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ひとときの休息

「さて、これからどうするかな」


利用され裏切られた以上、セルヘイブ王国に戻る事は考えていなかった。


「私が封印されている間にこの世界は随分変わってしまった。……神々の気配も感じない」


「神々って……、あの(いにしえ)の大戦に出てくる神々の事か?」


「ユウキ知ってるの!?」


「知ってるっていうか神話として語り継がれてるんだ。1万4000年前に終結した大戦の後、神々は人間に絶望しこの地上から姿を消したって」


「そう……。1万4,000年も経っているのね……」


アイリスはどこか寂しげな表情を浮かべた。


「さっきの力もそうだけど、アイリス……君は一体何者なんだ?なんであんな所に封印されていた?」


「私は1万4,000年前の大戦で神々に作られた存在。神は私を戦う道具として戦に送り出した。1,000年戦い続け大戦が終結した時、私は力を持ち過ぎてしまった。神が脅威するほどに……」


アイリスが奥歯を噛み締める。

その体は小さく震えていた。

そしてアイリスは言葉を続ける。


「神々は私を疎み、人間達は私に怯えた。……そして神々と人間は結託し、私を災いを招く神として陥れ、あの大迷宮に封印した」


神や人々の為に途方もない時を戦い抜き裏切られ、絶望したアイリスにどんな慰めも無意味かもしれない……。

でも……!


俺はアイリスを強く抱きしめていた。


「ユウキ……?どうしたの?……苦しいよ」


「アイリスはもう1人じゃない。俺がいる。俺はアイリスを裏切ったりしないからな」


「……うん。……ありがとう、ユウキ」


アイリスが優しく微笑んだ。



ーー翌日、俺達は夜通し歩き少しでもゼトギニシア大迷宮から離れた村を目指した。


攻略組が帰還しない事で王国が動き捜索隊を出している頃だろう。

このまま死んだ事にしてくれればいいが……。

とにかくアイリスの事もあり、今王国の兵士達に見つかる訳にはいかない。




ーー「ユウキ!見えてきたよ!」


夜通し歩き村を見つけた時には、もう明け方になっていた。


流石にこの村で休憩にするか。

アイリスの服も調達したいしな。


「アイリス、この村で休んで行こう」


フラウ村、ゼトギニシア大迷宮を西に進んだ先にある村だ。


村に入り先ずは宿屋に立ち寄る事にした。


「いらっしゃい、宿泊希望かい?」


女将さんらしい恰幅(かっぷく)の良い女性が店先に立っていた。


「はい、二人で一泊したいのですが。部屋は一部屋で良いです」


「あんた達旅の人かい?ウチみたいなちんけな宿屋で良ければゆっくりしておくれ」


「はい。ありがとうございます」


「ところで、あんたの隣の嬢ちゃん!そんな格好じゃ風邪引くよ!」


「実は彼女の服を買おうと思っていて、この村で服や防具を買える場所はありますか?」


「武具屋はあるにはあるけど、この子が着れる様な物あるかどうか……、そうだ!あんた達先にお風呂に入ってきなさいな!随分汚れてるみたいだし、その間に用意しとくから!」


女将さんに言われるがまま、風呂に入り体の汚れを落とす。

アイリス1人で大丈夫だろうか。

さっき入り口で一緒に入ろうとしてきたし……。


タタタタタッ!ーーガラッ!!

風呂場の扉が勢いよく開いた。


「ユウキーー!凄い!凄い!広いし、気持ちいいよ!」


テンション高めでアイリスが男湯にやって来た。


うぉおおおおおおい!

何やってんだぁあー!


「おい!アイリス!ここは男湯だ!アイリスは女湯に入らないとダメだろ!?」


「ええー!だって誰もいないしユウキと一緒に入った方が楽しいもん!」


「そう言う問題じゃない!混浴じゃないから別々に入らないとダメなんだ!他の人が入って来たらビックリするだろ!?」


ぷーっとほっぺを膨らませ徐に不貞腐れるアイリス。


ーーとその時、


「おや、2人で入ってるのかい?」


女将さんの声がする。


「すいません!勝手に入って来ちゃって!すぐ出て行かせます!」


「いいのよぉ!あんた達の他にお客さんもいないし、貸し切りみたいなもんだから2人でゆっくり入りなさいな!着替えは脱衣所に置いておくから、しっかり温まって疲れを取っておくれ!」


そういうと女将さんは出て行った。


至れり尽くせりで本当に有難い限りだ。

女将さんの好意に甘えて2人でゆっくり風呂に入らせてもらった。


脱衣所にはアイリスの服だけでなく、俺の服まで用意されていた。

服を着替え戻ると、女将さんが声を掛けてくれた。


「あら2人共よく似合ってるじゃないか!」


「女将さん、本当に良くして頂いてありがとうございます。それで服の代金を……」


と俺が言いかけた所で女将さんが言葉を遮る。


「いいのよ!お金なんて!娘と旦那のお古だし、いつまでも取っておいても仕方ないからあんた達が着てくれた方が嬉しいわ!後、私は女将さんなんて柄じゃないからマーサでいいよ」


「本当に何から何までありがとうございます。マーサさん」


「この服、ホント可愛い。マーサありがとう」


俺とアイリスがマーサさんに感謝を伝える。


それにしても本当に可愛い。

白のフリルの付いたブラウスに黒のワンピースに黒のハイカットのブーツ。

アイリスの可愛さが更に際立つ。


「あんた達何も食べて無いんじゃないかい?食事を用意したから食べてから少し眠るといい」


そう言うとマーサさんは俺達をテーブルまで誘導してくれた。


「豪勢な食事じゃないけど、真心込めて作ったから沢山食べとくれ!」


テーブルにはパンとシチュー、果物が用意されていた。

昨日から何も食べていない事に気付く。


「いただきます!」


アイリスも俺の動きを真似て、


「……いただきます」


美味い!シチューが空腹の腹に染み渡るのを感じる。


アイリスもシチューを一口食べる。


「ーーーー!!!」


幸せそうな表情を浮かべるアイリス。


「美味いか?」


「美味しい!……私食事を取らなくても死なないから今まで食事を美味しいなんて思って食べた事なかった。でも、この料理……、マーサの温かい気持ちがいっぱい詰まってるのが伝わってくる」


「……そうだな」


アイリスが今まで、どれだけ孤独で寂しい時間を過ごしたのかと思うと胸が締め付けられる様だった。

アイリスにはこれから沢山の幸せな経験をさせてあげたいと心から思った。


食事を終え、部屋に入ると2人分の寝巻きが用意されていた。


本当にマーサさんには感謝しかないな。

それにしても、流石に疲れた。


風呂で疲れを取り、食事までお腹いっぱい食べた2人を睡魔が襲う。


「少し休むか」


俺とアイリスはベッドに倒れ込む様に眠りに付くのだった。

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