「良かったら、お姉さんが色々教えてあげようかなって」

「は、はい! もちろん」


 願ってもない、と返事すると、お姉さんは妖艶な笑みを浮かべた。

 

「そう、夜まで、手取り足取り、ね」

「……!」


 う、うおおおおお! ついに、俺の春だああああ!


 盛り上がる俺の視界の端で、ヒビキが厳しい表情でこちらを見ていた。



 

 

「お姉さんの部屋はここだよ」


 その言葉と共に渡された紙切れには、宿の場所と部屋番号が書かれていた。


 ヤバい。興奮を抑えきれない。これで俺も、晴れて立派な男の仲間入り……ってことか!?

 


 高鳴る胸を抑えながら、俺は扉をノックした。

 

「もしもーし。酒場で話しかけてもらったキョウでーす」

「キョウ君いらっしゃい。入って入って」

「し、失礼しまーす……」


 お姉さんの声が聞こえたので、扉を開ける。薄暗い部屋。お姉さんは、やけに薄着で俺のことを待ち受けていた。


「あれ、キョウ君緊張してるの?」


 くすくすと、お姉さんが笑う。


「はい。その……いったい何を教えてくれるんですか……?」


 言葉が震えないように気を付けながら言う。期待に胸を膨らませながら、俺はベッドに腰掛けるお姉さんの元に一歩二歩と近づいていく。心臓がバクバクとうるさい。

 ヒビキ、俺は一足早く大人になっちまうかもしれない。


「それはもちろん――世間の厳しさよ」


 瞬間、お姉さんのベッドの下から男が這い出てきた。

 ナイフを持った男は、一瞬で俺に肉薄するとナイフを突き出してきた。


「ああー。――やっぱりか」


 ひらりと身をかわして、腰に下げていた剣を一振り。

 ナイフを持った男が血飛沫を上げて倒れ込む。


「……は?」


 お姉さんが、呆然とした表情でこちらを見ている。


「な、なんで……『勇者狩り』は全部この方法で……」

「『勇者狩り』? ああ、なんかお姉さんは俺の知りたい情報を知っていそうですね」


 ぐい、とお姉さんに近づく。剣は手に持ったままだ。


「ヒッ……」

「『勇者狩り』ってことは、お姉さんは『宵闇の蝙蝠』の関係者ですよね。話してください。全部です」


 血のついた剣を近づけると、お姉さんはくぐもった悲鳴を漏らした。

 

「なっ……なんで『宵闇の蝙蝠』の名前を……」

「俺の幼馴染は頭が回って情報分析も得意なんですよ。そして、幼馴染をひどい目に遭わせた仇がその組織だってこともわかってます」

「わ、私がその関係者だとは……」

「いやいや、ほとんど自白してるようなものですけどね。……まあ、一応ヒビキの説明を言いますか。勇者というのは、人類を脅かす魔王、および魔神に対抗する切り札です。そんな勇者を害そうなんて不届きもの、アウトローの中でも『宵闇の蝙蝠』くらいですよ」

「ッ……」


 『宵闇の蝙蝠』は王国において悪名高い犯罪組織だ。

 俺の言葉にお姉さんが押し黙る。どうやら図星のようだ。


「『宵闇の蝙蝠』が勇者を襲う理由は分かっている。リーダーの男、能力簒奪(スキルスティーラー)が、勇者の天からの贈り物(ギフテッドスキル)を奪うためだ。レアなスキルを持って召喚される勇者を襲っている。違いますか?」


 少し剣を近づけると、お姉さんが息を吞む。


「……ええ、あってる」

「じゃあ、本拠地の場所も教えてください」

「……まさか、乗り込む気なの?」


 信じられない、という顔でこちらを見るお姉さん。


「ええ。ちょっと、幼馴染の借りがあるので。それに、そんな奴らがいるなら、勇者の俺が安心して冒険できないじゃないですか」


 ヒビキが奴隷に落とされたのも、元を正せばそいつらが原因だ。ヒビキの言葉からもそれは分かっている。


「……そう。やっぱりあの綺麗な女の子と付き合ってたんだ。好きな女の子のために頑張るってことね」

「何を勘違いしてるか知りませんけど、別に異性として好きなわけじゃないですよ。あえて言えば、友情のためです」


 ヒビキは俺の幼馴染だ。男だろうと女だろうと関係ない。


「いやあでも、ヒビキに騙されてるって教えてもらってからも、もしかしたらお姉さんが俺のことを大人の世界に連れていってくれるんじゃないかって思ってたんですけどね」


 本当に、残念だ。

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