最後に残っていたのは…
気が付くとそこは辺り一面真っ白な空間だった。
巨像達の姿も無く両腕がないままだが、さっきまであれ程焼ける様な痛みを感じていたのに痛くない。
「死んじまったのか?」
「いや、今はまだ死んでないよ」
声がする方に顔を向けるとそこにはさっきの裸の美少女がいた。
歳は俺より少し下ぐらいに見えるが非の打ち所がない程の美少女で、銀色の長い髪に青い澄んだ瞳をしている。
「ここは時間と時間の間。簡単に言うと今少しの間、時間を止めてるの。君に聞きたい事があったから」
彼女が俺に話しかけながら一歩ずつ近づいてくる。
目の前まで来ると、しゃがんで先程倒れ込んだままの俺に顔を近づける。
「私を出してくれたのは君かな?」
ハートを射抜かれた気がした。
心臓がバクバクと鼓動し、思考が鈍る。
「お……」
「お?」
彼女が聞き返す。
「俺と結婚してくれ!!」
ん……?今俺何て言った?
自分の発言に、ハッと我に帰る。
何考えてんだ俺!?気が動転していたとはいえ、さっきまで箱に入っていた裸の美少女に突然求婚する奴があるか!!
彼女も面食らった様に固まっている。
「ーーいいよ」
彼女はニコリと微笑んだ。
え……?いいの!?
「ほんとに?」
「うん。嬉しかったから」
彼女のあまりの可愛さに咄嗟に口から出た言葉だったが彼女の笑顔を見て、心から良かったと思えた。
「……うん。気が変わっちゃった。君を殺すのは止める」
喜びも束の間、彼女の口から物騒な言葉が飛び出す。
「……殺すつもりだったの?」
「うん。だって君、血を出し過ぎてるし、どの道助からないから出してくれたお礼に痛く無いように殺してあげようと思ったの」
驚く俺をよそに彼女は言葉を続ける。
「でも私の旦那様になってくれる君を殺したくなんてないから助けてあげる。ーーえっと……」
彼女が言おうとしてる言葉を察して
「ユウキ。須藤ユウキ。ーー君は?」
「……アイギス。でもこの名は好きじゃない。道具としての存在価値しかない私に付けられた名だから……」
寂しそうな表情を浮かべる。
「それじゃあ今から君の名前はアイリスだ」
「アイリス……?」
そう問いながら彼女は不思議そうにこちらを見つめる
「俺のいた世界の花の名前だよ。花にはそれぞれ花言葉っていうのがあるんだけど……、まぁそんな事はどうでもいいか」
そう言って話を中断しようとする俺に
「聞きたい。話して」
彼女の余りにも真っ直ぐな目に思わず息を呑む。
「……アイリスの花言葉は『希望』。君は俺の希望だ」
「……嬉しい。ユウキからの初めての贈り物……」
そう言うと彼女は目を潤ませながら顔を俺に更に近づけ口付けをした。
時が止まったようだった。
まぁ、アイリスが言うには本当に時が止まっているのだが。
それでも、このまま時が止まっていればいいのにと思えるほど幸せに感じた。
俺の唇からアイリスの唇が離れた。
「今ユウキに私の力を分けた。思った以上にユウキに力が流れてしまったけど……大丈夫?」
「……なんともないけど。力が俺に流れ過ぎると何か問題なのか?」
「普通の人間に強大なエネルギーが一気に流れ込むと、そのエネルギーが行き場を無くして体が粉々に砕け散るの」
恐ろしい事をさらりと言ったけども!?
でも俺の体にその様な現象は起きない。
これは喜んでいいんだよな?
「多分ユウキの器が深いんだと思う。強大な力を溜めて置けるだけの選ばれた器」
よくわからんが何にせよ、俺は粉々に砕け散らないでよさそうだ。
「今から時間の流れを元に戻す。ここから一緒に出ようね」
アイリスがそう言うと目の前が光に包まれた。
気が付くと神殿内で胸像に襲われている真っ最中だった。
だが失ったはずの両腕が戻っている。
ーーとその時、巨像が俺目掛け大剣を振るう。
「ユウキを傷つけようなんて生意気」
アイリスが巨像目掛け手を伸ばすと、激しい衝撃波が巨像を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「大丈夫?」
「ああ、ありがとう」
何この嫁!?カッコいいんだけど!?
アイリスが頭上に手を伸ばす。
「ケラウロス」
ーーするとアイリスの伸ばした手に光が集まり稲妻が現れた。
アイリスが巨像達を目掛け手を振り下ろすと、稲妻がもの凄い速さで巨像達を襲う。
稲妻が地面に突き刺さった様に見えた瞬間、光に包まれると共に凄まじい爆風で巨像諸共、辺り一面吹き飛んだ。
圧巻の一言だった。
あれだけ脅威に感じた巨像達が頭容易くアイリスによって倒されたのだから。
「……凄いな。あれだけの数を一瞬で」
「全然凄くない。……私は戦う事しか出来ない道具だから」
アイリスの悲しみが伝わってくるような気がした。
「アイリスは道具なんかじゃない!傷つく心を持ってる普通の女の子で、超絶可愛い俺の嫁だ!!」
思わず勢いで言ってしまったが、自分の言葉で恥ずかしくて顔から火を吹きそうだ。
ーークスクスッとアイリスが笑う。
「ありがとう。優しいんだね。旦那様」
旦那様と言う言葉で、さっき『俺の嫁だ!』と叫んだ事がより強調され恥ずかしさがMAXにまで達する。
ーーまぁ、何はともあれ何度となく死にかけたがなんとか生き延びる事ができた。
『生きろ!』ーーそう言ってくれたダクタさんを思い出す。
ダクタさん……。俺ダクタさんの言葉に助けられてなんとか生き残れたよ。……ありがとう。
こうして俺はこのゼトギニシア大迷宮を完全攻略に成功した。
ーー「こんなボロボロで悪いがこれを羽織ってくれ」
そう言って俺のマントをアイリスに渡す。
「ありがとう」
流石にいつまでもアイリスに裸でいられると、俺が正常ではいられない。
彼女は疎か異性との交流すらまともに出来ない俺には刺激が強すぎる。
「それにしてもここからどう出るか……」
「それなら問題ない。この神殿の奥に転移門があるはず、そこからなら外に出られる」
なんて出来た嫁なんだ!!
「ならその前に少し頼みがある」
ーーーーゼトギニシア大迷宮を転移門で脱出した俺達2人は大迷宮の外れの森に来ていた。
「ここらでいいかな」
土を盛り、さっきアイリスに頼んで取りに行ったダクタさんの剣を盛った土に突き刺した。
「残った物はこの剣しかなかったんだ。もっとちゃんとしたお墓を建ててあげれればいいんだけど、今はこれで我慢してくれよ。」
「誰のお墓?」
アイリスがキョトンとした顔でこちらを見る。
「ダクタさん。……俺の……『英雄』だよ」
空には満天の星が広がっていた。