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森の異変

「はい、これでよし! よく似合ってるよ、アイリスちゃん!」


翌朝、ユーリさんがアイリスに花の形をした髪留めをプレゼントしてくれた。


「可愛い……。凄く可愛い! ユーリ! ありがとう!」


鏡の前でハーフツインにセットしてもらい喜ぶアイリスの姿があった。


「ユウキ! どう? 可愛い?」

「ああ、凄く可愛い」


可愛いと言われ表情が緩むアイリスに、マーサさんが声をかける。


「アイリスちゃん、よく似合ってるじゃないか! 可愛いよ! ……あと……はい、これお弁当」


マーサさんがアイリスにバスケットを手渡す。

キョトンとした顔でバスケットを受け取るアイリスに、マーサさんが言葉を付け加える。


「アイリスちゃんが大好きな鳥の唐揚げ、たくさん入れといたからお昼にでも食べとくれ」

「マーサ、ありがとう!」


子供の様に喜ぶアイリスの姿が、なんだか微笑ましく思えた。


「あんた達、目的地は決まってるのかい?」

「ガガフ山を目指そうと思ってます」

「それなら迷いの森を通る必要があるねぇ。……ちょっと待ってておくれ」


ちょっと考えた後、マーサさんは店の奥に行き、しばらくして戻ってきた。


「これを持って行きな」


そう言ってアンティーク調のコンパスを俺に手渡した。


「これは……?」

「迷いの森は慣れた人間じゃないと、必ず迷っちまう森でねぇ。このコンパスにはちょっとした魔力が込められているから、このコンパスがあんた達を出口まで導いてくれるよ。死んだ旦那の持ち物だけど、ずっと使わずに仕舞い込んでいただけだから、良かったら使っておくれ」

「本当何から何まですいません」


本当最後までこの親子には世話になりっぱなしだ。



ーー「本当色々ありがとうございました」


出発の際、宿屋の店先までマーサさんとユーリさんが見送りに出てくれた。


「ガガフ山はダスバイトの領土の近くでもあるから充分気をつけるんだよ!」

「また近くに寄った時は是非顔見せに来てくださいね!」


「ありがとうございました!」


礼を言い、俺とアイリスは手を振る2人を背に旅路へと着いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ユウキは違う世界から来たの?」


昼時になり道端でマーサさんに作ってもらったお弁当の鳥の唐揚げを頬張りながら、アイリスが問う。


「ああ、此処とは違う世界の日本って国から来たんだ」

「じゃあいつか自分の国に帰っちゃうの?」


寂しそうにアイリスがこちらを見詰める。


「帰る気はないよ。つーか帰れないし」


俺の異能スキルが役に立たないと判断された時、皇女様に言われた事を思い出した。

それは元の世界に戻る事ができないという内容だった。

なんでも、ランダムで召喚や送り帰す事ができても、任意の世界、時代に帰す事が出来ないらしい。


だから俺は帰る事を諦めた。

特に何の未練もない世界だ。

今はアイリスもいる。


「じゃあずっと一緒にいようね」

「ああ、ずっと一緒だ」


アイリスが俺に笑顔を向けている。

今はそれだけで充分な気がした。




休憩を終え、再び迷いの森へと歩き始めた俺達の前方から一台の馬車がこちらに向かって来るのが見える。

馬の手綱を握る商人らしき人物が俺達に気付き声をかけてきた。


「おーい! アンタら旅人かい? これ以上は進まない方がいい! 迷いの森でダンジョンが発見されたとかでダスバイトの兵がウロウロしてるんだ! どうしても行くというなら充分気をつけて行きなさい!」


そう俺達に忠告すると商人の馬車は去っていった。


ダスバイトの兵士……。


昨夜の宿屋での出来事を思いだす。


此処で面倒ごとに巻き込まれるのは厄介だな。


「アイリス、ここからは慎重に進むぞ。余計な戦いは避けたい」

「わかった」


無事何事も無く、迷いの森を抜けれますように!


そう願いながら迷いの森へと歩みを進めた。


森の中へ入ると、すぐに異変に気付く。


「凄い濃い血の臭い」


そう言うとアイリスが鼻を抑えながら、辺りを見回す。

森の中は踏み荒らされた跡があり、木々には動物の血らしき血痕があった。


その時、森の奥から集団で移動する気配を感じ、すぐさまアイリスと身を隠す。

ダスバイトの兵士達が何かを探すように辺りを見渡している。


「一匹もエルフ達を逃がすな! 全員生捕りにしろ!」


兵士のひとりがそう言うと、ダスバイトの兵士達は散り散りに別れ森の奥へと戻って行った。


さっきの兵士達はエルフを探しているのか?

道で会った商人はダンジョン探索の為にダスバイトの兵士がいると言っていたが……。


「エルフ族は気位が高い種族だから普通は人間の前に姿を現さない。だからアイツら、森の動物達をわざと殺してエルフ達を怒らせて炙り出そうとしてる」

「でも、何の為に?」


俺の問いにアイリスは首を横に振る。


「わからない。でも何かに利用しようとしてる事は確か」


ダスバイトの目的が何にしろ、俺達には関係無い。

このまま兵士達に見つからずに森を突破できれば……。


次の瞬間、背後から何かがこちらに飛んでくるのを感じ、俺とアイリスは素早くそれを躱す。


飛んで来た何かが、矢である事をすぐに理解する。


「人間、すぐにここから立ち去れ!」


声のする方を見ると木の上に人影を見つける。

緑のローブに身を包み此方に弓矢を構えていた。


「ユウキ、アイツはエルフだ」



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