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命の間

遂にこの時が来てしまった。

大迷宮入り口で攻略組一同が興奮した面持ちで集結している。


今回、総勢3百人の攻略組の指揮をとるのがセルヘイブ王国騎士団団長であるアリシテル・ユーステッドだ。


セルヘイブ王国騎士団は30人ほどで構成された組織で皆かなりの手練れが集まっている。


その中でもアリシテルは稀いる転生者で転移者と同じく異能スキル持ちである。


セルヘイブ王家の眷属の家系であるユーステッド家に転生し23歳の若さで団長にまで上り詰めたエリートだ。


眷属の中には転移者や転生者も多く、俺も本来なら眷属として活躍していたのだろう。

こんな役立たずな異能スキルでなければ……。


ステータスプレートを手に取り自分のステータスを確認する。


◆◆◆◆

須藤ユウキ

18歳

異能スキル:【禁忌の牢獄】

スキル:ーー

◆◆◆◆


この世界にはレベルは存在せず、己の身体能力とスキルが全てだ。

この異能スキルにより、一切の加護、スキルを取得できない俺は召喚された時点で大きなハンデを背負っていた。


「勇敢なる戦士達よ! 遂にこの日が訪れた! 大迷宮完全攻略を目前にした今、我々に与えられた使命は国王様の御前に古代錯誤遺物(オーパーツ)を献上するのみである!」


アリシテルの演説が始まり、兵士たちの指揮は更に上がる。


「我に続け!」


アリシテルのカリスマ性は凄まじい。

この場にいた誰もが、大迷宮の完全攻略を疑ってもいなかった。


そして大迷宮攻略が始まった。


大迷宮内には様々なギミックや罠が仕掛けられているが、攻略済みの階層は難なく進む事ができた。


今回、完全攻略に踏み切ったのはゼトギニシア大迷宮について記された古文書の解読に成功したからだった。



皆、モンスターや罠に対しても的確に対応し残すところ10階層のところまで攻略に成功した。


だが、俺はまだこの後起こる地獄を知らなかった。




ゼトギニシア大迷宮・90階層・命の間


90階層の奥に大きな扉を開ける。




広間の様な作りの奥に大きな祭壇があり、その上に沢山の燭台が置かれている。

薄ぼんやりとした灯りが灯る広間の両端には黒い甲冑に身を包んだナイト達が並んでいた。


バタンッ! と大きな音を立て扉が閉まる。


「ユウキ! ヤバくなったら俺の後ろに隠れろ! 俺が守ってやるからな! 騎士団の援護もあるだ! これくらいあっという間に片付くさ!」


ダクタさんそう言うと剣を構えた。


「俺だって冒険者なんだ! いつまでもダクタさんに頼ってる訳にはいかないよ!」


俺も剣を構える。


古文書の解読により、事前に騎士団長からこの階層について説明を受けていたオレ達はこのナイト達が動き出し襲ってくる事を知っていた。


ガタガタとナイト達が音を立てて動き出す。


「来るぞ! 全員構えろ!」


アリシテルの一声で全員戦闘態勢に入る。

ナイト達が勢いよく斬りかかってきた。剣で受けるも一撃が重い。


油断したらやられる……!


(つば)迫り合いの最中、ナイトの腹を目掛け蹴りを入れ体制を崩し大きく斬りつけた。


「よし! 一体倒した!」


命を賭けた戦いに血がたぎるのを感じた。

周りも次々とナイト達を倒している。


俺も負けてはいられない!


次から次えと襲いかかってくるナイトに剣で斬りつけていく。



戦闘が激化し少しずつ違和感を覚える。


何か変じゃないか?


敵の数が一向に減らない。

ナイト達の猛攻を受けながらその違和感は増していく。


団長は俺達にこの部屋の敵を全滅させたら次の階層の道が開けると言わなかったか?


目で団長の姿を探す。


あれ?団長はどこだ……?

まさか……やられてしまったのか!?

でもそれは考え難い。

団長はかなりの手練れのはず。

そもそも戦闘が始まってから前線にいた筈の団長の姿を見たか?


後方がざわつき始めた事に気づく。

後方に目をやると団長を中心にセルヘイブ騎士団達を大きな結界が囲っていた。


「団長! 一体どういう事ですか!? 私も中に……!」


兵士が取り乱し、結界を強く叩いていた。


だが、中からの返答はない。アリシテルは前だけを見てまるで初めからこうする事を決めていたように沈黙を守っていた。


「アリシテルさまァア! 何故ですかァア!!」


悲痛の叫びと共に兵士がナイトに切り捨てられる。


動揺は瞬く間に全体に広がった。次々とナイト達に斬られ倒れていく。


何がどうなってる!?


混乱する頭を整理しようと頭が焼けるような感覚がする。


何かこの状況を打開する方法はないのか!?


何度もナイトの重い斬撃を受け、手の感覚はもはや無く、痺れが強くなっていた。


ふと祭壇がナイト越しに見える。

祭壇の上に置かれた燭台のいくつかに青い炎が灯っているのが見えた。


あれは何だ?


さっきは灯りなんて灯っていなかった。

ひとつ、又ひとつと燭台に灯りが灯っていく。


「ぐぁっ!?」


目の前で冒険者が斬りつけられた。


「大丈夫か!?」


すぐさまナイトに一撃を喰らわし、斬りつけられた冒険者に駆け寄る。だが、もう彼は息をしていなかった。


燭台の灯りがまた増えている事に気づく。


団長が俺達に嘘の情報を与え戦わせた事。

騎士団達が安全圏で待機している事。

この部屋の祭壇に祀られている燭台。

そして…この部屋が命の間である事。



「……そういう事かよッ……!!!」


俺は気付いてしまった……。

この部屋の真実に……。

……そしてアリシテルの思惑に……!



この部屋から出るには燭台の数だけの俺達の命を生け贄に捧げる必要があるんだ。

かなりの数の犠牲が必要になる。だから、わざわざギルドにまで参加を募って数を揃えた。


そして騎士団の連中は結界の内側から高みの見物をして、燭台の灯りが灯りきるまで待てばいいだけ。


「クソ野郎がッ!!」


人の命をなんとも思ってない騎士団……!

この糞な作戦を了承したであろう国王……!

少しでも信用しかけた俺自身に腹が立つ!


燭台が灯りきるまで後どれぐらいの犠牲を出そうというんだ。


……灯りきるまで……?


その時一筋の希望を見つけた。


灯りきれば終わりなら、まだ灯っていない燭台を破壊したら……終わるのではないだろうか。


「倒しても倒しても終わりゃあしねぇ!! 全くどうなってんだ、こりゃあ!?」


ダクタさんの声だ!


「ナイスタイミングッ! ダクタさん! 俺の前を切り拓けるか!?」


「あぁ!? そんぐらいお安い御用よッ!!」


ブンッ! と大剣を振りまわしナイト達を薙ぎ払っていく。


「ありがとうッ!」


そうダクタさんに礼を言うと俺は全速力で走り出した。


ダクタさんが切り拓いてくれたこの道を!

このチャンスを逃しちゃダメだ!


ナイト達の攻撃を掻い潜り祭壇門前までたどり着く。


「あと少し……!!」


と次の一歩を踏み込んだその時。


「炎弾!!」


アリシテルの声だった。

俺の足元目掛け炎弾を飛ばしてきたのだ。

爆風で飛ばされ、壁に激突する。


「ユウキッ!!」


ダクタさんが俺の身を案じて叫ぶ。


くそっ! 何が起こった!?


俺は今、自分の身に起こった出来事を理解できずにいた。


「何をするつもりだ、我々の計画を台無しにするつもりか」


アリシテルの一言で全てを察する。


「このクソ野郎! あの燭台さえ破壊しちまえば、これ以上犠牲を出さなくて済むかもしれないんだ!!」


「それはあくまで可能性の話であろう? そんな不確実な事をして取り返しがつかなくなったらどうするつもりだ」


アリシテルはあくまで冷静に、そして冷酷に言葉を放つ。


「ふざけんな! 宝欲しさに人の命を犠牲にするなんてどうかしてる!!」


尚も増え続けるナイト達を相手にしながら俺はアリシテルに思いの丈をぶつける。


「我々の使命は王国に反映をもたらす事、 国王様を更なる高みへと導く事だ、その為には多少の犠牲は(いと)わない」


アリシテルが頭の中お花畑のイカれ野郎だって事は充分わかった。

だがこの状況が変わった訳ではない。


今味方はどれだけ残ってる!?


段々敵の攻撃が激しくなっているのを感じる。

それだけこちらの数が減ったという事なのだろう。

あとどれだけの燭台が残ってるのか、敵の猛攻に残りの燭台を見る余裕もない。


クソ! クソクソクソッ!! どうすればこれ以上死なせずに済む!?


頭がオーバーヒートしそうなほど思考を高速で廻らせる。


考えろ! 考えろ! 考え……。


とその時、敵の剣を払い隙ができたところをもう1体のナイトに斬りかかられる。


まずいッ! ……死ぬ!


「ユウキッ!!」


ダクタさんが俺を思い切り突き飛ばし、そして……。



目の前でダクタさんが斬られる光景。


嘘だ……。

嘘だ、ウソだウソだッ!!!!


「うぁああああああッ!!!!」


俺は目の前のナイト達を斬った。

ナイト達を蹴散らし、ダクタさんに駆け寄る。

ダクタさんは肩口からバッサリと斬られ大量の血が流れ出ていた。


「ダクタさん! 今止血するから!!」


そう言って自分の服を破き止血しようとする俺の腕をダクタさんが掴んだ。


「ユ……ウキ、もういい……。俺は……もう助からない……」


やめてくれ、そんな事言わないでくれ…!


感情が溢れて声にならない。


「ダクタさん……! 諦めないでくれよ……! 生きてて欲しいんだよぉ……!」


涙が止まらない。

まるで泣きじゃくる子供のように、涙が溢れた。


「お前は……何がなん……でも生きろ……」


ダクタさんの声がだんだん弱々しくなっていく。


「死なないでくれよぉお……。……頼むから……死ぬな……!」


その時、ダクタさんの手の力が抜けた。



「ダ……クタ……さん……。う……うぁあああーー!!!!!」




俺の悲痛の叫びとは裏腹に、最後の燭台に灯りが灯るのだった。

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