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傲慢なる征服

 前提として、俺はそんなに他人想いではない。

 自分が楽しければ、幸せならそれでいいと思っているタイプだ。ハーレムなんて目指す人間なんて自分勝手で当然だろう。

 

 そもそも大概の人間のことはどうでもいいと思っている。俺は俺を認めてくれる人間以外はどうでもいいのだ。

 俺に必要なのは、ちょっとの大切な友達と大勢のハーレムメンバーだけだ。


 その上で。俺は、身近な人が傷つけられるのが嫌いだ。

 自分が楽しくないからだ。

 イライラする。どうでもいい人間に、大切な人間が傷つけられるのはイライラする。


 だから俺は、幼馴染のヒビキが傷つけられたことに怒っていた。



「ッ! ……スゥ」


 痛みに悲鳴を上げる体に鞭を打ち、立ち上がる。

 

「力を出せ、傲慢の魔剣」


 今なら抜ける、という確信があった。それに応えるように、魔剣は鞘から抜け、刀身を露にした。

 そうだ。やはり俺に傲慢の魔剣はピッタリだ。欲しいもの、好きなものは全部自分のものにしたくて、自分のものを傷つけられたら怒る。

 

 ヒーローではなく、ましてや英雄ですらないこの俺には、この魔剣がピッタリだ。


「ッ! あっはははは! その闘気! 気迫! やっぱり僕の見立て通りだ!」

 

 俺が立ち上がったことに気づいたシュカが、満面の笑みを浮かべてこちらに走ってくる。先ほどヒビキに突進していった時以上の速度だ。先ほどまでの俺なら、抵抗することすらできなかっただろう。

 しかし。


「ひれ伏せ」


 俺の言葉が響いた途端、シュカの体は何かに押しつぶされたかのように地面に張り付いた。


「じゅ、重力魔法……?」


 傲慢の魔剣とはすなわちあらゆる人間を見下す存在。であれば、敵を跪かせるくらい容易いだろう。


「ふんっ!」


 這いつくばるシュカの体に、魔剣を振り下ろす。コイツの体は魔力で守られている。本気で叩かなければ止められない。

 しかし、わずかに体を動かすことに成功したシュカは俺の剣を転がって回避。そのまま全身の力を使って立ち上がった。


「ハッ……ハハッ! 体が動かない! なんという未知の力、なんという逆境! ありがとうキョウ君。僕は今、最高に楽しいよ!」


 重力は依然として彼女の体を押さえつけようと圧力をかけている。その証拠に、彼女はすぐにこちらに飛びかかってくることはなかった。


「『魔闘術――』」


 来る。大技だ。俺は魔剣を油断なく構えて、彼女の次の動きを待った。


「『――流水 滝流!』」


 シュカの体が大きく上空へ飛ぶ。重力の影響を受けながらも、彼女は全身の力を使ってジャンプしたようだ。

 すると、シュカの体は重力魔法の影響を受けて凄まじい勢いで落下してきた。


「なるほど、重力を利用されたってことか。……屈辱か、傲慢の魔剣」

『ふん、不遜な女よな』


傲慢の魔剣から幼い女の子の声が返ってくる。


『遠慮はいらんぞ小童。ワシの力を使い真っ二つに引き裂いてやれ』

「真っ二つに、ね……」


 正直、真っ二つにするのは困るな。

 ヒビキを傷つけたシュカには怒っているが、殺したいと思っているわけではない。

 しかし今の力を引き出した魔剣では、手加減も難しいだろう。

 

 悩んだ俺が出した結論は、一つだった。


『おい小童!?』

「うそ!?」

 

傲慢の魔剣を手放す。重力魔法の効果が切れる。

シュカの加速が遅れ、着地のタイミングがズレる。重力を利用した踵落としを決めようとしていたシュカの顔が驚愕に代わる。

 

 重力の増減により、シュカの技は精細を欠いたものになっていた。彼女の振り下ろした踵が空を切る。

 あっさりと攻撃を回避した俺は、着地の衝撃を殺しきれずに硬直したシュカへと突進、そのままタックルをかました。


「――捕まえた」

「うっ」


シュカの細い体をがっちりとホールドする。俺は体育の授業で習った柔道を思い出すと、彼女の上半身を抑えにかかった。


「ッ……離せ!」


 彼女が拳や蹴りだけでなく柔道まで修めていたらどうしようかと思ったが、地面に倒れ込んだ彼女からの反撃は弱弱しかった。

 上から押さえつけた体を持ち上げることもできず、時々弱弱しい拳や足が軽く叩いてくる。


「沈め」


 馬乗りの体勢に変え、シュカの細い首を締める。手加減はダメだ。彼女は簡単には戦闘不能にできない。


「ッ……ア……ァ……」


 シュカの整った顔が苦しみに歪んでいく。それを見た俺に浮かんだのは、罪悪感ではなく征服感だった。


 この女は今、俺の手中にある。暗い喜びが、胸中からじんわりと湧いてくる。精神を汚染するという傲慢の魔剣は今手元にもないのに、これはいったいどういうことだろうか。

 ぎりぎり、と細い首を絞めていると、何か自分のものではない感情が胸のうちに浮かんでくるようだった。

 

「……」

「……っと」


 思考が深みに嵌まる前に、俺はシュカの首から手を離した。

 彼女の意識はすでになかった。どうやら俺は、シュカを締め落とすことに成功したらしい。

 

 それを確認した俺は、ひとまずヒビキの様子を見るために立ち上がるのだった。

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