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第二話 誰からも愛される妹



「お父様、お母様見て!殿下からこんなに素敵なネックレスを頂いたの!どう、私に似合うかしら?」

「ああ、サーシャよく似合ってるぞ」

「本当ね、貴女によく似合うわ」

「殿下が自ら選んで送ってくださった物なんですって。私ずっと大切にするわ!」


 そう言って微笑み合う彼らの姿は、まるで絵に描いたような幸せな家族そのものだった。


「ねぇお父様、私ハリソン殿下と仲の良い夫婦になれるかしら?」

「サーシャなら大丈夫だ、何も心配する事はない。そもそもこの婚約は、王家から打診されたものなんだ。それに婚約には王太子殿下の意向が強く反映されていると聞いている。殿下自らがサーシャを、と仰っているんだ。いくら何でもそんな相手を無下にしたりはしないさ」

「お父様のおっしゃる通りだわ。以前一度だけ拝見したけれど、とても誠実そうなお方だったもの。サーシャならきっと大切にされるわ。貴女は私達の自慢の娘なのだから」


 優しい眼差しで自分を見つめる両親に、照れながらも愛らしい笑みを返す妹の周りを神聖な光が包み込んでいた。

 希少な聖魔法の使い手であるわたしの妹――サーシャ・ルーズベルトはこの屋敷の人間からとても大事にされ、同時に慕われていた。


 相手が貴族であろうと使用人であろうと、分け隔てなく接するその姿はまさに聖女のようだと周りは噂する。

 瞬く間にその噂は広まり、彼女を一目見ようと伯爵家には連日訪問客が後をたたなかった。

 その人柄の良さと、希少な聖魔法の使い手だと聞きつけた王家からの求婚状が届いたのはちょうど三日前。


 娘を溺愛する両親、彼女を慕う使用人達。

 物陰から覗いていたわたしに気付く事もなく、彼女は周りの人間を魅了してやまない、その天使のような微笑みを浮かべ口を開きかけた瞬間急に悲しげに目を伏せた。


「でも殿下はお姉さまの事を……」

「サーシャ、何も心配しなくていい。あれの事はお前が気にする必要はない。サーシャはただ幸せでいてくれたらいいんだ」

 

 欠点など見当たらないはずの彼女にはただ一つだけ誰にも言えない秘密があった。

 そう、輝かしい人生にどこまでも暗い影を落とすわたしという存在が――。


 目の前に広がる光景はどこまでも綺麗で、涙が出るほど幸福に包まれていた。同時に呼吸をするのが苦しい程の地獄のような光景をこれ以上見ている事が出来なかった。そうして、わたしは静かにその場を立ち去ろうと後ろを振り返ると、そこには冷たい表情の侍女長がわたしを見下ろしていた。


 思わず身体を強張らせると、彼女はわたしの腕を乱暴に掴み廊下をどんどんと進んでいった。

 ここで抵抗すると後でもっと酷い体罰が待っているから大人しく後をついていく。


 少し進んだ所で侍女長が立ち止まり、こちらを振り向いた瞬間頬に激しい痛みが走った。

 一瞬の間を空けてわたしは叩かれた事を理解し、反射的にその場ですぐに謝罪の言葉を口にした。

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