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転生したら森の中でした。  作者: コウ
第三章 ダイク 七歳
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第91話 森の恵み

翌日、午前はロゼとロデオの世話と魔法の練習に取り組んだ。

昼飯を食べ、午後からは森の管理のためにパトロールに出掛けることになっている。


「ダイク兄、もう行くよ!」

ロゼが俺の手を引っ張りながら言う。

「食べたばかりなのに、もう出掛けるの?二人とも、気を付けるのよ!」

ルバークはお茶を淹れようとしていたが、手を止めて俺たちを見送る。

「わかったから、引っ張らないで。ルバークさん、行ってきます。」

ルバークに軽く手を振り、家を出たところでロゼの手が離される。

「魚を見てからでいいか?」

「うん、いいよ!でも、早くね!」

家の前に干してある魚を確認すると、表面はいい具合に乾燥している。

今日の夕飯にでも焼いて、味の確認をしてもらおう。

魚を干物台へと戻して、森へと入っていく。


パトロールと言っても、ほとんど俺たちにやることは無い。

魔獣退治は鬼蜘蛛たちが森の入り口で行ってくれている。

折れた枝や食べられそうな果物があれば、採って回るくらいだ。

「ダイク兄、これはもう採ってもいいかな?」

小さな木に生える木苺を指差してロゼが言う。

「いいんじゃない?」

一つ摘まんで、ロゼの口に放り込む。

「どう、美味しい?」

「ん~、甘酸っぱくて美味しいよ!クガネも手伝って!」

「シラクモもお願いできるか?」

二匹の鬼蜘蛛は前足をあげて、木苺を収穫していく。

俺も収穫しながら、一粒食べてみるがまだ味覚は戻らない。


鍋がいっぱいになるまで収穫を続け、パトロールに戻る。


森は変わることなく、平和が訪れている。

少し風が冷たくなってきたが、植物たちは鮮やかに色づいている。

「マザーのところに寄ったら帰ろうか。」

一通り森を見て回り、特に異常は見つからなかった。

「そうだね!昨日採れたさつまいもも見せてあげなきゃね!」

ロゼと手を繋いで、マザーの住まう大樹を目指して歩いた。


「こんにちは、マザー。昨日戻ってきました。」

大樹を魔法で作った階段を登り、マザーに挨拶をする。


(戻ったか、ダイク。ルバークが元気になってよかったな。)


「ありがとうございます。森に変わりはありませんか?」


(あれ以来、平和な森が戻ってきたよ。)


あれ以来というのは、近くの遺跡に生えていた魔獣木を回収して以来ということだろう。

ロゼが小さな籠を持ってマザーに近づいていく。

「マザー、これね、昨日畑で採れたさつまいもと、今日森で採った木苺だよ!マザーにお裾分けだよ!」


(そうか・・・感謝する、ロゼ。)


ロゼは照れくさそうに笑いながら戻ってきた。

「じゃあ、マザー。今日はこれで帰りますね。何かあれば、呼んでください。」


(わかった。気を付けて戻りなさい。)


マザーに手を振って、大樹を下りる。

そういえば、ノームについて聞こうかと思っていたが忘れてしまった。

まぁ、いつでも来られるし、明日でもいいか。


階段を下りてすぐのところに、以前住んでいた俺とロゼの家がある。

家といっても、木の根っこの隙間に住み着いていただけだが、今改めて見てみるとかなり小さな隙間に感じる。

「ロゼも大きくなったな。」

隙間を見ながら言ったので、ロゼにも伝わったみたいだ。

「そうだね・・・。もうボクたち、ここには住めないね。」

ロゼは隙間に体を入れてみるが、入ることはできたがだいぶ狭そうにしている。

シラクモもじっと家の方を見ている。

ここでシラクモに、ルバークに会わなければ間違いなく俺たちは死んでいただろう。

隙間の家を見ていると、いろいろな感情が湧いてくるようだった。

「そろそろ帰ろうか。」

隙間に嵌っているロゼを引っ張り起こして帰路に着いた。


「お帰りなさい。ダイク君、ロゼ君。」

珍しく、ルバークが一階で作業をしていた。

「ただいま、ルバークさん!何してるの?」

「戻りました。珍しいですね、ルバークさん。下で作業をしてるの。」

「たまには下で作業をすることだってあるわよ!あらっ、それって昨日の魚よね?もういいの?」

家に入る前に、干物を手に持っていた。

「もうできたと思います。夕飯に焼いてみるので、感想をお願いしますね。」

ルバークは近づいてきて干物一切れを手に取り、いろんな方向から眺める。

「わかったわ。ダイク君が作ったんだもの。美味しいんでしょうね!」

特におかしなところは見当たらないのか、そのまま俺の手に干物は返ってきた。

「木苺を採ってきたんだよ、ルバークさん。ダイク兄、ルバークさんに見せてあげて!」

ロゼが言うので、アイテムボックスから取り出してあげる。

「まぁ、美味しそうね!一つ貰ってもいいかしら?」

ロゼが頷くと、ルバークは一粒を口に運んだ。

「うん、美味しいわね。ありがとう、二人とも。」

俺たちの頭を撫でて、ルバークは作業に戻った。


夕飯までにはまだ時間がある。

「ロゼ、木苺のジャムでも作ろうか?」

ルバークの側で作業を見守っているロゼに声をかける。

「ジャムってなぁに?」

「木苺を煮詰めて作るんだけど、パンに塗ってもいいし、お茶に入れても美味しいものだよ。」

美味しいと聞いて、ロゼは素早く調理場に立った。

「早く作ろうか!鍋はこれでいい?」

そんな様子を見たルバークはフフっと小さく笑っていた。

ロゼの準備した鍋に木苺を洗ってから入れる。

「採ってきたの、全部入れないの?」

不満げな表情をロゼは浮かべるが、そのまま食べる分もとっておきたかった。

「今日はこれだけ作るよ。美味しくできたらまた作ればいいしね。」

魔導コンロの魔石に触れて、木苺を煮詰めていく。

砂糖は無いので、基本的には煮詰めるだけだ。

甘みが足りないときは蜂蜜を入れることにする。

「ダイク兄は座ってていいよ!ボクがかき混ぜてるから!」

ロゼが鍋を焦がさないように木べらで木苺を混ぜてくれるので、やることのない俺は椅子に座ることにした。

「疲れたら言ってね。いつでも代わるから。」

「わかった!」

真剣な表情でロゼは鍋と向き合っていた。


ルバークの隣に座って作業を見ていると、手が突然止まる。

「ん~、いい匂いね。やっぱり、集中できないわね。」

「す、すいません。」

「ううん、違うのよ。謝らないで。最近、いろいろなことがあったじゃない?魔道具を作っていても、何だか集中できないのよね。いいアイデアも出てこないし・・・。」

スランプにでも陥っているかのように聞こえた。

「そうですか・・・。そういう時は一旦、魔道具から離れてみるのもいいんじゃないですか?」

ルバークと話していると、ロゼが振り返った。

「ダイク兄、これでいいんじゃないかな?」

立ち上がって鍋を覗くと、木苺がとろりとジャム状になっていた。

木べらで掬い、冷ましてからロゼに味見をしてもらう。

「どうかな?美味しくなってる?」

聞かずとも、ロゼの表情で察することができたが、一応聞いておく。

「酸っぱいのが減って、甘みが増えてるね!すごく美味しいよ!」

ルバークも俺の後ろからジャムに手を伸ばした。

「ん~、本当ね!甘みが強くて美味しいわ!お茶に入れてもいいんだって言ってたわよね!今からやってみましょうか!」

ルバークは席に戻り、魔道具を片付けお茶を淹れだした。


お茶にジャムを一匙掬って混ぜてルバークとロゼに渡す。

味の分からない自分の分には入れなかった。

「何これ!?すごく美味しいわ!お茶に入れると、甘みよりも香りがいいわね!」

「ほんとだね!いい匂いがもっと良くなったね!」

ロゼとルバークには好評だった。

この調子では、ジャムはすぐに無くなることだろう。


明日からは森に生えている果物を、出来るだけ集めることにしようと決めた。




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