無能スキルの転移者
ゼトギニシア大迷宮・最下層・神殿の間
神殿の間の箱を囲うように聳え立っていた巨像達が動き出し侵入者達に牙を剥く。
巨像の振るう大剣で次々と攻略組は斬りつけられ、無惨に死んでいった。
次々と無慈悲に切り捨てられていく姿を目の当たりにして、恐怖が支配し身体中の血が凍っていくのを感じる。
ど、どうしてこんな事にッ……!?
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遥か昔、魔族と人間が永きに渡り激しい大戦を幾度となく繰り広げた。
魔族の強大な力の前に人間達は劣勢を余儀なくされた。
魔族が優勢に思われた大戦は神々が人間に加勢した事により一変する。
神々は人間達に様々な恩恵を授け、魔族に対抗する力を得た人間達と神々の勝利に寄って千年続いた大戦は終焉を迎えた。
それから1万4千年の時が流れ……。
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王都セルヘイブ・城下町
ここ王都セルヘイブはセルヘイブ58世が統べる王国で、まるで中世ヨーロッパの様な風情ある町並みだ。
この俺、須藤ユウキ18歳は半年前このセルヘイブの皇女様に召喚され異世界生活を余儀なくされた。
なんでもこの世界では古代錯誤遺物とやらを手に入れる為に、各国血眼になって自国付近のダンジョンを独占し日々攻略に励んでいるらしい。
古代錯誤遺物とは古の大戦で神々が人間に与えた恩恵のひとつで、古代兵器や魔導書、武具などがあげられる。
今の文明では到底到達できないほどの力があり、どれも強大で国ひとつ容易く滅ぼす事ができるという話だ。
そしてそのダンジョン攻略に必須なのが、転移者だ。
この世界では召喚者によって異世界から召喚された者を転移者と呼ぶらしい。
転移者は異能スキルを持って召喚される。
その力は様々でどれも強大だ。
まぁ例外もあるが……。
「おーい! ユウキー!」
野太い声がする方を見るとそこにはガタイのいいおっさんの姿があった。
「ダクタさん、こんにちは」
ダクタさんはこの城下町のギルドのベテラン冒険者だ。
半年前この世界に来て城を出てからこの人にはたいへん世話になっている。
「ついにゼトギニシア大迷宮の攻略の目処がたったそうだぞ! 千年以上あのダンジョン攻略にかかったが、遂に最下層までの攻略方法がわかったらしい!」
ダクタさんの興奮具合から凄い事だということが伺える。
「それは凄い事ですけど、なんでその話を攻略組から外された俺に?」
……そう、俺は攻略組から外されたのだ。
本来、ダンジョン攻略の為に召喚されたのだが、俺の異能スキルが問題だった。
【禁忌の牢獄】
全ての加護、スキルを得る事ができない。
禁忌に触れる事で牢獄から解放される。
……これが俺の異能スキル。
古の大戦で神々から授かった恩恵のもうひとつが【加護】だ。
加護を受けた人間も1万4千年の時と共に激減し、今では各国の王家や権力者しか加護の力を使える者が残っていない。
逆に言えば、加護の力を使えるものが国の実権を握ってきたと言っても過言ではない。
加護とは平たく言えば魔法の事だ。
そして加護持ちには眷属を作る事ができ、眷属と契約を交わす事で加護の力を分け与えられる。
そして恩恵は愚か加護の力も得られない俺には眷属の契約すらすることができないのだ。
その上、解除条件も意味不明。
言ってしまえばRPGで最初から呪いの装備フルセットで冒険に放り出されるようなものだ。
そういう事でダンジョン攻略の役に立たない俺は王国騎士団の攻略組から外された。
召喚魔法には色々制限があるらしく、元の世界に帰る事もできず客人という待遇を受ける事になったのだが、あまりにも周りの視線が痛く居心地が悪いので城下町に滞在する許可を貰い、城下町で生活する事にした。
国王も皇女も俺の身を案じてくれたが、止める事はなかった。
城下町で暮らす事を決めた時、右も左もわからない俺に住む家の手配やギルドの登録、冒険者のノウハウなど教えてくれたのがこのダクタさんなのだ。
「なんでもギルドに王国から依頼が入って、次のダンジョン攻略に王国騎士団と一緒に冒険者も参加する事になったんだよ! そんでもってお前の事もギルド長に推薦しといた!」
「はいッ!?」
何やってくれてんだ!? このおっさんッ!! さっきまで感じてた俺の感謝の気持ちを返せ!!
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 俺には最下層を攻略できるだけの力なんてありませんよ!」
全力で攻略参加を拒否する。
「まぁ待てって! 今回の依頼は大勢募集がかかってるんだ。多分次のダンジョン攻略で完全攻略するつもりなんだろうな。お前だって経験が必要なんだ。大丈夫! 俺だっているし、なんたって王国騎士団が参加するんだからよ! 大船に乗ったつもりでいろよ! ガッハハッ!」
俺の肩をバシバシ叩くとそのまま去っていった。
「ちょっと!」
と言っても聞いちゃいない……。
これは強制的に参加するハメになりそうだ。
「はぁ……」
ため息しかでない。
数日後、ギルド掲示板にダンジョン攻略のメンバーが貼り出された。
しっかりと俺の名前も記載されていたのは言うまでもない。