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都市奪還戦

 さて、シュカのメンタルも回復したようなので、そろそろ獣王国を救うために働かなければ。

 まずはルピナから依頼された拠点の奪還だ。


 俺たちが攻略しなければならない都市は、かつて「カロン」と呼ばれていた場所だったらしい。

 王都であるレオロスの西方に位置する都市で、活気のある場所だったらしい。


「北部を山に囲まれ、南は更地ですか……気づかれずに城壁の中まで侵入するのは困難でしょうね」


 地図を見下ろしたソフィアが言う。

 カロンは魔王軍の侵攻を何度も退けてきた防衛都市だったそうだ。

 地形的に優位な場所で、獣王国の戦士たちは魔物を迎え撃つことができた。


「となれば、正面突破しかないだろう。ボクの魔法があれば城壁の扉くらいなら破壊できる」

「え、マジかよ」


 思わず声を上げると、ヒビキはニヤリと笑ってこちらを見た。


「フフン。溜めの長ささえ気にしなければ、ボクの魔法はもっと威力が上がるのさ」


 彼女は立派な胸を堂々と張った。

 うわあ、凄いドヤ顔。

 ヒビキは相変わらず調子に乗りやすい奴だった。


「あ、中まで入っちゃえば僕の出番だね! 殴り合いなら任せてよ!」


 話を聞いていたシュカがシュッシュとシャドーボクシングする。

 あの「デート」の日以来、シュカは元気になった気がする。


 うっとおしいテンションが戻ってきて、少し安心した。


「……そうですね。皆さんなら、細かい戦術をいちいち考える必要もないかもしれません」


 二人の様子を見ていたソフィアが、小さく溜息をついた。

 多分、騎士団にいた頃のように指揮を執るのが馬鹿馬鹿しく思えてしまったのだろう。


「兵は神速を貴ぶ、とも言いますし、都市の奪還は獣王国の人々の願いでもありますから──では明日、カロンの攻略戦を実行に移しましょうか」



 ◇



 城塞都市「カロン」。

 その周辺には見張りの姿は見えない。


 ソフィアの分析によると、外部の護りを放棄し戦力を内部に集中させているのだろうとのことだ。

 敵が発見できしだい内部に待機する合成獣が一気に飛び出してくる。強力は城壁を有しているからこそできる作戦だ。


 外壁の上に見張りらしき人影はある。

 ただ、木の陰に身を潜め接近してきた俺たちの姿はまだ捉えられていないようだ。

 こそこそとここまで近づいてきて良かった。


 この世界の常識で言えば、俺たちのいる場所は未だ射程外だ。

 ただ、ヒビキの魔法にはそんな常識は通用しない。


「それじゃあ、さっそく行くぞ」


 魔法の杖を構えたヒビキが言う。

 俺たちが頷いたのを確認した彼女は、朗々と詠唱を始めた。


「──其れなるは太古より畏れられし神の怒り。地上に下される鉄槌」


 杖を掲げたヒビキの上空に暗雲が立ち込める。

 先ほどまで晴天だった獣王国の一角が、急激に暗くなっていく。

 まるで天変地異の前触れのような光景だ。


「天上におわす神の裁きは等しく罪人を貫く。今ここに顕在するは絶対の破壊なり」


 暗雲がゴロゴロと激しい音を立て始める。

 嵐でも到来したかのような光景に、城壁の上にいた見張りの兵が慌てて何かしようとしているのが遠くに見える。


 ただもう、遅い。

 ヒビキの超大規模魔法は既に発動目前だ。


「愚かなる人間を見下す天上の雷よ、今こそ地上にその威容を示し給え! ──ライトニングストライク!」


 激しい音を立てる黒い雲から、激しい光が地上に降り注ぐ。

 大自然の脅威、落雷。

 それは明確に城塞都市を守る扉を狙って放たれていた。


「っ……城門から離れろ! 扉が壊れるぞ!」


 見張り兵の警告の数秒後。長い間この都市を守り続けていた正門は、一瞬にして粉砕された。

 それを目にして一気に飛び出たのはシュカだ。


「よし、じゃあ僕の番だね! 乗り込め乗り込めえええ!」


 まるで海賊の下っ端のような叫びを上げるシュカは、倒壊した正門へと一瞬にして侵入する。

 俺たちもすぐにその後に続いて壊れた城門を潜る。


「獣人が攻めてきたぞ! 迎撃体制!」


 指揮官らしい合成獣が、城門の上から声を張り上げる。

 あの個体はかなり人間に近い姿をしている。合成獣の中でも思考力に優れるものなのかもしれない。


 慌てて破壊された城門の防衛に走ってくる合成獣たち。

 その姿は人型から四足歩行まで様々だ。


 それらが一気に迫ってくる姿は迫力がある。

 しかし、シュカの勢いは止まらない。


「──遅い遅い! お貴族様の社交ダンスじゃないんだから!」


 弾丸の如く飛び込んだシュカが拳を振るう。次の瞬間には、先頭に居た合成獣の首が砲弾でも直撃したみたいに吹き飛んでいった。

 もはや何をしたのか認識することすら困難だ。

 知能の低いはずの合成獣たちは、わずかに怯えたような態度を見せた。

 気勢の削がれた合成獣の下に、シュカは躊躇なく飛び込んでいく。


 しかし、彼らが気を払うべき相手はシュカだけではない。


「『水よ──ウォーターバレット』」


 後ろからヒビキの声が響くと、水弾が飛び出し別の合成獣に襲い掛かる。

 先ほど特大規模の魔法を放ったにも関わらず、ヒビキの魔法の威力に衰えはない。

 本人曰く、魔力を使う際の無駄を減らすことができたらしい。


 俺も少しくらい働かないとな。

 そう思い、シュカの切り拓いた道に続く。


 突然侵入してきた俺たちに、合成獣の部隊は未だ態勢を整え切れていないようだった。

 俺はその隙に彼らへと接近する。


「フレーゲル剣術──ツインスパイク」


 ゴリラのような体躯をした合成獣目掛けて剣を振るう。

 予想以上に硬い手ごたえの後、深い切り傷のできた敵が倒れ込んだ。


「Grrrrr!」


 仲間を倒された合成獣たち雄叫びを上げながらこちらへと突っ込んでくる。


「『炎よ猛れ──ファイヤーストライク!』」


 俺の放った炎魔法がこちらに接近する合成獣たちの足元に爆発する。敵は怯んだ様子を見せた。

 ヒビキと一緒に練習した魔法は随分と上達した。まあ、彼女ほどではないのだが。


 魔法によって敵の勢いが止まったところで、再び剣での攻撃を仕掛ける。

 遠距離攻撃と近距離攻撃を交互に使い分け、敵が一気にこちらに突っ込んでくるのを避ける。


 俺はシュカほど近接戦闘が得意じゃないから、工夫しないとな。


「なんだ、キョウにしては頭使った戦い方してるな」

「うるせえ!」


 ヒビキのからかいに短く返す。これでも少しは成長しているのだ。


「キョウが頑張ってるなら、ボクも頑張らないとな。──ライトニング」


 ヒビキの短い詠唱と共に紫電が走り、合成獣がバタバタと倒れる。

 既に、状況はこちらに圧倒的に有利になっていた。



 そんな風に周りの敵を排除しているうちに、先行して奥に向かっていたシュカがバタバタと帰ってきた。


「見て見てキョウ君! 大将首!」


 笑顔の彼女が差し出したのは、ボタボタと潜血を垂らす生首だった。


「こわっ!! そんなもの笑顔で持ってくるなよ!」


 白目を剥いて絶命している、カラスの首をした敵の大将。

 隣のヒビキも俺と同じようにドン引きしていた。


「シュカさん、あまり遺体を辱めるものではありません。敵将撃破の報告が済んだらすぐ埋葬しましょう」

「はーい」


 一方のソフィアはいつも通りの穏やかな笑顔を浮かべている。

 元騎士という彼女の経歴を考えれば自然な反応だろう。

 ただ、この状況でもいつも通りなのは怖いと言えば怖い。


「ま、まあともかく。これでルピナにカロン奪還の報告ができるな」


 指揮官が討ち取られ、合成獣たちは散り散りになって逃げていった。

 カロン内部にはもう敵がほとんど残っていなかった。


 何はともあれ、これでいったん目標は達成だ。

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