ひとときの休息2
「なぁ、アイリス?……なんか俺のステータス人間辞めちゃってるんだけど?」
アイリスが俺のステータスプレートを覗き、
「人間辞めちゃったね」
とニコリと微笑んだ。
もう一度、ステータスプレートに目を通す。
気になる点が多過ぎるが、先ずは異能スキルだ。
俺の異能スキルは【禁忌の牢獄】っていう呪い装備みたいなスキルだったはずだが……、【禁忌に触れし者】に変わってる?
ステータスプレートの【禁忌に触れし者】の表示をタッチすると、スキルについて詳しく表示された。
◆◆◆◆
【禁忌に触れし者】
*【禁忌の牢獄】の上位スキル。
*異能スキルの上限を解放。
◆◆◆◆
確か【禁忌の牢獄】の解放条件が禁忌に触れる事だったよな?
その時、ゼトギニシア大迷宮の神殿の間での出来事を思い出した。
そうか、アイリスが禁忌か……!
俺がアイリスと出会った事で解放されたって事だろう。
って事はもうひとつのスキルは……。
◆◆◆◆
【神の花婿】
*解放条件:神と契りを交わす。
*【加護】のスキルを追加。
*【加護】を授けられた事で、【属性魔法】【操作系魔法】【放出系魔法】【変化系魔法】【複合力】のスキルを追加。
◆◆◆◆
やっぱり……。
アイリスと結婚したのが禁忌になったのか。
なんせアイリスは神様だもんなぁ……。
でもこれで、この異常なステータスの正体がわかったな。
アイリスと出会った事で【禁忌の牢獄】が解放されて【禁忌に触れし者】に進化、異能スキル追加の能力を得た。
そこにいきなり俺がアイリスに結婚申し込んでOKされた事で【神の花婿】の解放条件が達成された。
アイリスは自分が思ってた以上に力が流れたと言ってたし、多分その時に【神の花婿】が解放されて、俺がアイリスの力を吸い取ってしまったんだろう。
そして身体強化や魔力強化、物理と魔法への耐性、挙げ句不老不死にまでなった。
そしてアイリスは作られたとは言え、神様だ。
俺は神様から恩恵である【加護】を授かった。
そして多分、他の魔法系スキルはアイリスの使える魔法系スキルが俺も使える様になったんだろう。
「なぁ、アイリス。俺にもケラウロスってやつ使えたりするのか?」
あの武器みたいに変化した稲妻の事を聞いてみる。
「ケラウロスは神から与えられた神器。ケラウロスを使えるのはアイリスだけ」
そりゃそうだろうな。
あれは到底人間が使いこなせるレベルじゃない。
「とりあえずこれからの身の振り方を考えないとなぁ……」
「竜の里の長老なら何か知恵を貸してくれるかも知れない。私が迷宮で眠ってる間に何があったかも知ってるかも……」
「アイリスが封印される前の知り合いだったら、もう流石に今はいないんじゃないか?」
単純な質問をする。
アイリスが封印されてから1万4,000年も経ってるのだから、生きてるとは思えなかった。
「長老は太古の始祖竜の末裔。物凄く長生き。」
「始祖竜の……。凄いな」
「うん。1万4千年前の対戦で一緒に戦った仲」
話のスケールがデカ過ぎて頭がクラクラしそうになる。
でも確かに、今のこの世界について俺もアイリスも詳しくない。
行ってみるのも有りだ。
「夕飯出来たよぉ! 腕によりをかけて作ったからたくさん食べとくれ!」
ドンッ!とテーブルに置かれるごちそうの数々、
「いいんですか!? こんなに!?」
「いいさね。さっき助けてもらったお礼だよ」
驚いて確認する俺に、マーサさんはニコリと笑ってごちそうを振る舞ってくれた。
「マーサのご飯美味しい! このお肉のやつとか絶品!」
アイリスが興奮気味に唐揚げを頬張っている。
てかこの世界にも唐揚げあるんだな。
「あら、ありがとう! アイリスちゃん唐揚げ気に入ったのかい? まだまだあるから沢山食べておくれ!」
「うん!」
アイリスが完全にマーサさんに懐いている。
それにしてもアイリスは美味しそうに食べるなぁ。
幸せそうで何よりだ。
ーー食事を済ませて部屋へ戻る。
「とりあえず竜の里へ行ってみるか」
「うん。確か竜の里はガガフ山にあったと思う」
「なら明日からガガフ山を目指そう。とりあえず明日に備えて今日は寝るぞ」
灯りを消し、眠りにつこうとベッドに横になる。
ーーパサッ
「ん?」
その音に体を起こすと、そこには服を脱いで産まれたままの姿のアイリスがいた。
ーーーー!?
「アイリス!? な、なんで裸なんだよ!?」
「……マーサが、初めての夜はこうするんだって教えてくれたから……」
こうするってどうするの!?
つかマーサさん何アイリスに吹き込んでんの!?
「ちょ、ちょっと落ち着け! なッ!」
裸でじりじりと詰め寄ってくるアイリスを必死で制止する。
「……ユウキはこういうの嫌?」
アイリスは不安気な表情を浮かべこちらを見る。
アイリスの肩が細かく震えていた。
「嫌とかじゃない! ただ……もっとアイリスの事、大事にしたいっていうか……。アイリスも外に出て不安な事ばかりなのそこに付け込む様な事できないっていうか……。とにかく、俺達はこれからずっと一緒なんだ。だからゆっくり、俺達のペースで進んでいかないか?」
別に経験が無いからってビビった訳じゃ無い。
ただ昨日までアイリスは裏切られた現実を背負って1万4千年もあの大迷宮に閉じ込められていたんだ。
いくら神様って言ったって女の子だ。
辛くない訳無いんだ。
ここで俺の欲望丸出しにする訳にはいかん!
「……ありがとう」
そう言うとアイリスが俺の懐に飛び込み強く抱きついて来た。
「ユウキ……! 大好き!!」
アイリスの笑顔に安心する反面……、ちょっとアイリスさん?
胸、当たってますけどぉおおお!?
「私達のペースでずっと仲良しでいようね」
その言葉に少しホッとする。
相手に気持ちが伝わるのはなんとも良い気分だ。
ーーーーところでアイリスさん?
ベッドで2人横になっているのだが、結局アイリスは裸のまま俺に抱き付きスヤスヤと寝息を立てている。
俺達のペースとはぁああ!?!?
こうして慌ただしくも穏やかな1日は過ぎていった。